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ともに踊る喜び

アルゼンチンタンゴは、数ある趣味のペアダンスの中でも飛び抜けて、パートナーと共に踊ること、二人の間のちょっとしたやり取りや感情の共有に重きをおくことで有名です。え、そうなの? という方のために少し説明しますと、タンゴを踊るときには、おおまかにいって、踊りと体験の側面があり、そのどちらもが同じくらい重要と考えられているのです。

踊りの方は、どう動く、どのステップをする、どんなふうに音楽を使う、といった、ダンス一般共通のことで、ステップやポーズが上手くいったら、やったね、とニンマリし、できなかったら、ちょっと練習しなきゃと思う、というようなことです。

体験の方は、今この瞬間、どういう因果かタンゴを一緒に踊っている二人の間で交わされる情動的なやり取り全部を含みます。え、ちょっと待って、遊びでダンスを踊ってるだけなのに「情動的なやり取り」ってなに? と思われるかもしれないのですが、このやり取りも込みで、遊びなのです。

……ますます怪しくなってきた🤔それ危なくない?😱ちょっとスリルあるかも😉……やや、あちこちから不信と好奇心の波が感じられますね。それでは、ミロンガで行き交う感情のあれこれを、タンゲーラ目線だけでなくタンゲーロ目線も織り交ぜてもうすこしご説明いたしましょう🌹
(タイトル写真:Photo by Preillumination SeTh on Unsplash


センサシオン

アルゼンチンタンゴを踊る場所であるミロンガでは、踊る相手をカベセオという独特の方法で誘い・誘われ、友達はおろか知り合いでもない人と踊ることもあるのですが、そのような状況下でも「情動的なやり取り」は起こります。少なくともタンゴを踊る人たち(含む私)はそう考えていて、そんなわけで、タンゴのソーシャルメディアグループやポッドキャストをのぞくと「Sensacionセンサシオン(タンゴを踊る時の感覚、感情をひっくるめたもの)」がどんなに大事か、などという話が頻繁にされているわけです。

このセンサシオンには中毒性があって、はじめは、よくわからね~、なのですが、踊りつづけるうちに、あ、気持ちいいかも、と引っかかってしまい、それを求めてミロンガに通い詰める、などということになるわけです(この手の体験談もソーシャルメディア上に多数)。

センサシオンはタンゴを踊る体験の一部なので、一回ごとに、また個人ごとに違う。したがって、センサシオンとはなにか? という質問には正しい答えはありません。それでもみんながそれについて語りたがるのは、それが、時にはびっくりするくらい深く強い体験だからなのです。

ナビゲーション問題

ミロンガでの体験を決定づける要素はいろいろありますが、その一つがナビゲーション。踊りながらどこに進んでいくかはリーダーの専権事項で(フォロワーは進行方向に背中をむけているので)その良し悪しはリーダーのランクを決定するといっても過言ではありません。

タンゴでは伝統的にリーダーに能動的な役割がふられていて、彼らがミロンガでかかる音楽を聞いて、こういう風に踊りたい、だからあの人と踊りたいと考え(もしくは、あの人と踊りたい、だからこの音楽で踊りたいと考え)アクションを起こすところから話が始まります。最初のアクションはカベセオなのですが、混みあった会場で相手への視線が途切れたり、他のリーダーも同時にカベセオしていたりで、意中のフォロワーへの招待がいつもスムーズにいくとは限りません。

そういう熾烈なカベセオを勝ち抜いたリーダーにとって、ダンスフロアとは自分の構想をダンスの形にし、パートナーとのセンサシオンの流れを満喫するための場所。そんなふうに心を傾けて踊っている時に横からドンとぶつかられたりしたら、おい、なんだよ! 気をつけろよ! となってしまうのは人情。ぶつかったほうは当然、おっと失礼! なのですが、場合によっては(例えば、今日は混んでるんだから、そっちももうちょっとアブラソをコンパクトにしてもいいんじゃねぇの、など)険悪な雰囲気が漂うこともあります。

このナビゲーション問題、ミロンガでリーダーたちを悩ませる問題ナンバーワンといっていいのですが、自分一人では解決できないのが難しいところです。

まず、フロアの込み具合は会場の広さと踊っている人の数によって毎回ちがいます。またフロアでは好きな所で踊っていいというわけではなくて、ロンダを尊重しないといけません。ロンダは踊っている人たち全体が進んでいく方向で、反時計まわり。フロア中心部の流れがほとんどない場所はダンスやナビゲーションに自信が持てない時に踊るスペースとされています。大きな会場ではロンダが複数、例えば内周と外周などにわかれていることもあります。特に外周はまわりに座って見物している人たちの注目を集められるので、踊りに自信がある人たちは競ってそこで踊ろうとします。リーダーたちはそういうロンダのあれこれを理解して、他人のダンスを邪魔しないように、パートナーの動きも含めて踊りを構築することになっているのですが、これが常に守られるとは限らない。

……外周でまったり踊っている自分とパートナーの斜め後ろから誰かがドン! おい、おまえ、内周で踊ってんだったらはみ出すなよ! と思った矢先に、ほかの誰かが前に割りこみ、危うくパートナーとぶつかりそうになって冷や汗、なんていうことが続いた夜は、センサシオンどころかサバイバルゲームになってしまう😭。

肩を並べて

「ミロンガでの体験っていうと、場所とか、どういう音楽がかかった、どんな人が踊りに来てたとか、食い物が結構うまかった、なんてことが話題になることが多いけど、俺的にはナビゲーションの質、すごい重要だよ。一晩中(ぶつかってくる人たちを)よけながら踊ってたらすごい疲れるもん」
「あるな~。けど俺らの闘いをフォロワーはどれだけわかってくれてんだろ? 彼女らいうじゃん、『あ、こんなに(フロア)混んでたんだ。目を閉じてたから気がつかなかったわ~』とか」

というのはロサンゼルスが拠点のタンゲーロスでタンゴ・キャスト『Left Foot Right Foot』のホスト Derek と Robert。彼らの話はダンス、音楽のみならず、お金やビジネスも含めた人間関係を若手男性ダンサーの視点から語っていて、なかなか新鮮(日本語オートダビング版も悪くない)。

あ、ゴメンね気づいてなくて、でも守ってくれてるのはちゃんとわかってるわよ💦とおもわず弁解口調になっちゃいますが、参加者のナビゲーションが悪いと疲れるというのは、さもありなん。この問題の解決のためにロンダの内周と外周を床に色分けしたミロンガもアメリカにはあるんだとか(トラック競技か~😅)。

あまりにナビゲーションがひどいダンサーは「(招待オンリーのミロンガでは)次から招待されなくなる」こともあるそう。ちなみに招待オンリーのミロンガとはオーガナイザーもしくはその友人・信頼する人から招待された人しか参加できないミロンガのことらしいです(これはこれでスゴイな~😮)。

ブエノスアイレスなどで時折聞くのは、ナビゲーションの悪い(おそらく初心者の)リーダーにイラついたミロンゲーロミロンガの常連がをひじを張って進路をブロックしたとか、肩を掴んでロンダの外に引っ張り出したとか(😱ですが「酔っ払い運転の取り締まりと一緒」という意見も)。ミロンゲーロミロンガの常連たちも意地悪一辺倒ではないけれど、やっぱり自分の時間を台無しにされたら黙ってはいないぜ、ということなのかなと思います。

ダンスは踊れなきゃならないわ、カベセオには勝たないといけないわ、パートナーをアクシデントから守らなきゃならないわでリーダーの皆さんは大変。おまけにナビゲーションまで厳しくチェックされたら、なんか息をつけるところがないですね……。

「でもね、みんなが同じ音楽を聞いて魚の群れのようにうごいていく、あれはホントに美しいじゃん。だから俺、そういう(ナビゲーションの)いいイベントに巡りあったら(一緒に踊っている人たちに)感謝の気持ちを表すのが大事、って思ってる。実際、何度か周りの人にいったことあるよ。『君らといっしょに踊れて本当に楽しかった!』って」

It was pleasure dancing next to you. ……なんてステキなフレーズなんでしょう。いわれた方はちょっと面食らったかもしれませんけど、そういうことをさらっといえるあなたも素敵だ、デレック🌹。そうよ、タンゴは競争とストレスじゃない。お互いに持ち寄って分かち合うものだもんね。
©Rico Unno, 2025, CC BY-ND


◀️自由といっても限られた自由度の中でのことなんだけれど… ▶️アナタとっても素敵よ、と軽やかに…

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