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『障害者になった日』──動き出す介護




【第5話】


 妻を施設介護にすると決めたものの、
まだ具体的には、

何も決まっていませんでした。



 家に帰りたい妻と、
それを受け入れられない現実。


 泣き叫んで嫌がる妻をよそに、
その時に私がした決断は『施設介護』


 はたして、その選択は、
正解だったんだろうか。



 ただ、それまで目の前の現実から逃げ続けた私が、
それを妻に告げた時から──


 ようやく"介護"という現実が、
本気で動き始めていました。



 妻の退院が迫る中で、

もう、私たちには迷っている時間がありませんでした。






その日。


病院へ行くと、ソーシャルワーカーから、
「障害者支援施設」の案内資料を手渡されました。


『奥様はまだお若いですし、
リハビリへの意欲もあります』

『ここが奥様に合っていると思います』




その施設は都道府県に、
わずか数か所しかない公的な、
リハビリ専門の施設でした。


入所期間は最長で1年半。


しかも、民間の介護保険施設と違い、
費用は大幅に抑えられていました。



【入所の条件】
・障害者手帳の保持
・特定16疾患(脳卒中など)に該当
・リハビリ継続の必要があること
・65歳未満であること(若年優先) 


妻はそのすべてを、満たしていました。



私はすぐに施設の見学へ向かい、
生活環境やリハビリ内容を確認。

そして、確信しました。


「間違いなく、
今の妻にはここが一番いい」
と。


ただ、問題は“空き”でした。
まだ入所できるかは未定。

ソーシャルワーカーからは、
万が一に備えて、


『空きが出ない場合は一旦、
介護保険施設を使うか、
在宅で凌ぐ方法もあります』
と。


けれど、それが難しいことは、
私にはわかっていました。


それまでに、いくつもの民間の介護保険施設へ、私はすでに足を運んでいました。

そこは費用も、場所も、通院の条件も、今の状況から言えば、
どこも入所するのは厳しいものでした。


かといって、
今の状態のまま一旦とはいえ、
家に戻れば──


もう“二度と妻は施設に入らない”
と言うことも明らかでした。





私には、この『障害者支援施設』への入所を選択する以外にありませんでした。



それからは何度も、
その施設のケアマネージャーと連絡を取り、状況確認や入所のお願いをして。



また、信心深くもないのに、
夜な夜な両手を合わせながら。


「神様、どうか…」


と祈り続けていました。





数日後──


スマホに、一本の通知。

その『障害者支援施設』の
ケアマネージャーからでした。


8月16日から、
奥様の受け入れが決まりました。

ご説明がありますので、都合の良い時に施設までお越しください。




その入所日は、ちょうど退院当日。
タイミングも完璧でした。


「願いって、叶うもんなんだな」
心から、そう思えました。

ほんの少しだけ、
先が明るく見えた気がしました。



ただ、その時、
肝心の妻は、まだ──


家に帰ることしか頭には、
ありませんでしたが。



さて、どうしたものかと。







『障害者になった日』
──動き出す介護【完】


▼この話は『最終話』へ続きます。


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