『介護が始まるとき』──ゴマシオ会議 【前編】
施設介護編
【第12話】
その頃の妻は、すっかり白米を食べることがなくなっていました。
おかずは食べるものの──
それはダイエット目的でもなく。
栄養士さんからも心配されて
『どうしたら奥様が、
食べてくれると思いますか?』
と相談を受けていました。
私には分かっていました。
妻が白米を食べない理由を──
障害者支援施設に入所して、
私たちが最初に感じた壁は、
その"規則"でした。
そこに書かれているものは、
入所者の事情に関わらず、
例外は認められないというものでした。
妻を悩ませていたのは、
その「食事」でした。
病院では患者ごとに、
個々の病室に配膳されていた食事も、
施設では、
決められた時間に食堂へ向かい、
自分で受け取り、
席まで運ぶスタイルでした。
規則として、
そこへの食べ物の持ち込みは禁止──
それが妻にとっては、
大きな問題でした。
昔から妻は、
おかずと白米を別々に食べることを好み、
白米だけで食べるのは苦手でした。
なので、
なにかしら『ふりかけ』や味を添えないと、白米を完食できませんでした。
その中でもお気に入りだったのが、
『ゴマシオ』でした。
入院中は、
こっそり部屋に持ち込んでいたほどで、
白米の日には欠かせませんでした。
施設の食事でも当然のように、
白米が出ていましたが、
味が足りない妻は毎食のように、
白米だけを残すようになっていきました。
そんな妻を見かねた栄養士さんが、
私に相談しに来ていたのです。
『どうしたら奥様が、
食べてくれると思いますか?』
それに対して私は、
『ゴマシオがあれば、
食べるようになると思うんですが、
何とかなりませか?』と。
栄養士さんから、
施設側に聞いてもらいましたが、
結局、施設のルールにより、
“私物の調味料持ち込み”はNGでした。
けれど私には、
それをすんなりと受け入れることは、
できませんでした。
病院でもできていたことが、
生活する場である施設で、出来ないことはおかしいと。
職員や栄養士の方々にも、
それから何度となく、
相談しましたが変わらず。
そしてそれは、
かつて施設も経験したことのない、
『ゴマシオ会議』にまで、
事態は発展していくことになります。

『介護が始まるとき』
──ゴマシオ会議 【前編】
【第12話 完】
▼この話は第13話
ゴマシオ会議 【後編】に続きます。
▼前回の話 第11話
『洗濯という訓練』
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