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『介護が始まるとき』──ゴマシオ会議 【後編】




施設介護編
【第13話】





 その時の私は──



そこは生活をする場だと
思っていました。




 仮に規則が、
生活に支障を来たすのであれば、

それを変えるか、もう少し柔軟にできるものと考えていました。



 ただ、そこは"規則"が絶対でした。


 妻の場合は、
ご飯に掛ける『ゴマシオ』について。


 それについて、
話し合う日を迎えていました。








その会議は、
平日の昼過ぎから。



私は仕事を休んで、
参加しました。




その内容は、

妻の食事にゴマシオを付けるか否かを、
大の大人たちが集まって、
真剣に話し合うという──




施設にとっても、
前代未聞な会議でした。





その会議──


私は妻の事情を説明し、
それが決してわがままではないことを伝えました。

栄養士さんからは、


『栄養面からの不安や、
渡すなら、アルミホイルに包んで配膳のときにどうか』

という提案もされました。


けれど、真面目な事務員は、


『それでも規則ですし、
他の入所者が知ったらどう思うか』


の一点張り。


……知ったら、どう思うと?



しばらく話し合いの時間が続き。


最後は、
髭の生やしたハゲの院長が、

『まあ施設のルールですから、
守ってもらう以外にないでしょう』


──それで終了。


その後も訴えるも、
いっさい受け入れられることも、
改善策すらもありませんでした。




いったい何のための
会議だったのか──





施設の事情は考慮しても、
こっちの事情には、

一切考慮しないという……





──とはいえ、




妻がご飯を食べることが出来ないのは、
心配でした。


何よりそれは栄養的にも、
やはり問題があったらしく。







それから、ある日。


妻のごはんの横に、

そっとアルミホイルに包まれた
『ゴマシオ』が添えられているのに気づきました。


……誰が?


とは、
確認はしませんでしたが、
すぐに分かりました。


それは、あの栄養士さんの、
ささやかな優しさでした。

妻に少しでも、
楽しく食事ができるようにと──

そんな『思いやり』が、
そのアルミホイルに感じました。


私は軽く会釈をして、
お礼を伝えました。

栄養士さんは、

指を口にあてて、
「内緒です」のポーズしながらニッコリと笑ってくれました。






そのアルミホイルは、
妻のトレイに添えられるようになりました。

それからすっかり白米を残さずに食べるようになった妻が、

そんなことがあったとは知る由もなく。






施設では妻が退所した今も、
ゴマシオを付けることは認められていません。









『介護が始まるとき』
──ゴマシオ会議 【後編】

【第13話 完】




▼この話は、第14話
『同室の白崎さん』へ続きます。



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