『介護が始まるとき』──同室の白崎さん
施設介護編
【第14話】
ある日──
その施設の8人部屋に、
ひとりで入居していた妻のもとに、
新しい入所者がやってくることになりました。
極端な人見知りであり、
すっかりそれまでの
“ひとりの暮らし”に慣れていた妻は、
その知らせに、
少し顔を曇らせていました。
けれど私は、
どこか安心してもいました。
施設は、
夜間や休日の職員が、
とても少なく、
何かあっても、
すぐに気づいてもらえるとは限らず。
てんかんの発作が、
再び起こる可能性もあり──
そう思えば、
誰かが同じ部屋にいてくれることは、
むしろありがたいと感じていました。
その前日にはすでに、
部屋の一角に、
新しいベッドや棚が運び込まれて、
荷物を置くためのスペースも整えられていました。
……できれば、穏やかで、
妻と相性の良い方だといいな
施設では妻とふたりで過ごす時間が多かった私も、
なぜか緊張していました。
また同時に。
妻のいるフロアは女性専用であり、
これまでは妻ひとりの入居だったため、
私も自由に出入りしていましたが、
同室に女性の入所者が加わるとなれば、
これまで通りとは、
いかなくなるかもしれないな……
などと環境が変わることへの、
寂しさを少し感じていました。
その当日。
新しい入所者が、やってきました。
『白崎です! 新しく入りました!
よろしくお願いしまーす!』
車椅子に乗って部屋に入ってきた
その『白崎さん』は、
明るく通る声と、
笑顔がとても自然な方でした。
その瞬間、
胸を撫でおろしました。
見た目の印象からして、
妻よりも5つほどは年下の感じ。
話し方も雰囲気も柔らかく、
“性格の良さがにじみ出る人”
という印象でした。
施設の職員から、
ひと通りの説明を受けると、
白崎さんは持ってきた荷物を、
ごそごそと整理をしはじめました。
それから──
車椅子で妻のもとに近づき、
ニッコリと笑顔で手を差し出しました。
『これよければ。
引越しのご挨拶です』
その手の平には、
かわいらしい包みに入った
アメがいくつか。
妻も私もすぐ、
そんな白崎さんに、
顔を緩めていました。

『介護が始まるとき』
──同室の白崎さん
【第14話 完】
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『白崎さんが泣く理由』へ続きます。
▼前回の話 施設介護編 第13話
『ゴマシオ会議 後編』
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