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『介護が始まるとき』──白崎さんが泣く理由






施設介護編
【第15話】





新しく入所してきた白崎さんは、
とにかく明るく、
誰とでも気さくに話す方でした。




妻と同じ元看護師だった彼女は、
ある病気により突然、

足に力が入らなくなり、
車椅子生活になったようでした。



『ふつうは早く回復するんだけど、
なぜか私は治りが遅くて……

体が大きいからかしら。アハハハ』






と、あくまで明るく笑って、
返してくれました。








妻の部屋は女性フロアであったため、

男性の面会は原則、
共有スペースでの対応。


私は妻との時間が減ることを
気にしていましたが、


白崎さんは、

『私のことは気にしないで。
今まで通り奥さんと過ごしていいのよ』

『でも、夫婦の秘密、
聞き耳立ててるかもね? アハハハ』





おかげで私はこれまで通り、
妻と安心して過ごすことができました。





さらに白崎さんは、
妻の身の回りのことまで何かと手伝ってくれて、


私はただただ白崎さんに、
感謝するばかりでした。







ある日──



その日は妻の理学療法に付き添い、
リハビリルームまで一緒に向かっていました。

途中で訓練に必要な“台帳”を
部屋に忘れたことに気づいて、

私は取りに戻ることにしました。




エレベーターを降りて、

廊下の奥にある妻の部屋の方へ
歩いていくと──


部屋の中から、
女性の声が聞こえてきました。


近づくにつれて、
それは"泣き声"と分かりました。



そっと、
部屋を覗いてみると。

白崎さんが壁に向かって、


声が漏れないように
手で口を押さえながら、
こらえるようにして泣いていました。





私は部屋に入るのをやめて。



台帳も取らずに、

そのまま妻のいる
リハビリルームに引き返しました。






『介護が始まるとき』
──白崎さんが泣く理由

【第15話 完】





▼この話は、施設介護編 第16話
『白崎さんの春』へ続きます。



▼前回の話 施設介護編 第14話






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