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『介護が始まるとき』──白崎さんの春






施設介護編
【第16話】






入所してきた白崎さんは、
とにかく明るく元気な方で、

すぐに周りとも打ち解けていきました。




一方の妻はマイペース。

あまり他の入所者と関わることもなく、
部屋でスマホを眺めて過ごしたり、

ひとりで黙々と
自主トレーニングに励んでいました。



……まあ、そこは、
障害は関係ないか。







施設の食堂は、

男女フロア共通の自由スペースとして、
開放されていて、

私は妻との面会時には、
よくそこへ立ち寄っていました。




同室の白崎さんは、

『私のことは気にしないでね』

とは言うものの。



女性部屋ということもあり、
私は部屋で過ごす時間が偏らないように、


妻と面会のときは、
なるべくその食堂で過ごすようにしていました。




白崎さんもまた、
施設で仲良くなった人たちと、

食後は毎晩のように、
その食堂で楽しそうに過ごしていました。






やがて入所の期限により、
多くの人たちが、

退所していくなかで──


白崎さんは、

同じ時期に入所していたある男性と、
一緒に過ごす時間が増えていきました。



隣に並んでテレビを観ていたり、
お菓子を分け合っていたり、

ふたりだけの会話が続いている夜も、
よく見かけるようになりました。


周囲の誰もが、
それについては口にしませんでした。



施設としては、
好ましくない関係のようでしたが、


周りも白崎さんとその男性を、
そっと見守っていたように感じました。







それから、
その時期──


白崎さんも、
入所の期限を迎えて退所しました。



ただ、面会が可能な時間になると、

その男性を訪ねて白崎さんは、
わざわざ施設へ通っていました。



そして、
その男性も退所。



それから次第に、
白崎さんの姿を見かけることもなくなっていきました。



──ふたりがその後、
どうなったのかは分かりません。





けれど──


あのときの白崎さんは、

いつもより輝いて見えていたことを、
今でも覚えています。



そして妻はまた、
一人きりになりました。







『介護が始まるとき』
──白崎さんの春 

【第16話 完】





▼この話は、第17話
『帰りたい妻』へ続きます。




▼前回の話
『白崎さんが泣く理由』






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