『介護が始まるとき』──帰りたい妻
施設介護編
【第17話】
施設入居が始まってから、
すでに半年が経過していた頃の話。
そのときに妻が望んでいたのは、
やはり、『家で暮らすこと』でした。
施設での充実したリハビリの成果もあり、
妻の回復は、
病院にいた時ほどではないものの、
着実に進んでいました。
歩行も4点杖をつかいながら、
100メートルまで歩くことが出来るようになり、
また発語や認知の能力も向上していました。
それに伴い、『家で暮らしたい』という
意識も高まり──
その頃の妻が泣く理由は、
いつも決まっていました。
『おうちに帰りたい』
仕事帰りの夜、面会に立ち寄ると。
部屋でひとりで泣いている
妻の姿をたびたび見かけていました。
『在宅介護』よりも、
今は『施設でのリハビリ生活』を
選択したのは"私"でした。
妻の泣いている姿を見るたびに、
胸が締め付けられていました。
……はやく帰りたいよな。
ごめん。
と心の中で繰り返しながら。
同室の白崎さんも、
妻を気にかけてくれていました。
『今日は一日泣いてました。
でも奥さまは、ちゃんとリハビリやるからすごいですよ』と。
妻には、
『ここにいられる期限は限られてる。
今はしっかりリハビリして家に帰ろう』
と励まし続けていましたが。
その頃の妻は、
気分の落ち込みもひどく。
私の顔を見ては泣くばかりで、
話す機会もほとんどなくなっていました。
──それから、しばらくして。
思いつめた妻が、
ついに施設を騒がす行動を起こします。
そのときの私は、
そんなことすら、
まったく想像できずに。

『介護が始まるとき』
──帰りたい妻
【第17話 完】
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