初めての外泊──穏やかなリビング
【第5章 番外編 その2】
脳出血で倒れてから半年ぶりの帰宅。
それはわずか一泊だけの外泊許可でしたが、私たちには特別なことでした。
それまで“当たり前”だった、
日常に触れるという──
介護タクシーの中でも、
妻はニコニコしていました。
まだ言葉はたどたどしくも、
窓の外を指さして一生懸命に何かを話そうとしていました。
自分の家に帰るだけなのに、
まるで旅行で目的地へ向かうように。
実は妻へのサプライズで、
真っすぐ家には行かず──
お昼ご飯は、
妻がずっと食べたがっていた焼肉屋へ。
家族全員で食べる予定にしていました。
子ども達には、
焼肉屋で先に待っていてもらい、
介護タクシーには待機してもらって、
車椅子のまま店に入り、
子ども達と合流しました。
「外泊おめでとう!🎉
ママ、本当によく頑張ったね!」
『ねえ、ママって凄いと思わない?
死んでもおかしくない状態から、
こんなに早く、焼肉を食べに行けるようになるんだからさ』
と、私が子ども達に言うと、
妻は少し照れたように笑っていました。
妻はまだ、焼肉をほとんど食べられませんでしたが、泣いたり笑ったり。
本当に久しぶりに、
そして賑やかに──
家族全員が揃って食事をしました。
焼肉屋を出て、子ども達とは別れ、
そのまま私と妻の二人で、
また介護タクシーに乗り、
家へ向かいました。
家に着き、私に支えられながら、
妻は杖を使って自分の足で家の中へ入りました。
「おかえりなさい」
と優しく声をかけると、妻は涙。
車椅子でリビングへ行き、
ひと息つくと、
妻はリビングのテーブルにうつ伏せになり、そのまま寝てしまいました。
朝から興奮し続け、移動に外食と、
よほど疲れた様子でした。
思えば──
妻が倒れたあの日、あの時から。
こんな日が来るとは想像すらできず。
妻がそこにいるだけで、
いつもと何ら変わらないリビングが、
いつもより優しく、
穏やかになった気がしました。

初めての外泊──穏やかなリビング【完】
▼『番外編 その3』へ続きます。
▼前回の話 妻の半年ぶりの帰宅
▼この話は『第5章』の番外編です。
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