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『破壊される家計』──人として生きるために必要なもの


【前書き】


 これまで10年近くに及ぶ、妻との介護生活を振り返ってみても思います。

 この記事のタイトルにもしていますが、

人として生きるために必要なもの──



それは、"お金"です。


 やや極端な言い方であり、また寂しくもありますが。

 私たちにとっての介護は、愛情や同情だけで出来るほど、決して甘い世界ではありませんでした。


 これから綴るのは、まだ介護に至る前、
私たちが"お金"に一番厳しかった時の話です。

 けれど、そこが本当の意味でのスタートラインであり、
今も続いているこの若若介護の原点です。


 できる限り、当時をありのままに
──綴っていきたいと思います。



 引き続き温かい目で見ていただけたら幸いです。


2025年8月吉日
何ごともお気楽に




※この話の本編は、
第一部 『破壊される家計』──開かないiPhoneと奈落の底で踏みとどまる時
の続きです。




【反撃編 第1話】



開いた妻のiPhoneには──

ネットバンクや証券会社のアプリ、
メモにIDとパスワードが、
驚くほど丁寧にまとめられていました。


「やはり、ここにあったんだな…」


妻がこれまで、
どれほど几帳面に家計を守ってきたのか、

ようやく少しだけ、
分かった気がしました。




私はネットバンクにログインし、
まず家の残高を確認。

表示された金額を見て、


『このお金があれば、
なんとか一時的に凌げるかもしれない』


と、少しだけホッとしました。


妻が倒れてから、
ずっと地面のない場所にいるような感覚でしたが、


その足元に、ようやく爪先が触れた──そんな瞬間でした。









ただ──
それだけでは全く【お金】は足りず。




家にあったその残高では一時的に、
医療費や生活費の請求書を賄うことはできても、

これからの、
“看病や生活そのもの”が、
立ち行かないことは明らかでした。





それから、まもなくして。



寒々しく無機質に機械音だけが鳴り響くICUで──

私は意識のない妻の横に座り、
証券口座を開き、株の値動きを見つめながら、

──そのまま『デイトレード』
始めていました。


それをするのは、初めてでしたが、

むしろ当たり前のことのように、
スマホで売り買いを躊躇なく繰り返していました。


始める前は、
少し葛藤もしましたが、

その時の私には不思議なほど、
迷いがありませんでした。






わずか一週間で、
これまでの日常が崩れさり、



異常とも言える精神状態の中で──



その時の世界は、
私には全てが歪んで見えていました。



またデイトレードを選択した動機も、
ひどく安易なものでした。

仮に失敗すれば、そこで全てが終わることだけは明解なのにも関わらずに──



・株の知識や経験が少しあったこと
・デイトレードなら、目の前の妻の看病をしながらできること
・何より、上手くいけば一発逆転が狙えること


その理由は──普通に考えれば、
子どもの理屈に近いものでした。



ICUでスマホを手にしながら、
株取引の画面を見続けていた私は、


"たぶん誰もが、自分と同じ状況なら、
──そうするはず"



それが自分には正しい選択だと、
言い聞かせていました。



どうせ終わるなら──
やれるだけやって、終わってやる。




と意気込みながら、ただひたすらに、
私はデイトレードにのめり込んでいきました。








追い詰められたその時に、
私が選んだもの。



それは、
デイトレードと言う名の、


ただの
"ギャンブル" でした。




しかもそれは、

人生と、
かけがえのない家族を、


賭けるという──



あまりにも愚かで、
悲しい選択でした。





『破壊される家計』
──人として生きるために必要なもの【完】


▼この話は、
第2話 ICUで始めたギャンブル
に続きます。







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