『破壊される家計』──開かないiPhoneと、奈落の底で踏みとどまる時
予期せず──
一週間も経たないうちに、妻は倒れ、
息子は姿を消し、
そして私は──
特殊詐欺にすがろうとするほど、
追い詰められていた。
このままでは、絶対に終われない。
それは目の前の現実に対して、
私が抱いた復讐にも近い決意だった。
まず私が手を付けたのは、
妻のiPhoneでした。
そもそも妻に『家計』のすべてを任せていたため、
私はこの家に、いくら残っているのかを知りませんでした。
家の中には通帳らしきものは一切なく、
どうやら妻は、銀行や証券など、
すべての金融口座をネットで管理していたようでした。
私が、それまで、
妻のiPhoneに手を出さなかったのは、
混乱の最中だったこともありますが、
すでに何度かパスコードの入力に失敗していたからです。
iPhoneは10回間違えると、
初期化される仕様のため、
──それが怖くなり、しばらくは触れることもできませんでした。
けれど、
この経済的な状況を乗り越えるには、
妻のiPhoneを開く以外に、
方法がないことは明らかでした。
5回目、6回目とパスコードを入力しましたが、どちらも容赦なくiPhoneに弾かれました。
専門の業者にも相談しましたが、
「開けられるかどうかは五分五分」
と言われ、
私は8回失敗した時点で、
残り2回は業者に頼もうと決めていました。
それでも、7回目に挑戦しました。
結果は、またしても失敗──
焦りが募る中、
何か手がかりはないかと、
家中をひっくり返すようにして探しました。
そして、本棚の奥から一冊のノートを見つけました。
──それは、妻がつけていた日記
中には、日常の出来事や、
子どもたちへの想い、
そして私への言葉が並んでいました。
ペラペラとめくっていくと、
その中に、ある数字の並びがありました。
私はそれを見た瞬間、
ピンときました。
なぜか──
『これだな』
とそのとき確信しました。
そして、その数字を入力。
……すると、
8回目にして、iPhoneは、
あっさりと開きました。
画面が明るく光ったとき──
私は思わず、
『はあ』と深く息を吐きました。

そこに表示されたのは、
ネットバンキングのアプリ、証券口座、その時の「家の命綱」となる情報の数々でした。
それは十分とは言えませんでした。
けれど、
踏みとどまるには──
それで、じゅうぶんでした。
『破壊される家計』──開かないiPhoneと、奈落の底で踏みとどまる時【完】
『破壊される家計』
第一部 終
▼この話は、第二部 反撃編に続きます。
▼前回の話
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▼この話は『若若介護』シリーズの一編です。全体構成【目次】はこちら。
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