『破壊される家計』──地の底を這いずり回る醜態と苦痛
その時、
妻は脳出血で、
ICUに運ばれ意識を失い。
息子は集団自殺を図り、
行方不明だった。
家族が壊れていく音だけが、
確かに聞こえていた。
そこに追い打ちをかけるように、
収入は激減し、請求書だけが積み上がっていく──
そして私は、特殊詐欺に遭う。
被害額よりも、心が崩れる音の方が、
遥かに大きかった。
ピッ…ピッ…と、
バイタルを示す機械音だけが、
静かに鳴り響くICU。
目の前にいる妻は、
まだ意識を取り戻していませんでした。
私が“あの特殊詐欺”に遭ったのは、
それがまだ社会問題として広く認識される以前のこと。
指定された口座に現金を振り込み、
すべてが終わったあとで、
それが詐欺だったと気づいた瞬間──
その衝撃は、言葉にできないほどの破壊力がありました。
「いったい俺は、何をしているんだ…?」
自律神経が異常をきたしたかのように、
手が震え、心拍がバクバクと音を上げて、
額から汗が吹き出し始めました。
座っていることすら、
ままならないほどの"めまい"に襲われて。
……それと、ほぼ同時に、
恐ろしいほどの自己嫌悪に苛まれました。
自分の愚かさと情けなさが、
どうしようもない嫌悪感になって
込み上げてきました。
私は洗面台にしがみつきながら、
何度も嗚咽し、吐いていました。
また、そのときの私は、
まるで自分が重大な罪を犯したような感覚にもとらわれていました。
警察に相談することもできず、
小さな自尊心から誰かに話す勇気も持てずに、
ただ黙って、この出来事を自分の中で、
抱えるしかありませんでした。
気づけば、私は生まれて初めて、
天に泣きついていました。
信心深くもないのに、
妻の寝ているベッドの脇で、
両手を合わせて何度も願いました。
『お願いです。
もうこれ以上、追い詰めないでください。
お願いします──』
──それが、あのときの私でした。
頭が悪く、身勝手で、情けなく、
大事なときには泣き喚くことしかできず、醜態を晒していました。
まさに、
"無様"
そのものでした。
それでも──
そのとき、
私の心にわずかに残っていたのは、
こんな感情でした。
『騙す側』じゃなくて、
『騙された側』でよかった
それが唯一、
私自身『人』として保たせた、
ほんの僅かな救いだったのかもしれません。
『破壊される家計』
──地の底を這いずり回る醜態と苦痛【完】
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