『破壊される家計』──その限界が、特殊詐欺という悪意を呼ぶ
人は、追い詰められると──
何にでも、すがりついてしまうのかもしれない。
ICUに眠る妻。突然消えた息子。
そして崩壊する家計。
「破産」という言葉が、
現実になりはじめたその日。
救いのように見えた、地獄からの手紙。それが、“特殊詐欺”だった。
異常ともいえる精神状態のなか──
目の前にある現実は、すべてが歪んでいた。
頭の中では常に、『破産』の2文字が、
チラついていました。
精神的にも私は、
追い詰められていました。
調べて分かったのは、
とりあえず動かせる現金は300万弱、
株や投資信託が150万程度。
どんなに掻き集めても、
500万円には満たないという現実でした。
一方で、支出は──
学費、医療費、住宅ローン、生活費などが重なり、最も多い月は180万円近く。
給与収入ではとても追いつかず、
計算する限り、
遅くともあと半年以内には、
"自己破産"することが明白でした。
さらに事態を不安にさせたのは、
結婚してから家計の一切を妻に任せており、
──どこに何があるかすら分からない
状態だったこと。
ICUで意識のない妻の横で、
私は文字通り、途方に暮れていました。
『どうしたらいいんだろう』と。
そんな最中に、
あの「息子の自殺騒ぎ」が起きていました。
妻の病気、
息子の自殺騒ぎ、
家計の急変──
すべてが、ほぼ同時に。
不安と恐怖だけが、渦を巻いていました。
けれど、始まったばかりの"惨事"に、
かすかな光すら見い出すことはなく。
私の精神状態は、
すでに限界を超えていました。
目の前で巻き起こる現実に、
体をガタガタ震わせ、怯え続けるしかありませんでした。
そんな中で。
いや──そんな時だからこそ、だったのかもしれません。
私は"特殊詐欺"に出会いました。
被害額は10万円。それは、明日の生活にすら恐怖していた私には、あまりにも痛い“勉強代”でした。
まさに、『不幸が不幸を呼ぶ』という
言葉そのままの出来事。
ICUで寝ている妻の横で、
ネットを見ていた私は、
ある"投資サイト"をたまたま目にしました。
運用成績や評判が高く、
誰もが知る芸能人や文化人からも高評価を得ているように見える
──そんな内容でした。
お金を預けておくだけで、
月に1.5〜2倍になる。
投資先は、
金利の高い発展途上国の債券。
リスクはあるが、国が破綻しない限りは、
毎月金利が受け取れるという
──そんなふれこみ。
普通に考えれば、
そんなバカな話です。
私も、そう思います。
ただ、それは──
“普通に考えられる状態”ならの話。
このときの私は明らかに冷静ではなく、頭の中はただ、
「この状況を何とかしなければ」
だけでした。
缶コーヒー1本を買うのも、
ためらう日々の中で、
私は──
そのなけなしの大事なお金を、
いともあっさり、
特殊詐欺の口座へ、
振り込んでいました。

『破壊される家計』
──その限界が、特殊詐欺という悪意を呼ぶ【完】
▼この話は続きます。
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▼脳出血で倒れる妻
▼息子の自殺騒ぎ
▼『若若介護シリーズ』の全体構成【目次】はこちらです。
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