見出し画像

『介護への道』──介護の足音





妻が目を覚ます前の数日間──



私はほとんどの時間を、
ICUにいる妻のベッドのそばで過ごしていました。




買い出しや洗濯のため一時的に病院を離れる以外は、


ICUの中にある椅子に座り、
時にはベッドの周囲を歩き回ったりしながら──


妻に話しかけたり、
音楽を聴かせるようにしていました。






『壊れた脳細胞は元に戻らないですが、
それを補うように、
別の神経が発達してくるようになります』






そう医師から聞いていた私は、
少しでも刺激になればと──




途切れることなくそれを、
続けていました。







そんなある日。




理学療法士が、
妻の身体に軽く触れながら──




『奥様の……右側の反応が鈍いですね』


その言葉が、
胸に突き刺さりました。


確かに右手は握られてはいましたが、

それが開くことはなく、
腕にもまったく力が入っていませんでした。



右足も硬直したように、
まったく動いていませんでした。






ただ──
私は薄々気づいていました。



妻の身体が術後から、
左と右で反応に明確な違いがあることに。




けれどそのときの私は、
【それ】が何を意味するのかを──




そのときは聞きたくなかったし、
知りたくないだけでした。




"介護の足音"は、
確実に。


──私たちに近づいていました。










『介護への道』──介護の足音【完】



▼『希望のないMRI画像』へ続きます



▼前回の話






▼このシリーズのマガジンは、
こちらからご覧になれます。



▼この作品は『若若介護』シリーズの一部です。  その他の話やシリーズは目次からご覧になれます。

いいなと思ったら応援しよう!

何ごともお気楽に よろしければ応援とフォローをお願いします。 チップはクリエイターとしての活動費にいたします!