『介護への道』──介護の足音
妻が目を覚ます前の数日間──
私はほとんどの時間を、
ICUにいる妻のベッドのそばで過ごしていました。
買い出しや洗濯のため一時的に病院を離れる以外は、
ICUの中にある椅子に座り、
時にはベッドの周囲を歩き回ったりしながら──
妻に話しかけたり、
音楽を聴かせるようにしていました。
『壊れた脳細胞は元に戻らないですが、
それを補うように、
別の神経が発達してくるようになります』
そう医師から聞いていた私は、
少しでも刺激になればと──
途切れることなくそれを、
続けていました。
そんなある日。
理学療法士が、
妻の身体に軽く触れながら──
『奥様の……右側の反応が鈍いですね』
その言葉が、
胸に突き刺さりました。
確かに右手は握られてはいましたが、
それが開くことはなく、
腕にもまったく力が入っていませんでした。
右足も硬直したように、
まったく動いていませんでした。

ただ──
私は薄々気づいていました。
妻の身体が術後から、
左と右で反応に明確な違いがあることに。
けれどそのときの私は、
【それ】が何を意味するのかを──
そのときは聞きたくなかったし、
知りたくないだけでした。
"介護の足音"は、
確実に。
──私たちに近づいていました。

『介護への道』──介護の足音【完】
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