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『破壊される家計』──金に憑かれたクズの詩


【反撃編 第3話】



 ICUで寝ている妻の横で、
株のトレードを始めた日々。


 それは、数字との戦いでもあり、
"感情"の地獄でもありました。


 人生と家族を賭けたギャンブル。
 私は徐々に、精神的に追い詰められていきました。


 その時に壊れていたのは、
妻や家族や家計──ではなく、



"私"でした──




▼前話(第2話)は、こちらからご覧になれます。





スマホ片手にチャートを睨み、
1日に何度も売り買いを繰り返す
リスクの高いデイトレード。


勝った利益は極力、
支払いに回すため払い出し、
残った分でまた次の銘柄を買うという。


それはまさに息継ぎのない、
──チェーントレード(連鎖投資)。


負けた日は、体中が、
ガタガタ震えるほど恐ろしくなり。

スマホであらゆる株の指標や、
先物の値を確認しながら、
朝を迎えていました。


気がつけば四六時中──
頭の中はお金のことばかり。


次第に、食事の味も、時間の感覚もなくなり、ただただ自分をすり減らし続けていきました。


何よりも──

目の前にいる妻のことすら、
どこか遠い存在のように思える時間が増えていました。


もはや“中毒”でした。


心も体も疲れ切っていたのに、
それを、やめようとは思えず。


むしろ株を売買している時だけが、
"生きているような感覚"でした。


笑うことはなくなり。

些細なことでイライラし、
辺りかまわず大きな声を張り上げたり、

妻の姿を見るたびに泣き喚いたり。


感情のコントロールは、
もう効かなくなっていました。


人に対しても常に疑心暗鬼になり、
周りの人すべてが、私たちを馬鹿にしているように見えていました。


何か言われるたびに、
「バカにしやがって、何様なんだ?」


気遣って優しく接した人にすら、
「偽善者して楽しいか?」と。



どうにかしたいという感覚より、

「もうどうなってもいい」

という投げやりな気持ちの方が強まっていました。



また、

「いざとなれば、全てを捨てて、
自分だけ逃げればいい」


とすら考え始めていたこと。



それは、もしかしたら──
妻が倒れた時から、そう考えていたのかも知れません。


ただ追い詰められて、本当の自分が出てきただけの話で。



そんな私が唯一、心が落ち着けたのは
──『株を買う瞬間』だけ。


もうその頃には、何のために頑張っているのか、何をどうしたいのかすらも、
分からなくなっていました。


目の前の現実から逃がれるためなら、
妻や家族も平気で売る。


そのときの私は、
まさに、クズでした。




次第に食事や風呂だけでなく、
トイレに行く時間すらもったいないと感じ始めた頃──


「様子がおかしい」


周囲からも私は、
そう言われるようになっていました。

お金に取り憑かれ、蝕まれて、
もはや──人としては生きていませんでした。

そして、その『限界』を迎えた時──




その日は、トレードをする気力すらなく、
私はリハビリに懸命に取り組む妻の姿だけを、ただ見ていました。



そんな風に──
妻を見るのは久しぶりな気がしました。



ふと。


我に返って、冷静になり、
心の奥から言葉が漏れました。



──何やってんだ俺?



それは、ICUでデイトレを始めてから、
数ヶ月が経過した頃でした。


『破壊される家計』
──金に取り憑かれたクズの詩【完】



▼次話
──静かに差す希望 へ続きます。





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