『障害者になった日』──プロローグ
【第6章】
妻は、必ず回復する。
あと1ヶ月もあれば、
もっと時間さえあれば──
もっと歩けるようになるし、
もっと話せるようにもなる。
またいつかは、
看護師として働ける。
ずっと、そう思っていました。
それは、まだ──
妻が脳出血に倒れて、
半年が経とうとしていた頃。
※この話は全て、
実際の経験に基づいています。
たしかに妻は、それまでの間に、
劇的に改善していました。
術後当初の妻はまだ、
「人として生きては、いませんでした」
重度の後遺症により、
自分のことだけでなく、
私や子ども達のことも分からず。
話すことはおろか、ただベッドに横になり、病室の天井を見ているだけ。
支えがなければ、
椅子に座ることもできず、
栄養も経管から摂っていました。
それが2か月を過ぎて、
回復期に入ってからは──
失語により言葉は不十分ながらも、
意思疎通ができるまでに回復し、
右半身の機能も失われたままでしたが、杖を使えば20メートルほど歩けるようになっていました。
“回復期“と呼ばれるその期間が、
終わる最後の日まで、
私はそれを信じ続けていました。
また以前のように──妻と、
取り留めのない会話をしたり、
手を繋いで一緒に歩きながら買い物に行ったり、食事したりする日常が来ると。
『症状固定』
──それ以降、それ以上の
機能改善が見込めない状態。
それは妻が、『障害者』になるということを意味していました。
日に日に迫る──
その『症状固定』に怯えながらも、
諦めることはありませんでした。
「まだ1ヶ月ある。
まだ時間はあるし、もっと回復するから。
大丈夫だって!」
妻にもそう言い聞かせながら、
私は自分を奮い立たせていました。
ただ、その日は、
あっさりと訪れました──
あの頃の私は、
まだ知りませんでした。
冷酷なほどに『現実』は、
いつも残酷で。
私たちのささいな希望など、
あっさりと踏みにじるということを。

『障害者になった日』
──プロローグ【完】
▼この話は本編『第一話』に続きます。
▼この話の前日譚
その日を前に決意していたこと。
▼その他の話やシリーズは、全体構成【目次】からご覧になれます。
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