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『介護が始まるとき』──妻が大好きなリハビリの先生






施設介護編 
【第3話】




 入院中のリハビリでも、
いっさいの手を抜くことがなかった妻。



 施設に入所しても──
それが変わることはありませんでした。



 その姿勢は周りからも、
『あまり頑張り過ぎないでね』 
と気を遣わせるほど。



 けれど、逆に妻は、
リハビリをサポートしてくれる先生方に対しても、厳しい目で見ていました。



『あの先生、下手。
私のこと分かってない』
は、



妻の口癖にも、
なりつつありました──






妻を担当するその先生は、

リハビリ界隈では知らない人は、
いないほどの有名な、

女性の【理学療法士】でした。

年齢でいえば60代、
──それ以上かも知れません。



いくつもの協会で、
理事をやっている
権威のあるその先生は、


背丈こそ大きくありませんでしたが、
明らかに他の先生とは違う、

独特の【オーラ】を
まとっていました。



その先生が、
施設のリハビリルームに入るだけで、
現場の空気もピリッと変わる。


そんな人でした。





その先生が、
妻に初めて会った時の第一声。



『で? あなたは──
ここで何が出来るようになりたいの?』




これまで多くのリハビリの先生は、
妻のような障害者に、

妙に優しく接したり、励ましたり、
優しい言葉を掛け続けてきましたが。

その先生には、
障害者だからといって、

変に気を遣う様子はありませんでした。



初対面でいきなり、
妻に『普通』に話しかけたことに、

私は驚きました。






妻自身は、
自分が障害者であることで、

人から妙に気を遣われたり、
優しい言葉を掛けられることを嫌っていました。



優しくされればされるほど、

“自分が下に見られている”

いつも、そんなふうに感じていました。



なので、これまでも、
妙に優しく接する人たちには、

妻が心を開くことは、
決してありませんでした。




その先生は、
分かっていました。


障害者は、
出来ないことがあるだけで、

本来持っている
"人間性は何一つ変わらない"
ということを。



何より──

下手な優しさは、
人を傷つけるということを。





思えば──


私も妻を"障害者"として、
見たことは一度もありませんでした。



手足が動かなくても、
言葉が上手く話せなくても。

"妻が妻である"ことには、
何ら変わらず。



そして妻は、そんな先生を、
すっかり好きになっていました。



『で? あなたは──
ここで何が出来るようになりたいの?』



遠慮なく妻に、

ズバッとリハビリの本質に切り込んだ
その先生に──



私も妻と同じように、
すっかり魅了されていきました。








『介護が始まるとき』
──妻が大好きなリハビリの先生

【第3話 完】




※この話は、施設介護編 第4話
妻が大好きなリハビリの先生 【続】
に続きます。



▼前回の話。
【第2話】怖すぎる施設に怯える私。





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