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【アルバム解説: DAMN.(2017) / Kendrick Lamar】


DAMN.

このアルバムは、ヒップホップとしては初のピューリッツァー賞音楽部門を受賞しました。
アフリカ系アメリカ人の人生の複雑さと内省を、見事な構成力で描き上げた超名盤です。
この歴史的名盤を出来る限り考察し、その魅力に迫ってみたいと思います。


概要

ケンドリック・ラマーのメジャー3枚目のアルバム。
 
ローリング・ストーン誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」で175位。
また、「現代を生きるアフリカ系アメリカ人の人生の複雑さを捉えながらも、文芸的小品として影響を与えている」ことを理由に、ヒップホップとしては初のピューリッツァー賞音楽部門を受賞しています。
 
前作“To Pimp a Butterfly(2015)”とは異なり、コンシャス(政治的、社会的)な面はやや後退しており、ケンドリックの内省と成長がテーマになっています。
リスナーがくり返し各曲を聞きこむことで構造を解き明かすという、かなり凝った構造です。
 
サウンド的には、トラップ(ヒップホップのサブジャンル:マシンビートと重厚なシンセが特徴)を基本として、ネオソウルの様な質感を持ちます。
ゆったりした気持ちの良いグルーヴの曲が多い中、時折キャッチーで攻撃的な曲が挟まれ、14曲全く聴き飽きない。

ジャケット

まずジャケットを見てみましょう。

DAMN.ジャケット

シンプルなケンドリックのポートレイトですが、顔はうつむき目はうつろ、頭部分に赤ででっかく「DAMN.(くそっ!)」の文字。
まるで鬱病患者の様です。
さらに裏面では、邪悪な表情のケンドリックがにらんでいて、頭部分に緑ででっかく「DAMN.」の文字。

DANM.裏ジャケット

 表面はケンドリックの弱さ、裏面では邪悪さが表現されています。
本作品はケンドリックの内面的な二面性をテーマとした作品です。
 
また、ジャケットのレイアウトと、各曲のタイトル・マナー(大文字とピリオド)はTIME誌を思わせます。
本作は、"DAMN.”という名のニュース雑誌であり、各曲はその記事という体裁です。

前提知識

各曲には根底に「キリスト教の7つの大罪」がテーマとしてあり、まんま曲名になっているものあります。
本作はキリスト教色も強いので、そのバックボーンを意識しながら聴くとより理解しやすくなります。
 
-7つの大罪-
傲慢(pride)
強欲(greed)
嫉妬(envy)
憤怒(wrath)
色欲(lust)
暴食(gluttony)
怠惰(sloth)
 
全体の構成を見ると対称性を持つ構造で、邪悪さと弱さを繰り返しながら徐々に浄化していく流れです。
2歩進んで1歩戻る感じでしょうか。
 
1.BLOOD. :テーマの提示。「邪悪さ」か「弱さ」か
2.DNA. :SEX、金、殺人、が俺たちのDNA (邪悪さ)
3.YAH. :欲望に負ける弱い自分 (弱さ)
4.ELEMENT.:自己防衛からの他者攻撃 (邪悪さ)
5.FEEL.:鬱病の告白 (弱さ)
6.LOYALTY. :自己愛。忠誠心の要求。 (邪悪さ)
7.PRIDE.:傲慢と理想のせめぎあい (邪悪さ&弱さ)
8.HUMBLE.:俺の前では謙虚にしろ (邪悪さ)
9.LUST.:善を渇望しながらも欲望に負ける自分 (弱さ)
10.LOVE.:善を求める自分。ただ愛したい。 (改心)
11.XX.:自分の苦悩を取り巻く暴力の告発 (邪悪さ)
12.FEAR.:自分の恐れの源泉の探求 (弱さ)
13.GOD.:自分を認め称揚する (浄化)
14.DUCKWORTH.:テーマの回収

曲解説

1.BLOOD.

.冒頭、聖歌隊のような男性コーラスが、本アルバムのテーマを歌っています。
 
 それは邪悪さか?
 それとも弱さなのか?
 あなたが決めること
 わたしたちは生きるのか、死ぬのか?
 
ケンドリックが盲目の女性に「なにか失くしものを?」と尋ねると「失くしたのはあなたの命」という答えが銃声とともに返ってくる。
銃を撃ったのは誰なのか、誰を撃ったのか、そしてこの老婆は誰なのか。
この謎は最終曲"DUCKWORTH."で解き明かされます。
 
サウンドに浮遊感があり、この曲が空想的な寓話として描かれます。
アウトロではTVキャスターのセリフが流れ、空想から現実に引き戻されるように次曲”DNA.”に繋がります。

 「ラマーはその曲中の歌詞で警察の残忍な行為に
  対する自身の考えを述べています、引用です。
  『俺たちは警察が嫌いだ、ヤツらは道中で俺たちを
  殺したいんだ間違いない』」

このセリフは次曲を表しています。
 
ちなみに、「俺たちは警察が嫌いだ…」は前作” To Pimp a Butterfly(2015)”の”Alright”からの引用です。
”Alright”はBLM(ブラック・ライブス・マター運動:人種差別やアフリカ系アメリカ人への不当な暴力に抗議する運動)のアンセムとなった曲です。


2.DNA.

DNAは"遺伝子"と"Dead Nig*er Association(死んだアフリカ系アメリカ人協会)"のダブルミーニングです。
自分たちを形作ってきたDNAを強く肯定し、同時に差別・犯罪を生むDNAを激しく否定しています。
 
歌詞はヒップホップらしい俺様節で、ヒップホップ界のキングとなる資質・経験・背景はすべて自分のDNAに備えている、とぶちあげます。
また、俺たちの邪悪な部分もDNAに備わったものだ、とも主張し、良い資質と悪い資質とを交互にラップするのがこの曲の構造です。
 
途中TVキャスターが「この曲にはここ数年でヒップホップがアフリカ系の若者に与えてきた悪影響が現れています。それは人種差別による被害より甚大なのです」とコメントします。
「この曲」とはBLMのアンセムとなった”Alright”を指します。
つまりTVキャスターのコメントは偏向報道です。
このコメントを打ち返すかの様に、ここからケンドリックのラップの熱とスピードが上がります。
めちゃカッコいい!
 
最後の「セックス、金、殺人、これが俺たちのDNAだ」というパンチラインはTVキャスターに向けられたものですが、分断から生まれる犯罪に満ちたアメリカ社会に対する批判でもあります。
このテーマは11曲目の"XXX. "で再び語られます。
 
サウンドは超攻撃型、この曲の暴力性を見せつけています。

3.YAH.

冒頭DJが「カンフー・ケニー」を紹介します。
カンフー・ケニーは本アルバムにおけるケンドリックのオルター・エゴ(別人格)です。
 
"YAH"は呼びかけ声の"Yeah"のスラングであると同時に、神の名称(Yahweh:ヤハウェ)のスラングとして使われています。
そして、敬虔なケンドリックが誘惑や悪に負ける時頭の中で鳴る警告音が"YAH"なのです。
 
表層は"Yeah, Yeah"と連呼するだけの気持ちいい曲に聞こえるが、内心では葛藤しながら神からの警告を受けています。
一皮むけば、抑圧と誘惑の多い社会で倫理観に悩む敬虔な普通のアフリカ系アメリカ人男性の姿が見えてきます。
 
浮遊感のあるシンセと逆再生のベース音が、この曲が脳内のモノローグであることを表しています。
前曲から一転して、内省的でリラックスしたビートと気怠いラップです。
聴いていて気持ちが良いけど、どこか不安になります。

4.ELEMENT.

冒頭DJが「新しいカンフー・ケニーだ。誰も自分のために祈ってくれない。」と言います。
この「誰も自分のために祈ってくれない」というモチーフは、このアルバム内で繰り返し出てきます。
 
「奴らは俺を俺の要素から外せない」つまり、自分は他人に侵されない、とういうことが歌われます。
"element"は直訳すれば「要素」ですが、ここではもっとコアな魂に即したものを表している様です。
 
歌詞は「自分は他人に侵されない」といった感じですが、この不安げで内省的なサウンドは別なメッセージを想起させます。
むしろ弱い人間が「自分が信じるもの」を守るために他人を攻撃しているかの様です。
コーダ部分でテンポとピッチが極端に低くなっているのが、映画のスローモーションみたいです。
まるで「弱さから攻撃的になっている自分」を客観視しているような感じです。
他の曲もそうですが、見方によって内容が変わるという多層性がこのアルバム全体の特徴です。
 
「腰抜け野郎をぶちのめしてセクシーに魅せるぜ」という繰り返しのラインが中毒になります。
ベースラインもセクシーでクセになる曲です。
 
ジェイムス・ブレイクがキーボードで客演参加しています。
幽玄な響きが彼らしくて良いです。

5.FEEL.

イントロでは頭の中に「誰も俺のために祈ってくれない」というささやきが響き、曲中ではひたすら自分のネガティブなFeelingが語られます。
 
 自分がけんか腰になっているように感じる
 集中できなくなっているように感じる
 我慢できなくなっているように感じる
 問題なのはきみかもしれない気がする
 明日なんてないように感じる
 世界なんてクソくらえだ
 誰も自分のために祈ってくれない
 
歌詞と言い、膜のかかった様なバックコーラスといい、これはもう鬱の症状を表現しています。
これを後半物凄いスキルのラップで叫ぶ様に聴かせるもんだからヤバいです。
 
ビートが凄く心地よい。
ケンドリックが淡々とラップしようが、テンション高く叫ぼうが、このチルで気持ちの良いビートが常に一定のテンションで淡々と鳴っています。
初め気持ちが良いのですが、ケンドリックのテンションとは別軸で流れ続けるこのビートが、やがてなんか怖くなってきます。
ビートがラッパーのテンションに呼応しない、まさに「誰も俺のために祈ってくれない」感じです。
凄いプロダクションだなぁ。

6.LOYALTY.

不信感に苛まれ精神的に落ち込んだ自分が今一番必要としているものが忠誠心、という曲。
これまでケンドリックに寄せられた人気や信頼は上辺だけのもの、と言った感じです。
 
この曲でケンドリックは、他者の関心が誰に向けられているのかを終始気にし、「俺には忠誠心が必要だ」と言います。
表面上はラブソングですが、ファンからの支持を失うことがとても恐ろしいようです。
 
忠誠心というのは本来他者が自ら提供するもので、自分に対し要求するものではありません。
他者に忠誠心を要求するのは、実力の無いもの、弱いものが自尊心を満たすためにする行為であり、正しくない行為です。
ケンドリックも心の底ではそれがわかっており、「謙虚(HUMBLE)でいるのも大変。神様は自分が死にかけていることを知っている」というラインがそれをよく表しています。
また、この曲が8曲目 "HUMBLE. "と対になっていることも示唆しています。
"HUMBLE. "では自尊心のあまり、他人に謙虚を要求します。
 
客演のリアーナとのデュエットとなっており、病み憑きになるスロー・ファンクです。

7.PRIDE.

ケンドリックは暗いトーンで自分のPRIDEについて内省しながら、内なる邪悪さと向かい合います。
"DNA."、”ELEMENT.”、”LOYALTY.”などで守ってきたPRIDEは、どうも自分を幸せにしていないようです。
 
本アルバムにはキリスト教の7つの大罪がテーマに潜んでいます。
PRIDE(傲慢)とは「偉そうな態度をとる」ことであり、神に逆らう態度です。
他のあらゆる罪はPRIDE(傲慢)から生じると考えられています。
PRIDE(傲慢)はキリスト教徒にとってはもっとも重い罪です。
 
ヴァースでは理想の「完璧な世界」が描かれます。
そこでは彼は正しくふるまうことができるが、現実ではそうではありません。
完璧な世界に対しての現在の自分の劣等感や罪悪感が気怠くラップされます。
例えば、前曲で他者に忠誠心を要求し、次の曲で謙虚を要求する人が、「俺は神を信じるほどに人を愛さない」とラップします。
これは傲慢な態度であり、本人も自分が変わりたいともがいています。
 
フックにはサバイバーズ・ギルトを思わせる表現があります。
 
 Me, I wasn't taught to share, but care
 分け合うことを教わらなかった でも思いやっている
 In another life, I surely was there
 別の人生で、俺は確実にそこにいた
 Maybe I wasn't there
 きっと俺はそこにいなかった
 
サバイバーズ・ギルトとは、戦争、災害、事故などに遭いながら奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が犠牲になったのに自分が助かったことに対して感じる罪悪感のことです。
ラッパーとして成功するアフリカ系アメリカ人はごくごく少数です。
自分だけが成功しても他の周りの大多数が悲惨な状況にあることから、成功したアフリカ系アメリカ人の多くがこのサバイバーズ・ギルトを感じるといわれています。
ケンドリックはラッパーとして成功していながら、残された多くの悲惨な仲間に対し強い罪悪感に苛まれている様です。
 
「Sharing is caring(分かち合いは愛)」ということわざがありますが、アフリカ系アメリカ人たちは貧困と犯罪という社会構造から、「分け合うことを教わらなかった」のです。
それでもケンドリックは、「思いやる」ことに心を注いできました。
そんな彼が抱くのがサバイバーズ・ギルトです。
その罪悪感から「きっと俺はそこにいなかった」と現実に目を背けるケンドリックがいます。
また、「別の人生で、俺は確実にそこにいた」は、もし理想の世界であれば自分は分かち合うことが出来たということです。
罪悪感を通して弱さと邪悪さが絶妙に表現されています。
 
これを踏まえてイントロのコーラスに戻ってみると、この曲のテーマが理解できます。
 
 Love's gonna get you killed
 愛に君は殺される
 But pride's gonna be the death of you and you and me
 でも傲慢が君と俺に死をもたらすだろう
 
ここでの「君」は邪悪な自分で、「俺」は弱い自分です。
愛が勝てば邪悪な自分が殺され弱い自分は生き残りますが、傲慢が勝てば邪悪な自分も弱い自分も死にます。
 
この曲は本アルバムの中間点であり、邪悪さと弱さの分水嶺となる重要な曲です。
ボーカルのピッチを上げたり下げたりして、邪悪さと弱さを行き来する様を表現しています。
個人的にはこのアルバムの中で最も好きな曲です。

8.HUMBLE.

流れから行って「俺はもっと謙虚になるべき」的なことが歌われるのかと思いきや真逆。
大ボラ吹きな歌詞がずらりと並び、コーラスでは他のラッパーに「座れよ、謙虚になれ」と上から目線で挑戦状を叩きつけています。
 
俺様節ですが、ラップのトーンが非常に空虚。これが怖い。
ローエンドなバスドラムとゴリゴリしたピアノが攻撃的で、そこにこの空虚なトーンのラップが乗ると、なんか空気が凍るような凄みがあります。
ぞっとするようなカッコ良さです。
 
謙虚(Humble)というタイトル、強烈な自尊心、空虚なトーン。
前曲まででさんざんネガティブな感情を聴かされてきた後のこの曲は、同じ俺様節でも"DNA."とはだいぶ異なる印象を受けます。
空虚なトーンでのこの攻撃性は、自分の弱さを自覚しつつ隠したいかのようです。
表層の邪悪さと内心の弱さ、ここでも2面性が巧みに表現されています。

9.LUST.

再び、欲望に負けてしまう自分の弱さが語られます。
 
この曲はドラムパターンが3曲目の"YAH. "と同じですが、"LUST. "ではドラムの音が逆再生になっています。
"YAH. "はなすすべなく自分の弱さを見ている曲ですが、"LUST. "は正しくありたいという欲求に対しての弱さの曲です。
「水が必要だ」という歌詞と、ドラム音の逆再生で、その違いと揺れる心を良く表しています。
 

10.LOVE.

ただ愛したい、俺を愛してくれ、という曲。
前曲までで自分の弱さ、邪悪さが語れました。
傲慢さや成功は自分を幸せにしていないことも自覚しました。
本曲は、邪悪さを、欲望を克服し愛に昇華しようという想いです。
歌いだしの「愛か欲望か」という歌詞がそれを良く表しています。
 
ここではケンドリックが「もし金を稼げなくなってもまだ俺を愛してくれるか?」とラップします。
これは恋人への歌詞ですが、リスナーに向けた歌詞にも思えます。
 
前作” To Pimp a Butterfly(2015)“の最終曲” Mortal Man”では「俺がやらかしてもファンでいてくれるか?」と訴えました。
ファンの支持を失うのはもはやケンドリックの強迫観念の様です。
この課題は次作” Mr. Morale & the Big Steppers(2022)”に持ち越されます。


11.XXX.

ストリートで横行する暴力は、アメリカの社会構造がもたらしたもので格差を助長するウォール・ストリートとは地続きであると言い、さらにそんなアメリカの姿は自分自身を鏡に映した像だとラップします。
 
“XXX”は”USA”を伏字にしたものです。
さまざまなレベルでの暴力が横行するアメリカは、もはや公には言ってはいけない言葉なので伏字が相応しい、とでも言いたげです。
 
ここで少しアメリカの人種分断に触れておきましょう。
アメリカはその建国時から、黒人奴隷により発展してきた国です。
1863年の奴隷解放宣言後も、名称が「奴隷」から搾取される「労働者」に変わっただけで待遇は変わりません。
1964年の公民権法制定までは人種によって公共機関や施設を「人種分離」することが合法でした。
奴隷解放宣言後も、公民権法制定後も、アフリカ系アメリカ人に対するリンチは依然として存在していました。
リンチを行うのが市民や私警組織から、警察に変わっただけです。
連邦政府で反リンチ法が成立したのは2022年です。
驚くべきことに、2022年まではアフリカ系アメリカ人に対するリンチは「犯罪」ではなかったのです。
現在でもアフリカ系アメリカ人は社会的、経済的に人種分離を受けています。
アフリカ系アメリカ人に生まれるということは、日本人の我々が想像するよりもはるかに過酷でストレスフルなのです。
 
冒頭は讃美歌のような雰囲気で「アメリカよあなたにとって良いものなら神のお恵みがあります」と歌われ、「理解を手伝ってくれま…」と言い終わらないうちに中断されて次のヴァースに切り替わります。
 
次のヴァースでは、分断、銃、暴力が横行するアメリカ社会の日常を描写します。
ビートは攻撃的で緊張感があり、サイレンのような音が非常事態感を演出しています。
 
後半は客演のU2によるバンドサウンドで、ボノが「俺にとってこの国(アメリカ)はドラムとベースが響く音だ」と歌います。
 
この曲でのU2の起用は実に深いです。
U2はアイルランドのロックバンドで、そのセールスとポリティカルなメッセージから、ある意味「ロックバンドの頂点」ともいえる存在です。
そしてU2から見ればアメリカはロックが誕生した土地です、聖地です。
そのU2が銃声をドラムとベースの音に例え、「俺にとってこの国(アメリカ)はドラムとベースが響く音だ」と憂うように歌う。
スゴい!
「わぁ、U2みたいなロックの大御所まで参加してるの?カッコイイ~!」ではねえんです!!

12.FEAR.

ケンドリックが7歳、17歳、27歳の時に経験した恐怖が描かれ、彼を脅かしてきたものの想いを馳せます
 
7歳のケンドリックの恐れは厳格な母親に対するもの。
厳しいしつけもそうだが、それ以上に母親に見捨てられることは恐ろしかった。
 
17歳のケンドリックは、Mad cityたるコンプトンでギャングに囲まれ、自分が死ぬシチュエーションをいくつも想像している。
 
27歳で成功を手にしたケンドリックの最大の恐怖はすべてを失うこと。
ラッパーとして成功したことで、これまで経験したことのない重圧と不安を感じている。
 
4thヴァースの最後のラインが印象的です。

「俺は恐怖の中で生きているのか、それともラップの中
 で生きているのか、ちくしょう(Damn)!」
 
最後は従弟の留守番電話で幕を閉じます。
従弟は旧約聖書を引用し、アメリカという国がいかにマイノリティを抑圧搾取してきたかを語ります。
ケンドリックは、自分の邪悪さと弱さの源泉を知ります。
 
この曲は、ゆったりとしたソウルフルなグルーヴとともに本アルバムを総括し、鬱、マイノリティの抑圧、宗教心、倫理などを繋げます。

13.GOD.

自分の邪悪さ、弱さを認め、信仰やヒップホップに献身し、人々に真実を伝えていく。
それは神の視点であり、歓喜のトーンで「神になった気分とはこんな感じか」とラップします。
 
傲慢(PRIDE)ではなく謙虚(HUMBLE)に神の視点を語る様は、様々な苦悩を乗り越え浄化されたかのようです。

14.DUCKWORTH.

タイトルにはケンドリックの本名の姓であるダックワースが使われているが、これは自身ではなく父親を指します。
冒頭、Ted Taylorの”Be Ever Wonderful”(1963)のサンプリングが流れ、ケンドリックの父親が若かったころに、一気に時が遡ります
 
ケンドリックのレーベルである「トップ・ドッグ・エンタテイメント(TDE)」の創始者であるアンソニー・ティフィスと、ケンドリックの父親ダッキーの衝撃的、かつ運命的な過去が語られます。
若い頃のダッキーが働くケンタッキーにアンソニーは強盗を企てていたが、ダッキーの機転でダッキーはアンソニーに気に入られ、KFC襲撃は免れました。
もしもその、KFC事件でアンソニーがダッキーを殺していたらTDEは存在しなかったかもしれないし、ケンドリックは偉大なるラッパーとして存在していなかったかもしれない。
 
最後にはその「もしも」の銃声が流れ、このアルバムの曲が逆の曲順で逆再生されていく。
そして1曲目"BLOOD."の冒頭の「そういえばこの前、俺は散歩をしていたんだ…」というラインで曲を終えます。
1曲目の銃声は「もしも」の銃声であり、ケンドリックが生無事成長し偉大なラッパーになれたことに、不思議が神の啓示すら感じるストーリーです。
1曲目"BLOOD."の盲目の女性は、神のメタファーなのだと思います。
ちなみにアンソニーとダッキーの話は実話です。

まとめ

1曲目 “BLOOD.”の銃声は何だったのかを、徐々に過去に遡りながら探っていくのが本アルバムのストーリーです。
その中で様々なケンドリックの想いや葛藤が次々展開されます。
非常に内省的な作品ですが、このストーリーテリングの妙味と楽曲の良さで通して聴けちゃうのがこのアルバムの良さ凄さです。
 
聴いていて感じたのですが、ケンドリックのフローはかなり多彩で効果的ですね。
どんな楽器・ボーカルでも、リズム・コンセプトを決め、音階を決め、表情や質感を決め、モチーフやフレーズを構築しますが、この辺がとても意識的かつ戦略的に感じます。
ケンドリックはこのフロー構築の際に、曲のテーマやリリックに対して効果的であるかどうかをとても強く意識しているように思います。
歴代の偉大なソリストに対して感じるのと同じ空気を感じるのです。
ただ単にノリで気持ち良いフローをしているラップ・ミュージックもありますが、それらとは明らかに異なります。
 
サウンド的には、ゆったりとした気持ちの良い曲が多いです。
でも一皮むくと、内省的で攻撃的で宗教的、深く難解です。
イージーリスナーを取り込みながら深読みや多重解釈ができる聴きごたえが、このアルバム最大の魅力でしょう。
 
なお、本アルバム発売の8か月後に「曲順を逆にした」”DAMN. Collectors Edition.”が発売されました。中身は一緒で、曲順が逆になっているだけです。
曲順を逆にしただけのものをわざわざ発売したのには意図があります。
ケンドリックは以前から「このアルバムは逆に聞いても意味がある」と発言してきました。
順(正規版)と逆(Collectors Edition.)では異なるストーリーが成立します。
正規版(順)は「時間をさかのぼり、弱さを認め浄化され、ケンドリックは死んでいなかった」というストーリーなのですが、” Collectors Edition.”(逆)は「時系列に進み、邪悪さに負け、ケンドリックは射殺される」ストーリーになります。
 
順再生と逆再生ではすべての曲の印象が全く異なります。
例えば、”10.LOVE.”の歌いだしの「愛か欲望か」の部分なんてハッとしますね。
順再生であれば欲望が愛に昇華しますが、逆再生では愛が欲望に負けます。
僕は”DAMN.”以外にこんな音楽作品を見たことがないです。
 
逆再生も含めてのコンセプトであることは、1曲目” BLOOD.“の「邪悪さか、弱さか、あなたが選べ」でも示されていますし、サウンド面でも所々逆再生を多用しており、時間進行の2面性を潜ませています。
 
ピューリッツァー賞受賞も納得の、本当に良く考えられたアルバムです。
ケンドリック・ラマーの最高傑作と言って良いと思います。

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