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【完結】美容クリニックの現実〜ラクそうだから転職した結果〜【第十二話】

やっと終わった


最終出勤日。
いよいよこの日がやってきた。
緊張もあったが、それ以上に嬉しかった。

あれほど憧れていた世界だった。
田舎の風景を眺めながら、
「私の居場所はここじゃない」
「絶対に都会の美容クリニックでキラキラしてやる」

そう何年も思い続けてきた。

それなのに今の私は、その世界から一日でも早く抜け出したくて仕方がなかった。

人生は本当に分からない。
当時の私は現実に絶望していた。
それなのに今では、その頃の出来事をせっせと文章にしている。

喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったものだ。
我ながら、たくましい。
その日も普段通り仕事をした。

「〇〇さん!」

後ろから声をかけられ、振り返る。

そこにいたのは、あのマウント強めな同僚だった。

(詳しくはこちら→https://note.com/shiny_oxalis324/n/nb58b8d56d68f?sub_rt=share_sb

正直、「げっ」と思った。
最終日くらい穏やかに過ごさせてくれ。

どうせ「辞めるなんてもったいない~」とでも言われるのだろう。
そう思っていると、想定外の言葉が返ってきた。

「〇〇さん辞めちゃうって昨日聞いてびっくりしたの。頑張ってたし、同期だったし。これ、急いで買ってきたから。大したものじゃないんだけど」

そう言って差し出されたのは、おしゃれな焼き菓子だった。
田舎者の私にでも分かる。
少なくともスーパーで買ったものではない。
私は初めて彼女の顔をまともに見た。

心配そうな顔だった。
そこにはマウントを取ろうという魂胆は見当たらなかった。

たぶん。

「何かあったらいつでも連絡してね。私、〇〇さんが本当に心配なの」
私は笑顔でうなずいた。
「うん。本当にありがとう」
心の中では、 
「ありがたい。でも連絡はしない」
と固く決意しながら。

当時の私は、優しさを優しさとして素直に受け取れるほど余裕がなかったのだろう。
面倒な人間だった。


勤務終了前、スタッフ全員が呼び出された。

「本日をもって〇〇さんが退職されます」
上司から全体へ報告があった。

すると突然、あの先輩が私の肩に手を回してきた。
「〇〇ちゃんがいなくなるの、本当に寂しいけど、私も応援してるからね」
まるで仲の良い先輩後輩のような仕草だった。

ふざけるな。

触るな。

誰のせいでここまで追い詰められたと思っているのか。

それなのに皆の前では「良い先輩」を演じるのか。
怒りで震えた。
それでも私は、その腕を振り払うことができなかった。
情けない話である。
全体への挨拶が終わったあとも、先輩は笑顔で話しかけてきた。

「〇〇さん辞めちゃうって聞いて本当にびっくりした~。これからも頑張ってね」
私は真顔で答えた。
「ええ、ありがとうございます」
きっと見事な棒読みだったに違いない。

こうして、私の最終出勤日は終わった。

退勤するとき、ふと後ろを振り返った。
誰もいない。
奥からスタッフたちの楽しそうな笑い声だけが聞こえてくる。

私は少しだけ立ち止まった。
ここでキラキラ働く自分を、あれほど夢見ていたはずだった。
でも不思議と未練はなかった。

寂しさよりも、
「やっと終わった」
という安堵の方がずっと大きかったからだ。

あんなに憧れていた美容クリニックを、私はこうして去った。

結局、最後までこの職場に馴染むことはできなかった。

それでも、辞めたことを後悔したことは一度もない。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

美容クリニック編は、これにて完結です。

当時の私は毎日必死で、「こんな経験、早く忘れてしまいたい」と思っていました。

まさか数年後、その頃の出来事をこうして文章にし、多くの方に読んでいただける日が来るとは思ってもいませんでした。

長い連載となりましたが、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。

本編では書ききれなかった話も、
番外編として書きました。

きれいな世界だと思っていた場所で見た、
美容への本気度。
スタッフたちが顔や歯や肌にかけるお金。
そして、私が美容クリニックで病んだ本当の理由。

憧れだけでは終わらなかった美容クリニックの話を、
本編とは少し違う角度から書いています。

↓ 【番外編①】美容クリニックで働いて知った、きれいな世界の裏側

↓ 【番外編②】SNS撮影で踊り、看護師なのか何なのか分からなくなった話

↓ 【番外編③】体感9割。美容クリニックのスタッフは歯に課金していた

↓ 【番外編④・完結】美容クリニックで病んだのは、仕事ができなかったからではない


美容クリニック編の全体の流れを読みたい方へ。
全12話をこちらにまとめています。

↓ 全話まとめはこちら

これからの白湯も、どうぞよろしくお願いいたします。

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