ノカナのジャック【ダンジョン・第5話】 − 160
ダンジョンでは、通り名が使われる。
二つ名と呼ばれることもある。
バカルの通り名は「お城さん」。
この“さん”付けがミソだ。
強い剣士だから、軽んじられていない。
馴れ馴れしいっていうか、近づき過ぎてない感じもする。
じゃあ俺か?
俺は「越後屋」、まあなんて言うか残念な名前だ。
完全に舐められている。
親父さんが武具屋だが、反物も扱っているせいだと思う。
ダンジョンで活躍している一流のハンター達は、通り名ではなく本当の名前で仕事をしている。
俺に時々声をかけてくれるエースさんなんかがそうだ。
高名なハンターなのに、エースさんは偉ぶったりしない。
「おっ、ヒラガニ。嬉しいよな☆
越後屋は警戒を忘れてないのも、安心して見ていられる。
なんかあったら相談してくれよっ!」
そんな風に声をかけてくれる。
エースさんも、昔はヒラガニを獲っていたんだと思うと、なんだか嬉しかった。
そして、今日は雨だ。
俺は武具屋の仕事を終えてからダンジョンに向かう。
だから、狩りは夕方近くになる。
気温が低いと、カナクイドリや野犬は巣から出てこない。
雨が降ったらなおさらさ。
大カナトコや岩トカゲなんかも、まず姿を見せない。
だから、「獲物がいない。」
そう言って、狩りにでない奴らは多い。
でも、俺にはチャンスだ。
野犬が少なくなるだけでもありがたい。
そして、いつもと違う旧市街だから分かるというか、勉強になることが多い。
なんでか分からないけれど、雨が降ると魚は水面近くに上がってくる。
ハクレンなんかは、バンバン水面で跳ねたりしている。
岩トカゲは、雨の当たらない物陰に集まるから見つけやすくなる。
岩トカゲの燻製は軍隊の携行食の定番だから、意外と稼ぎになる。
そして人の気配が少ないと、デカい鯉が姿を見せやすい。
これもなんでか分からないけど、夕方になると、水路に出てきて、タニシや小さなヨコエビを喰っている。
水草ばかりじゃ、腹は満たせないんだろう。
そういう魚の行動は、水温が関係してるような気がしている。
もし、そうなら寒くなると動きが変わるのかもしれない。
うん、覚えておこう。
どの水路の、どの辺りに現れやすいか ― 今はそれを研究中ってワケ。
そして、もう一つ。
雨の日のダンジョンで、忘れちゃいけない大事なことがある。
こんな日に限って、見かける奴がいる。
気がつかない振りをして、住居跡で岩トカゲを探しながらやり過ごす。
今度バカルに会った時に伝えよう。
こちらに気づかれていないことが大事だ。
危ない話なら近づかないのが正解。
死んだら、成り上がりもクソもない。
……だけど、随分と細い身体だったな。
黒いフードで顔は見えなかったけれど。
* * *
黒フードのせいで、いつもより少し、ダンジョンに長居をしちまった。
「おっ……!? 」
ハグレ。
群れに属さず、一匹で行動する野犬は、そう呼ばれている。
低く唸り声を響かせ、じりじりと威嚇してくる。
望むところだ。
俺も、強くならなきゃいけない。
剣を抜いた。
群れにいられなくなったハグレは、食い物を放ってやると見逃してくれることがある。
あいつらは、いつも腹を空かせているからだ。
だけど、自分より弱いと覚えられると、つきまとわれる。
それに、ハグレだって二頭の場合がある。
強くなりたい。
越後屋って呼ばれるのは構わない。
いずれ「越後屋さん」って呼ばれるようになればいい。
だから、ハグレ一匹相手に引き下がる訳にはいかない。
バカルに教わった。
喉と、太ももの内側さえ噛みつかれなければ大丈夫。
強気になって身体を半身にし、顎を肩につけて構える。
そしてこちらから、近寄っていく。
「焦っちゃだめだジャック。
そうだ、ゆっくりでいい。」と自分で自分に言い聞かせる。
野犬は、常に後ろへ動かす。
それがハンターの常識だ。
魔弾と例のナイフは、いつも持っている。
本気なら、三匹の野犬だって相手にできる。
だけど宝具を使えば、精霊と話ができることがバレる。
使うのは、最後の最後だ。
キタっ!?
野犬が飛びついて来た瞬間に合わせて、剣を構えたまま踏み込む。
『あいつらは、自分のタイミングで噛みついてくるだけだ。』
バカルの言葉どおりだった。
跳ね返された野犬が後退りしている。
次に飛びかかって来る時には、もう読めていた。
剣の先を野犬に向けて、踏み込む。
さっきより怖さが少なくなった分、踏込みを鋭くできた。
野犬の右前脚に、わずかだが刃が入った。
ギャワんっ!と短く鳴いて、野犬は逃げていった。
日没が迫っていた。
身体を休またい気持ちを抑えて、俺は旧市街の出口に向かって走った。
やった。
やったぞ、ジャック。
痩せたハグレだったけれど、ダンジョンでの俺の初勝利だっ!
続きます
******************
成り上がれジャック!
ノカナのゴミ捨て場のスラムから
*** まあ、そうだよね。 *****
リンクを貼り付けていると、優音先生のイラストの力って凄いなと思う。
最近はもう、AI作画なんぞしていないけれど、単に技術だけではなくて絵師様達が有しているイメージが私なんぞと次元が違うような気がする。
そして、“ 可愛い ” なら可愛いに対する粘りというか熱意が違う。
そんな気がします。
Intermissionとして、時折書いているワーカダウトシリーズでも、pon先生のイラストを使用すると反応が違いました。
お二人に恥ずかしくないように、物語を頑張ります。
あ、1985シリーズのイラストとか、自分の作品紹介希望の方がいましたら、お声がけ下さい。
ではまた。
柾しの
