神の子とダンジョン ・ 第11話 − 189
「あの二人さ、死んだような目をしていないか。」と、エースさんが僕に話しかけてくれた。
普段はダンジョンの中でエースさんが僕に話かけるなんてことは少ないから緊張した。
バカルさんもジャック様もダンジョンと呼ばれる、この旧市街の奥にある宮殿地下三階に来たのは初めての筈なのに。
面倒くさげに、大きく口を開けたワニの横腹を一文字に切り払い、バカルが呟く。
「16家門なんてよ、偉すぎて実感わかねえ。」
バカルの背後でオイラは、ワニの眉間に戦斧・与三郎を打ち込み、そこそこのダメージを与えながら答える。
「アルス姫様がオイラと同じ人間だなんて、まだ信じられないんだよね。」
感情を失くしたような顔をした二人は、
天井から落ちてきたヘビを蚊でも払うかのように斬り捨てる。
「……なんだかなぁ。」と、またバカルがシラけた感じで言う。
「成り上がりてえ、とか言ってたじゃん。」とオイラは返したけれど、ラ・ケイダーャの件で城に呼ばれて、バカルは出世。
そして、オイラはアルス姫様に謁見したなんて、今だに夢でも見てたんじゃないかって思う。
エースさんが、少し離れた位置からバカルさんとジャック様を眺めながら、
「アイツら変な具合に集中してんなあ。」と言葉を漏らした。
確かに集中している。
何か話しているようだけれど、その内容までは僕には聞こえない。
二人の前に新しいワニが現れたけれど、焦る素振りも見せずに二人は身構える。
息も合っている。
さすが二人でラ・ケイダーャで帝国兵9名を切り捨てただけある、僕はいつか、あんなふうになれるんだろうかと思った。
バカルが一太刀でワニの尻尾を二つに断ち切った。
オイラは噛みつかんと襲って来たワニの口中に青白い火球を出現させる。
予想出来る動きだから、驚かない。
帝国兵の方が、ずっと怖かった。
爆発音のような響きを立てて、仰け反ったワニの心臓をバカルが突き貫いた。
迷いのない、真っ直ぐで疾いバカルさんの剣技。
ジャック様も魔法発動のタイミングが素晴らしい。
エースさんの言う通り、いつもと何かが違うけれど、見ている僕はまったく不安を感じなかった。
「話の邪魔すんなよ。」とバカルがワニに文句を言ってる。
「そうそう、アルス姫の披露宴だけどさ。
招待状見たトールの奥さんがドレス作りたいって……」とボヤきが出てしまった。
オイラ達の援護のため、背後にいてくれたトールが、毒ヘビを始末しながら
「すいやせん。」と首をすくめた。
「バカル=レドゥビア=ベルゼウだっけ、王様から名前もらったんだろ? 良かったじゃん。」
と、オイラが言えば、
「そう言うオマエだって、アルス姫に仕えて英雄になりたいとか、言ってたよな?
まあ、なったのは “ 神の子 ” だけどな。」とからかうように言った。
まあ、本当の事だから言い返せなかった。
それ以外は特に話すこともなくなり、二人で宮殿地下三階の奥へ無言で進んだ。
エースさんが苦笑しながら、
「しばらくアイツらに任せていっか。」
と、言うので
「僕も、戦弓を新調したんです。」と言ってしまった。
宮殿の地図作り以外も、僕にも出来ることはあるんだ。
エースさんが、お前までもかという表情を浮かべたのは少しショックだったけれど、
「そうかい。 やれよ、やってきな。」と答えてくれた。
* * *
一息ついたところで、バカルが聞く。
「……何の話してたっけ?」
「アルス姫さ、髪の毛がいい匂いしてた。」と、うっとりとした顔でジャック。
「人の話聞けよヲら!」
ジュニア君が、淡々と報告する。
「ジャック様、アルス姫の婚礼披露宴ですが母上とフランソワーズの礼装で、四十万バリイくらいです。」
「四十万っ!?」ジャックが正気に戻ったような顔で驚く。
エースが笑う。
「何言ってんだ。
もう二百万分くらいは倒してっゾ。
いや待てよ、俺とバカルが二割ずつだから、残りは百二十万か。」
さらにジュニア君が、
「ちなみに、僕の新しい戦弓と、ジャック様の新しい短剣で九十万バリイです。」
突如現れた吸血コウモリを、新調した短剣で真っ二つにしながら、ジャックが
「……借金、減らねぇ。」と、肩を落とす。
「気にすんな。」
そう言ってエースは眼前に現れた、この日一番デカいワニの方へ一人、スタスタと歩いて行った。
* * *
トールがジュニア君とワニやら大蛇を解体する姿を見ながら、エースさんが言い出した。
「今日はバカルのおかげで はかどったが、俺がなんで宮殿通いするのか、話してなかったよな。」
バカルは、さほど気にしてなかったのか、
「そういえば聞いてないな。」とだけ言った。
だけど、オイラには一大事だ。
今日で宮殿探索は終わりだ、なんて言われたらどうしよう!?
正直、焦った。
エースさんやバカル抜きで、ワニ狩りはあまりに危険過ぎる。
「城から、宮殿にある秘宝を見つけ出し、持ち帰れと言われている。」
エースさんの言葉に対して、バカルが下らないとでも言いたげに、
「エース兄、秘宝がいくつあるのか知らねえが、俺達に秘宝を見分けられるとは思えねえ。」と言った。
オイラはホッとした。
当分は宮殿通いを続けられるって、そういうことだろ?
エースさんは、顔の前で人差し指を立てて、二度三度横に振ってから
「バカル、この話が面白いのは、ここからなんだ。」と、また話し始めた。
要するに、この宮殿内部には、かなりの数の秘宝があると城の役人は考えている。
バカルの言う通り、どんな形の秘宝かは誰も知らない。
オマケに今は勇者が持っている “ 秘宝アナテス ” も、腕輪の形の時があれば、指輪の形になることもある。
「それでもな、秘宝を“確実に”見分ける方法がある。」
そう言って、エースさんはニヤリとした。
「テデクス。
そいつさえ見つけりゃ、あとは芋づる式なんだよ。」
秘宝テデクス。
その宝は、戦いにも城下の民の暮らしにも、ほとんど役に立たない。
だが、ひとつ目の秘密は ―― 精霊体となり、人と会話ができることだ。
「バカバカしい!
話をする精霊なんて聞いたこともねえ。」バカルは呆れたように吐き捨てた。
だが、オイラが秘宝アナテスの話をすると、バカルの表情が変わった。
……変わったが、それでも食い下がる。
「待てよ。
そいつがいたとして、どうなるんだよ。
『そこに落ちてるのは秘宝じゃ』とか教えてくれんのか?
第一、アナテスみたいに、そいつと話した奴がいるって話自体、信じられねえだろ。」
エースさんは、その言葉を聞いて、また同じ仕草をした。
顔の前で人差し指を立て、二度三度、横に振る。
「そのアナテスがな、一度だけテデクスと会っている。」
バカルが黙る。
「テデクスは、やたらおしゃべりな奴らしくてな。
『お前はテデクスか?』って尋ねると、必ず返事をするそうだ。
それだけじゃねえ。
秘宝や宝具を見せると、たちどころに――
それが、どんな使い方をされるべき物かを、答えるそうだ。」
そう言って、エースさんはオイラとバカルを見渡し、
「……分かったか?」と、静かに聞いてきた。
続きます
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今回のタイトルカットは、フレキシブルフランクことChatGPTの作画です。
6話までは、こちら。
7話以降は、こちら
こんな記事の最後まで読んで下さりありがとうごさいます。
秘宝アナテスとラビのイラスト紹介です。
どちらも作画:優音先生


