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この本で共有したいこと - 人間関係が苦手でもなんとかやっていくための本 試し読み版 4

シロイブックスより2026年1月に刊行した書籍「人間関係が苦手でもなんとかやっていくための本」の試し読み版です。

「試し読み版 4」の当ページでは、第一章「言葉のラベルを剥がす」の終盤部分を掲載しています。(前半と中盤に当たる「試し読み版 2」「試し読み版 3」がまだの方はそちらを先にどうぞ!)


本書で考えていきたいこと

全体の流れ

さて、本書全体の序論はここまでです。第一章の内容として、人間関係という難題をやっていく上で根底に持っておくべきスタンスについてはお伝えできました。この点は最も抽象的なレベルの指摘としてお話ししたので、次の章以降でこうしたスタンスをどのような実践の手順へと移していくのか、つまり「毎日の人間関係をなんとかやっていけている」という状態に繋げるのか、本書の全体像を説明しておくことにします。

本書では、人間関係における重要な視点を「三つの原則」という形で整理してお伝えしたいと思っています。この原則は「わからない」「距離感」「返報性」という三つのキーワードが柱になっており、これらはいずれも日々の周囲との関わりの中で、常に見えない形で働いている要素に当たります。

それぞれキーワードの性質としては、「わからない」は人間関係という課題全体の前提に属するもので、「距離感」は主に失敗を防ぐために、「返報性」は主に成功を掴むために重要になってくる視点です。つまり、前提を正しく確認した上で、成功よりも先に失敗を避ける方法を学び、最後に「人間関係の中に豊かさと奥深さを築いていく方法」を身につけるという流れになっています。

ただし、ここまでの序論が「当然だと思われていた解決スタンスへの疑問と訂正」をそれなりに多く含んでいたように、この第一章が終わっても「三つの原則」の要点に直ちに入れるわけではありません。前準備として考えておきたい内容がもう少し存在しています。それは「人間関係をプラスとマイナスの領域に分ける」「人間がどれほど間違いがちなのかを知っておく」という二点です。これらのステップは次の第二章と第三章で見ていきます。本題の「三つの原則」に取り組むことができるのは、以上のステップが済んだ第四章からです。この時点で、ページ数的には本書全体の三分の一が費やされている形になります。

また、本書のメインパートに当たる第四章~第六章で「三つの原則」を考えたあとには、第七章と第八章で全体の仕上げとなる複数のパートを見ていきたいと思っています。この区切りは本書全体でお伝えする内容の八割が済んだ時点です。第七章では、成人後の友達作りといった具体的なトピックに対して「普通の人間でも普通に実践できる」アドバイスを付け加えることにします。反対に、最後の第八章では再びこの第一章のような論調に戻って、私たちにとって最も重要な問いかけ、つまり「我々はこの世界でどのように苦しんでおり、それは結局のところ何のためで、そこに根本的な解決の光は与えられるのか」という疑問に立ち戻るということを行うつもりです。

本書はそれなりにボリュームのある本であり、おそらく最後のページまでを読み通すには時間もかかるし、多少なりとも頭を使わされることになるはずです。筆者は「俺の考えた正解」を読者に受け入れさせようとはしていません。むしろその言葉を疑い、あなたなりの新しい問いかけをさらに重ねてほしいと思っています。問いかけと問い直しという点では、ここまでの第一章と最後の第八章が特に多くの内容を含んだものとなります。

本書が重要視している指針の一つは「結論に飛びついてはならない」というものです。最後の章までを読み解いていく際の流れとしても、読者には思索と実践、自己の内省と他者の観察、仮の答えとその再検討といった二つのフィールドを行ったり来たりしてもらう形となるでしょう。

この本はどんなふうに偏っているのか

一般に、人の書いた意見や主張というものには偏りが含まれており、偏りが含まれないものはそもそも意見や主張とは呼ばれません。電話帳や元素周期表は客観的な情報として正確であり、客観的であるがゆえに、そこにメッセージは含まれていないのです。言い換えると、私たちは事実を客観的に理解した上でこの世界に向き合っていく必要がありますが、そこから示唆される答えは客観的でない何かになっている必要があります。

本書は客観的な情報源のような形でカッチリと整理されてはいません。なぜかというと、私たちの人生上の課題において、ある一点に収束するような客観的な答えというのは元から存在していないからです。議論を無駄なく一直線に組み立てられるのは「これこそが答えです」とあらかじめ決めてあるときだけで、本書は既にそのようなスタンスを否定しています。誰もあなたにそのような答えを渡すことはできません。そして、ゴールの方角が未知であるとき、四方に手と足を伸ばしてあれこれ探ってみるというのは必要な過程なので、必然的に、本書全体の流れも寄り道の多い内容となっています。

おそらく、大半の読者にとって「答えの方向性を最初に否定される」というのは珍しい経験であることでしょう。そこで、この本に一定の癖と偏りが含まれるということの確認と、それをできるだけ有効活用していただくにはどうしたらいいかという点も簡単に説明しておくことにします。

第一章を読んでいただいてもお分かりのように、本書で扱う内容は「コミュニケーション上の細かいテクニック」よりも「対人関係と人間そのものについての根本的な見方と考え方」のほうが多くなります。ただし、単純に「このように考えましょう」と言うだけでは、筆者の思い込みと決めつけを信じなさいと言っているのと同じですから、あくまで「読者自身が自分の力で目の前の相手を理解し、自己を理解し、現実の世界を理解していく」という仕事の手助けになるような内容をお伝えするつもりです。

人間関係のような難題の中で「頭で考える」と「実際にやっていく」ことが同程度に大事だとすると、前半の章は主に「考え方」のほうに、後半の章は「やり方」に寄せたアドバイスが多くなります。前半ではなるべく普遍的に「どのような人間についても言えそうなこと」を押さえることにして、後半の実践段階ではフォーカスを絞って「人間関係苦手族向けの生存戦略」を考えていくという流れです。現にある人間を見ようとせずに「こう振る舞うのが正解なのだ」と考えるのは独り相撲というもので、同時に典型的な失敗パターンの一つにも当たるので、この順番は必須のものとなります。

「わかったと思い込んではならない」というポイントを徹底しておきたい都合上、本書の特に前半では「こうしましょう」というタイプのわかりやすいアドバイスは意図的に避けています。前向きで実践的なアドバイスとしては、本書のメインテーマである「三つの原則」の最後の項目を扱う第六章、それから本書全体の仕上げへと向かう第七章以降でまとめてお伝えするつもりです。

また、本書でお伝えしていくアイデアは、筆者である私自身が「日常生活の中で無理なく実行が可能で、人間関係の改善に対して実際に効果がある」と確かめたものに限ることにします。一個人が考えたり体験したりしたことというのは、科学的に厳密な意味での「確かめた」とはもちろん異なるわけですが、少なくとも実際的な場面で使えない机上の空論をでっち上げるつもりはないし、人間関係という泥くさい課題の解決方法について、それを実態以上にスマートでかっこよく見せるような言い方もしないということです。

自分にとっての「しっくりくるやり方」というものをそれぞれが真剣に考え始めた場合、最後には私たち全員が異なる内容にたどり着くはずなので、この本に書かれた助言も「使えるものは拾い集めて、性に合わないものは遠慮しておく」という感じで使っていただければと思っています。本書の目的は「人間という複雑でよくわからないものをどうにか理解していく」ことにあるので、読み手の個々の性格や個別の状況と環境にはあまり左右されない本質的なアドバイスを共有していくつもりですが、それでも「合う合わない」ということはどうしても出てくるからです。

「なぜ私たちはただ一つの正解を共有することができず、それぞれが異なる答えを持たなければならないのか」という点については、主に第二章と第三章にて「主観性」というキーワードを中心に考察を進めていくつもりです。

各章の概要

ここまでに説明した各章(全八章)の内容について、章ごとの概要を改めて箇条書きにしてまとめておくことにします。これは本書全体の内容をわずか数ページ分に圧縮したものであり、一度読んだだけではその意味するところは伝わりにくいと思うので、最初はざっと目を通しただけという程度で構いません。

各章の見出しと概要は以下のとおりです。

  • 第一章:言葉のラベルを剥がす …… ここまでに見てきた序論。私たち自身の不安の表れであり、そこからの逃避先としての「答えと説明を求めたがる」という心の動きを取り除く。その上で、周りの人々と深い関係を築いていくための鍵となる「他の人々も周囲から理解されておらず、不安であり、孤独であり、理解を求めている」というポイントを認識する

  • 第二章:期待を適切に切り分ける …… 仕事とプライベートという大分類によって「他人に期待してよいこと」「期待しなくてよいこと」に適切な持ち場を与える。特に、職場においては「理解されなくてもよい」という姿勢への切り替えを行っておく。また、期待という感情を無理なく適切に取り扱うために、「正しさ」と「諦め」の意味についての理解を深める

  • 第三章:三つの原則を学ぶ前に …… 「AだからBになるとは限らない」という単純な論理は、そこに当てはめられる語句が「努力しても報われるとは限らない」となったとき、容易に受け入れられなくなる。論理よりも強い影響力を持つものとして、人が持つ感情、さらには論理でも感情でもない「主観」という最も強力な心の要素について、その積極的な意義と弊害の両面を正しく理解する

  • 第四章:わからないの原則 …… 他人に対する唯一の正しい認識である「わかっていない」という事実がどのように無視されているのか、そのとき代わりに補完される空想上の「わかっている」の原材料は何なのかを学ぶ。さらに、一般に「心理学」という誤った名前で流通している情報の傾向と問題点を整理し、確定済みの解釈や結論やノウハウではなく、未知であり未解決である事実そのものに向き合うという姿勢を再確認する

  • 第五章:距離感の原則 …… なぜ人間関係では距離感への配慮が大切なのかについて、人と関わるということの「コスト」の視点を鍵として理解を進めていく。誰もが理由のない「好き」と「嫌い」を持っていることを認識し、その「理由のなさ」に適切な立ち位置を与える。これらの根本にある、個々の人間がお互いに「違う」という事実から、「意味のある関わり合いを求めるなら、お互いに違っていなければならない」という新たな見方を引き出す

  • 第六章:返報性の原則 …… ここまでに学んだ「理解されていない」「同じではない」という万人に共通の背景をベースに、特殊な能力を必要とせず、無理に合わせるということもせず、それでいて相手にとって特別に大切な存在になるための方法論を身につける。根本的なスタンスとしての「自己の重要性を消しておく」という提案を行った上で、コミュニケーション上のいくつかの実践的なアドバイスを共有する

  • 第七章:追加のスパイスともう一仕事 …… マニュアルは現実を理解させてくれないという前提を押さえた上で、本書を通じて読者自身が見つめ、自ら理解した現実を改めて整理するために、仮のマニュアルとチェックシートをまとめる。次に、成人後に交友関係を広げていくための具体的なアイデアとして、趣味の開拓とネットの活用という二つのアプローチを提案する

  • 第八章:最後に残るもの …… 世間でよく聞かれる希望の言葉、諦めの言葉の双方が抱えている先入観を洗い直し、努力のための正しい方向性を見つける。最後に、何も見返りが約束されていないこの世界で発せられる「いったい何を希望として頑張っていけばよいのか」「これらの苦しみは最終的に解決されるのか」という疑問について、本書としての一つの解答を示す

この本の(そしてあなたの)本当の仕事

以上の内容をこれから一緒に考えていく中で、おそらく何割かの人々は「そういう小難しい話はもういいから、早く具体的で即効性のあるアドバイスをくれ」という反応を示すと思います。

本書としては、こうした反応には沈黙を返すしかありません。最初にパターン化と決めつけを否定したように、本書が指摘しようとしているのは「わかりやすい解答集のコピペでさっさと済まそうとする心理的な習慣」そのものの有害性であり、根本的には、筆者がこの本によって言おうとしている内容は「誰も正解を与えてはくれないという事実を受け入れ、生きることの困難にちゃんと向き合おう」という一文に集約されます。ここに同意していただける読者が少しでもいることを希望します。「誰でも楽に一儲けできる方法を教えてください」という声がどれほど強かったとしても、その質問に対する唯一の正しい答えは「そのような方法は存在しません」というもので、このとき具体的に説明できる答えはすべて虚偽なのです。

おばけの不在証明がそうであったように、これらの探求の過程では「こちらの方角に答えは存在しない」という事実を読者自身が確認し、納得していくということが極めて重要です。反対に、最短経路による直接的な解答の提示があなたにとっての安心や自信に繋がることは決してありません。他人が何を確認したところで、あなたが確認しなかったおばけが消えることはないからです。おばけとは不安であり、疑いであり、満たされなさであり、自分がこの世界に対して無力であるという感覚を指します。それを払拭したいのであれば、私たちは自ら進んで道に迷わなければなりません。そこで厳然たる行き止まりに直面し、その事実を受け入れ、がっかりした顔で引き返し、また別の道へと新たな探索を進めていかなければなりません。人間関係の話題に限らず、この世で「自信を持って生きていく」ということができるようになるのは、おそらくそのようにして自ら道に迷い続けた人だけでしょう。

一応補足しておくと、筆者としても直接的で明快なコミュニケーション上のノウハウ(形式的・最大公約数的なマナーとしての「こういう場面では○○したほうがよい」や「○○は失礼に当たることがある」等)も大切だという点には同意しています。ただ、そういった情報は他の場所でいくらでも読めますし、せっかく選んでいただいたこの本の役割は別の場所に据えておきたいことです。また、一般的な論じ方から離れるとは言っても、常識や良識と対立するような奇抜で目を引く極論というものも書きません。情報の飲み込みやすさ、ウケやすさや刺激の強さなどは、いずれもその内容が正確で役に立つということを意味してはいないので、本書としては「よりよく生きていくために重要であるにも関わらず、あまり注目も宣伝もされない視点」の話を中心にお伝えしていきたいと思っています。

このやり方は即効性のあるものではないかもしれませんが、読者が自分自身の生き方や人との関わり方を見つめ直すために、数年や数十年という長い年数をかけて成長していくような発展の種子をお渡ししたいというのが筆者の意図です。大学教育などでも「すぐに役に立つ知識はすぐに役に立たなくなる」という言葉があるそうですね。これはちょっと高い家電製品を買おうとしているときにふと思い浮かべる「安物買いの銭失い」ということわざにも似ています。そういうものを増やしてもしょうがないので、もっと長く使えるものを手に入れましょう。

全体の説明はこれで済みましたので、そろそろ実質的な本編である第二章に入りたいと思います。次の第二章では、人間関係の改善という仕事の最初の状況整理へと進むことにします。それは日々の関わり合いにおける「相手に期待してよいものは何で、期待してはならないものは何なのか」という切り分けについての話です。

第一章のまとめ

  • 人間を類型化し、対策をパターン化するという考え方を捨てる。「実はこれが正解です」はその情報がいいかげんなものであることの証明だと心得ておく

  • 言葉のラベルは事実よりもイメージを指している。それは主に「よい/悪い」「優れている/劣っている」「あるべき/あってはならない」という暗黙の価値判断を受け入れさせるために使われる

  • もっともらしい理論や説明の中に安心はない。他人の説明に安心を求めてはならない。与えられた目の前の現実に向き合い、実際に目の前にいる人々を理解しようとすることだけが本物の安心へと繋がっている

  • 自分を理解してほしいのなら、あなたは同じ分だけ他人を理解しなければならない

 
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