第6回:【属人化を手放せない事務職へ】職場の都合で属人化を余儀なくされた──仕組みが動き出したとき、仕事は私一人のものではなくなった【#ワークライクバランス】
仕事を続けていると、気づかないうちに「自分にしか分からない作業」が増えていくことがあります。
それは誇りというより、職場の事情や体制の問題で“手放したくても手放せない”まま積み重なってしまうことも多いものです。
でも本当に強いのは、「この仕事、誰でもできるよ」と言える状態へ、少しずつ変えていくことなのかもしれません。
今回は、属人化をそっとほどいていく“静かな勇気”についてお話しします。
第1章:属人化は、いつの間にか積み上がる
仕事を続けていると、気づかないうちに 「自分しか知らない作業」 が増えていきます。
最初はちょっとした便利さから任され、 「お願い、これもついでに」と頼まれ、 気づけば “その仕事=自分” という構図ができあがってしまう。
その流れの裏側には、 「頼られるのは嬉しい」という気持ちと、 「断ったら迷惑をかけてしまう」という 断れない責任感 が静かに積み重なっています。
そして、誰にも言えないまま心の奥に沈んでいくのが、 “もし私が休んだらどうしよう” という不安。
属人化は、特別な人だけに起きるものではありません。 むしろ、真面目に、丁寧に、誠実に働く人ほど、 気づかないうちに積み上がってしまうものなのだと思います。
第2章:手放せない理由は“優しさ”と“恐れ”だった
仕事を抱え込んでしまうとき、そこには必ず理由があります。
それは怠慢でも意地でもなく、もっと静かで、人として自然な感情。 今回は、その“心の動き”をそっと見つめていきます。
👉 迷惑をかけたくないという優しさ
属人化してしまう背景には、まず 「相手に迷惑をかけたくない」 という優しさがあります。
自分がやったほうが早い、確実、相手を困らせない── そう思うほど、仕事を抱え込みやすくなります。
この優しさはとても自然で、誰もが持っているものです。
👉 自分の価値が下がるのではという恐れ
もう一つの理由は、静かに心の奥に潜む 「恐れ」。 もし誰でもできるようになったら、自分の存在価値が薄れてしまうのではないか。
そんな不安が、手放すことをためらわせます。
これもまた、人としてごく自然な感情です。
👉 優しさと恐れが、属人化を強めてしまう
優しさと恐れはどちらも大切な感情ですが、 そのまま抱えていると、仕事はますます“自分だけのもの”になっていきます。
だからこそ、手放すとは、優しさを別の形に向け直すこと。
「相手を信じて任せる」という優しさへと変えていくことが、属人化をほどく第一歩なのだと思います。
👉 職場の体制で仕方なく属人化してしまう
上記の3つは一般的なお話でしたが、属人化は、個人の性格や考え方だけで起きるものではありません。
私の職場のように本来は二名体制が必要な仕事を一人で担わざるを得ない環境では、 どれだけ丁寧に働いても、属人化は避けられません。
子育て世代の女性が多く働く職場では、 お子さんの急な発熱などで休まれることも多く、 そのたびに「一人に依存した仕事」が大きなリスクになります。
上司に二名体制を求めても、職場の事情で難しい── これは多くの現場で起きている“構造的な属人化”です。
この章で扱うのは、 「あなたが悪いわけではない」 という視点でもあります。 属人化は、個人の問題ではなく、環境がつくり出すこともある。 その現実を言葉にしておくことは、とても大切です。
第3章:新人さんとの出会いが、気づきを運んできた
新人さんに仕事を引き継ぐ場面は、こちらの“癖”や“当たり前”が浮き彫りになる瞬間でもあります。
今回の出来事は、私自身が抱えていた属人化の重さに気づくきっかけになりました。
👉 ショートカット派の私と、マウス派の新人さん
中途採用で入ってきた新人さんに、複雑な作業を引き継ぐことになりました。
私は普段、ショートカットで高速に作業するタイプ。 一方、新人さんはマウス操作が中心。 同じ画面を見ていても、操作の“前提”がまったく違うため、 「ここをこうして…」と説明しても、なかなか伝わりませんでした。
👉 VBAとメーラー連携という“説明しづらい壁”
この作業には、VBAとメーラーを連携させる仕組みが含まれていました。
メーラーが立ち上がっていないと動かない、 例外処理が多い、 入力の揺れでエラーが出る── “説明しづらいポイント”がいくつも重なっていたのです。
新人さんにとっては、未知の世界。 私にとっても、言語化しづらい部分が多く、説明は難航しました。
👉 「全部伝えなきゃ」が空回りし、互いに疲れてしまった
「全部伝えなきゃ」
「全部理解してもらわなきゃ」
その思いが強すぎて、説明はどんどん長くなり、 新人さんの表情は次第に固くなっていきました。
私自身も、伝わらないもどかしさで疲れてしまう。 このとき初めて、 “属人化している仕事は、説明すればするほど重くなる” という現実に気づいたのです。
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▼新人さんとの引き継ぎでつまずいた経験については、こちらで詳しく書いています。
第4章:連休中に作ったチェックツール──属人化をほどく第一歩
新人さんとの引き継ぎで感じた「説明しても伝わらない」という重さ。 その行き詰まりをほどくきっかけになったのが、連休中に取り組んだ“ある作業”でした。
属人化を人から仕組みに移す──その最初の一歩です。
👉 Copilotさんと一緒に、例外処理を自動で見つけるツールを作った
新人さんとの引き継ぎがうまくいかなかったとき、私の頭に残ったのは 「せめて、変なデータだけでも自動で検知できる仕組みがあれば…」 という切実な思いでした。
1つのメーリングリストには、30件から多いときで400件近いメールアドレスが並びます。 その中には、
・目に見えない半角スペース
・@が2つ重なる入力ミス
・全角の混在
・長音 ー が混ざっている。
といった“人間の目では拾いきれないエラー”が潜んでいます。
これを新人さんに目視でチェックしてもらうのは、どう考えても現実的ではありません。
だから私は思いました。 「一人で背負う限界」を超えるには、“誰でもできる仕組み”を作るしかない。
連休中、私はパソコンを開き、Copilotさんに向かってこう打ち込みました。 「A列、B列、E列をチェックして、エラーがあれば色を変えてほしい。 できれば自動修正までできるツールにしたい。」
ここから、私とAIの試行錯誤が始まりました。 属人化を“人”ではなく“仕組み”に移すための、静かな第一歩でした。

👉 「全部説明しなくても、仕組みが助けてくれる」状態へ
Copilotさんと試行錯誤しながら作ったチェックツールが形になったとき、 私の中でひとつの大きな変化がありました。
それは、 「全部説明しなくても大丈夫かもしれない」 という、ほんの小さな安心でした。
これまで私は、
・どこにエラーが潜んでいるか
・どんな入力ミスが起きやすいか
・どの順番で確認すれば安全か
すべて“言葉で伝えなければ”と思い込んでいました。 でも、ツールが自動で色を変えて知らせてくれるようになると、 新人さんは画面を見るだけで「どこを直せばいいか」が分かる。
つまり、 説明しなくても、仕組みが先回りして助けてくれる状態 が生まれたのです。
この瞬間、私は初めて 「属人化をほどくって、こういうことなのかもしれない」 と感じました。
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▼ 今回のチェックツールづくりの背景や、 「誰でもできる仕組み」を作るまでの試行錯誤については、 こちらで詳しく書いています。
▼ また、そもそも「なぜマニュアルがあっても伝わらなかったのか」 その根本にある 目的・全体像・操作の三段構え については、こちらで整理しています。
👉 属人化を“人”ではなく“仕組み”に移すという発想
チェックツールが動き始めたとき、 私の中で静かに生まれたのは、 「属人化は、人が頑張ることで解消するものではない」 という気づきでした。
これまでは、 「私が全部覚えておく」 「私が全部説明する」 「私が全部チェックする」 そんな“人に依存したやり方”で何とか回してきました。
でも、仕組みが先回りしてエラーを教えてくれるようになると、 その前提が大きく揺らぎました。
「私が覚える」のではなく、 「仕組みが覚えてくれるようにする」。
この発想の転換こそが、 属人化をほどくための最初の一歩だったのだと思います。
人が頑張るのではなく、 仕組みが支える。 その状態をつくることが、 “誰でもできる仕事”への道を開いていくのだと感じました。
第5話:休み明け、新人さんに渡した言葉:「この仕事、誰でもできるよ」
休み明け、私は新人さんの席にそっとツールを置きました。 それは「任せる」というよりも、 “信じてみる”という小さな一歩でした。
👉 ツールと最初の一歩だけを渡す
私は、新人さんにすべてを説明しませんでした。 渡したのは、
・チェックツール
・最初に押すべきボタン
・そして「ここから始めてみてください」という一言だけ。
細かい説明をしなくても、 仕組みが先回りして教えてくれる。 だからこそ、最初の一歩だけを渡す勇気が持てました。
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▼ この“手放す一歩”が、どのように職場全体の体制づくりへつながっていったのか── その続きは、こちらで詳しく書いています。
👉 「困ったらここを見てください」と戻る場所を示す
新人さんが迷ったときに立ち返れるよう、 私は一枚のメモを添えました。
「困ったら、ここを見てください。」
戻る場所があるだけで、人は安心できます。 すべてを覚える必要はない。 “迷っても戻れる”という安心が、挑戦する力になるのだと感じました。
👉 新人さんの表情がふっと軽くなる──手放すことは信じること
ツールを渡した瞬間、新人さんの表情がふっと軽くなりました。 「これならできそうです」 その一言に、私の肩の力も抜けていきました。
このとき初めて、 手放すことは、相手を信じることなんだ と気づきました。
“自分が抱え込むしかない仕事”が、 “誰でもできる仕事”へと静かに変わっていく。 その始まりは、仕組みでも技術でもなく、 「信じて任せる」という小さな勇気だったのだと思います。
第6章:属人化を手放す勇気とは、“背負わされてきた重さを降ろす勇気”だった
私が抱えてきた属人化は、決して“自分で作ったもの”ではありませんでした。
二名体制が必要な仕事を一人で担わざるを得ない── そんな職場の構造の中で、気づけば背負わされていた重さでした。
この章では、その重さをどうやって降ろしていったのかを振り返ります。
👉 「私に押しつけられてきた」現実
長いあいだ私は、 「自分がやらなきゃ回らない」 そう思い込んでいました。
でも実際には、
・二名体制を求めても通らない
・子育て世代が多く、急な休みが頻発する
・それでも一人に依存したままの体制
こうした“構造的な属人化”の中で、 私が背負わざるを得なかっただけ でした。
属人化をほどくとは、 自分を責めることではなく、 押しつけられてきた重さを正しく見つめ直すこと から始まるのだと気づきました。
👉 仕組みを作ることは、自分を守るための選択だった
チェックツールを作ったのは、 「任せたいから」ではなく、 「このままでは自分が壊れてしまう」 という危機感からでした。
仕組みが先回りしてエラーを教えてくれるようになると、 新人さんが迷わず進めるだけでなく、 私自身も“説明し続ける負担”から解放されていきました。
仕組みを作ることは、 相手のためだけでなく、 自分を守るための選択でもあった のです。
👉 手放す勇気とは、“背負わされてきた重さを降ろす勇気”だった
属人化を手放すことは、 自分の価値が薄れることではありませんでした。
むしろ、
・仕組みが支えてくれる
・新人さんが自分で進められる
・私が背負っていた重さが少しずつ軽くなる
そんな“余白”が生まれていきました。
そして気づいたのです。 手放す勇気とは、自分を責める勇気ではなく、 背負わされてきた重さを静かに降ろす勇気だったのだと。
第7章:手放した先に見えた“軽さ”と“自由”
属人化をほどくというのは、仕事のやり方を変えることではなく、 長いあいだ背負わされてきた重さを、そっと降ろすことでした。
仕組みが支えてくれるようになると、 「自分が全部やらなきゃ」という緊張が静かにほどけていきます。
すると不思議なことに、 自分だけでなく、相手も軽くなるのです。
新人さんは迷わず進めるようになり、 私は説明に追われる日々から解放される。 仕事は“特別な誰かのもの”ではなく、 “共有できるもの”へと姿を変えていきました。
手放すとは、投げ出すことではありません。
信じることでもあり、未来に向けて一歩踏み出すことでもあります。
「私がやらなくても大丈夫」 そう思えるようになったとき、 仕事にも心にも、静かな自由が生まれました。
属人化をほどく勇気とは、 自分を責める勇気ではなく、 未来を開くために、自分を軽くする勇気だったのだと思います。
🌿 後書き
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
今回の連載は、突然の休暇で引き継ぎ先が見つからず、 課長の指示で中途採用の新人さんにメーリングリスト更新作業を渡すことになった── そのときの“引き継ぎの失敗”から始まりました。
私の職場では、私自身が属人化を望んだわけではありません。
二名体制が必要な作業でも、一人で担わざるを得ない状況が続き、 上司に相談しても体制が変わらない。 そうした“構造的な属人化”の中で、 気づけば私が背負っている、という状態でした。
そして今も、属人化している作業はまだたくさんあります。
長年の経験や勘で動いてしまう“暗黙知”も多く、 言葉にしようとすると、 「あれ、どう説明すればいいんだろう」 と立ち止まることがあります。
けれど、今回の連載を書きながら思いました。 暗黙知も、仕組みや手順、チェックツールの形にすれば、 少しずつ“共有できるもの”に変わっていくのではないか。
属人化をほどくことは、 誰かを責めることでも、 自分を責めることでもありません。
ただ、現場で働く私たちが少しでも軽くなるように、 未来の誰かが迷わず進めるように、 “仕組みとして残していく”という選択肢があるのだと気づきました。
この連載が、 同じように属人化に悩む誰かの心を、 少しでも軽くできますように。
🌱 次回予告
次回はいよいよ最終回です。
今回は“属人化をほどく”というテーマを、 仕組みづくりや引き継ぎの工夫を通して見つめてきました。 最終回では、その集大成として、 「相手のスキルに合わせて引き継ぎを行う」という視点を取り上げます。
同じ作業でも、 人によって理解の仕方も、つまずく場所も、安心できるポイントも違います。 その違いに気づいたとき、 引き継ぎはただの“手順の受け渡し”ではなく、 相手に寄り添うコミュニケーションそのものへと変わっていきます。
最終回では、 その“寄り添い方”がどれほど現場を軽くし、 属人化をほどく力になるのかを、静かに言葉にしていきます。
どうぞ最後までお付き合いいただけたら嬉しく思います。
▼第7回はこちらです。
▼もし「最初からじっくり読んでみたい」と感じてくださった方は、 こちらの第1回からどうぞ。 引き継ぎが苦手な事務職へ、やさしい仕組みをお届けしています。
▼事務職の本音や実務の工夫をまとめたマガジンはこちらです。 よろしければ、他の記事も覗いてみてください。
