【連載小説】フルート五重奏 #9(完)
「前半の部の最後に、今年、吹奏楽コンクールで銀賞を受賞した『モンブラン』を演奏します」
OGのアナウンスが、体育館に響いた。
樋口先生が、指揮棒を構えた。
できる限りの努力はした。大丈夫だ。
指揮棒が振り下ろされた。
『モンブラン』は、こんなに色彩にあふれた曲だっただろうか。
曲が始まると、何度も吹いた曲にも拘わらず、まるで初めて吹いた曲のように感じた。
ヨーロッパのアルプス山脈の一角を成すモンブラン。モンブランの幻の景色が、目の前に広がった。
モンブランに朝がやってきた。小鳥たちのさえずりと共に、風が凪いでいる。生命力に溢れたモンブランの光景が広がる。
徐々に、雲行きが怪しくなり、嵐がやってくる。激しい雨。唸る稲妻。荒れ狂う風。抗いようのない自然の厳しさが、叩き付けられる。
だが、嵐の後には、必ず、静けさがやってくる。
三ヶ尻先輩のソロが始まった。嵐をも包み込む、モンブランの雄大さを称える旋律が流れる。繊細なフルートの音が響き渡った。
三ヶ尻先輩は、こんなに上手かっただろうか。私は、これまで三ヶ尻先輩の音を、真正面から聞いたことがあっただろうか。
三ヶ尻先輩のソロに続いて、他のフルートも、クラリネットも、トランペットも、同じ旋律を奏でる。厳しさと共に併せ持つ美しさ。全員がいったいとなり、一つの音楽を紡いでいく。
悠久の時が流れ、主題に戻る。
荘厳な白い冠をかぶったモンブラン。その景色が、はっきりと頭に浮かぶと、曲が終わった。
音楽は、こんなに彩に満ちていたんだ。合奏は、こんなに一体感のあるものだったんだ。
一年間かけて気付いたものは、あまりにも大きかった。
私は頑張れる。フルートを吹き続ける。
三年生たちや美月の姿を横目に見ながら、固く決意した。(了)
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