「Solaria 2nd Stage 第五話|見えない距離」

「Solaria 2nd Stage 番外編|はじまりの音」
「Solaria 2nd Stage 第一話|星降る約束」
「Solaria 2nd Stage 第二話|ぎこちない光」
「Solaria 2nd Stage 第三話|はじまりの朝」
「Solaria 2nd Stage 第四話|揺れるスタートライン」
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「第五話 | 見えない距離」

夜。
自室。
制服のまま、ベッドに腰を下ろす。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
少しだけ、力が抜ける。
(……今日も)
ふっと、思う。
(ちゃんと、できた)
ダンス。
みんなの声。
揃っていく動き。
ひなたの笑顔。
あかりの真っ直ぐな言葉。
さくらの一生懸命さ。
ゆいの音。
(……楽しかったな)
ほんの一瞬だけ。
表情が、やわらぐ。
静かな部屋。
外の音は、ほとんど聞こえない。
時計の秒針だけが、やけに響いていた。
その時。
ふと、視線が床に落ちる。
「……?」

一枚の写真。
古い、写真立て。
いつの間にか、本棚の上から落ちていたらしい。
(……なんで、こんなところに)
手に取る。
少しだけ色褪せた紙。
青空。
芝生。
遠くに見える展望台。
そして。
四人。
父。
母。
幼い自分。
そして——
小さな妹。
「……」

指先が、止まる。
笑っている。
全員が。
(……こんな顔、してたんだ)
音が、蘇る。
笑い声。
風の音。
「お姉ちゃん!」
小さな声。
母の笑う声。
父の大きな手。
あの日の空気。
「……」
無意識に、指でなぞる。
幼い妹の笑顔を。
でも。
次の瞬間。
その手が、止まる。
(……今は)
ゆっくりと、視線を外す。
でも。
また、見てしまう。
部屋の中。
静かすぎる空間。
テーブルの上。
ラップをかけられたままの夕食。
もう冷えている。
父は、まだ帰ってきていない。
最近、まともに顔を合わせた記憶もない。
「……」
写真と、今。
何もかもが、違いすぎた。
「……なんで」
小さく、漏れる。
「……なんで、私だけ」
そこから先は、出てこない。
胸の奥が、ざわつく。
写真の中では。
みんな、笑っているのに。
今は。
母も。
妹も。
どこで暮らしているのかさえ、分からない。
「……会いたい」
ぽつりと漏れた声。
「……会いたいよ……」
でも。
返事はない。

しおりは、唇を噛む。
「……なのに」
声が震える。
「……連絡先すら、知らない……」
視界が、少し滲む。
五年前。
家族が別々になった日。
「少しだけだから」
そう言われた。
でも。
気づけば、五年経っていた。
母とも。
妹とも。
会えないまま。
「……っ」
息が、少しだけ荒くなる。
(……なんで、こんな)
感情が、胸の奥で膨らんでいく。
どうしようもなく。
行き場もなく。
その時。
ドアの向こうで、足音がする。
一瞬だけ、視線が向く。
帰ってきたんだ。
でも。
ドアは開かない。
「……」
何も言わない。
何も、起こらない。
ただ。
静かなまま。
その空間だけが、現実だった。
しおりは、写真を握りしめる。
少しだけ、強く。
(……どうして、私だけ)
頭の奥で、感情が渦を巻く。
寂しい。
苦しい。
会いたい。
なのに。
そんなこと、誰にも言えない。
Solariaのみんなの顔が浮かぶ。
ひなた。
あかり。
さくら。
ゆい。
みんな、真っ直ぐで。
あたたかくて。
眩しくて。
だからこそ。
余計に、苦しくなる。
(……こんな私)
(……隣にいていいのかな)
その瞬間。
胸の奥の何かが、軋んだ。
しおりは、写真を伏せる。
でも。
何も消えない。
「……もういい」
小さな声。

ベッドへ倒れ込む。
長い髪が、シーツへ流れる。
目を閉じる。
(……いっそ)
呼吸が、浅くなる。
(……全部、忘れられたらいいのに)
暗い部屋。
静かな夜。
でも。
何一つ、終わらなかった。
そして。
その止まった感情は、少しずつ——
Solariaの中へ、滲み始めていく。
第五話 見えない距離 (終)
▶ Solaria 2nd Stage 第六話|
― すれ違うリズム ― へ続く
