見出し画像

ノルウェー政府年金基金CEO Nicolai Tangen「本気で逆張りするなら、AI投資を減らして不動産を増やすべきだ」

「5という数字は、高いか低いか?」

ノルウェー政府年金基金(運用資産約2兆ドル)のCEO、Nicolai Tangenが、アメリカ人にこの質問をすると、「低い」という答えが返ってくる。同じ質問を欧州人にすると、「かなり高い」と答える。この野心レベルの違いが、米欧の経済格差を生んでいる——Tangenはそう考えている。


1. 「逆張り投資」としての不動産——AIバブルの裏側


1-1. 「今、皆と逆のことをするなら?」

インタビュアーが、「今、何に対して逆張りしているか?」と尋ねたとき、Tangenは即座にこう答えた。

「本当に皆と逆のことをしたいなら、AI関連投資を減らして、不動産投資を増やすべきだ。不動産は、非常に不人気で、大手投資家たちがエクスポージャーを減らしている。それはおそらく、より良い時代が来る兆候だ」

彼は、不動産の中でも、特にオフィス市場を「最悪のクラス」と認めた。COVID-19によるリモートワーク拡大、銀行システムの一部に起きた問題、金利上昇——複数の要因が重なり、「ある種の完璧な危機」が発生した、と。

1-2. AIバブルの指標

一方で、Tangenは、AIセクターが過熱していることも認めている。

「NvidiaのCEO、Jensen Huangが、韓国のSamsungを訪れ、フライドチキン店で写真を撮ったら、そのチェーンの株価が20%上昇した。韓国で鶏を飼育している企業も上昇し、ロボットアームでチキンを揚げる企業も上昇した。これはセクターが非常に過熱していることを示している」

彼は、AIバブルの証拠として以下を挙げた。

  • 高いバリュエーション

  • 循環的な所有構造(circularity in ownership)

  • ベンダーファイナンシング

  • ニュース報道の過熱

しかし、同時に、AIが生活を根本的に変える力を持つことも認めている。

「我々の会社では、AIを活用することで生産性が約20%向上している。同じ人数でより多くのことを、より高い品質で生産している。ヘッドカウントを横ばいに保ちながら、生産量を増やしている」

2. 欧州と米国——野心レベルの決定的な差


2-1. 「5は高いか、低いか?」

Tangenは、欧州と米国の最大の違いを「野心レベル」だと断言する。

「アメリカ人に『5は高いか低いか?』と聞くと、低いと答える。欧州人に同じ質問をすると、かなり高いと答える。成長率や野心に対する概念全体が異なる」

彼はニューヨークで1ヶ月過ごしながら、こう感じたという。

「ニューヨークのエネルギー、起業家精神、推進力——ここにいるだけでエネルギーをもらえる。野心レベルが非常に高い。欧州も素晴らしい場所だが、理由が違う。文化的に素晴らしく、食べ物も多くの場所で良い。しかし野心は低い」

2-2. 「高い野心は、失敗しても偉大なことを成し遂げる」

Tangenは、野心の重要性をこう表現した。

「非常に高い野心を持てば、失敗してさえも偉大なことを成し遂げる。低い野心を持てば、成功してさえも何も成し遂げない。だから高い野心を持つことは素晴らしい」

彼が、Wharton(ウォートン・ビジネススクール)に入学したとき、文化的ショックを受けたという。

「ノルウェーは、Whartonの正反対だ。ノルウェーでは誰もが同じであるべきだ。『Janteloven(ヤンテの法則)』という概念があり、『自分が素晴らしいとは思うな』という規範がある。Whartonの授業で『人生で何を成し遂げたいか?』と聞かれ、ある学生が『世界を征服したい』と答えた。Whartonでは、完全に普通の発言だが、私の出身地では全く普通ではない」

3. 「1日だけ首相なら、AIをあらゆる場所に注入する」


3-1. スウェーデンとアイスランドの先行事例

Tangenは、「もし1日だけ首相になれるなら、AIをあらゆる場所に注入する」と述べた。

彼が参照したのは、スウェーデンの1980年代の政策だ。

「スウェーデンは1980年代、『Home PC』プログラムで80万台のPCを購入し、人々の家に配った。当時の人口は600〜700万人程度だった。これが国のデジタル化を加速させ、今ではSpotify、Klarnaなどが生まれた。直接的な因果関係かどうかはわからないが、デジタル化を促進したことは確かだ」

アイスランドも同様のアプローチを取っているという。

「アイスランドは、Anthropicと協力プロジェクトを発表し、すべての学校にAIを組み込む予定だ。これはノルウェーにとって完璧な施策だと思う。高度にデジタル化された国で、人々は余暇を大切にする。AIはそれを支援する」

3-2. Jensen Huangの「一生に一度の機会」

Tangenは、Nvidiaに関する書籍を読み、Jensen Huangが語った「一生に一度の機会」という表現に共感したという。

「これは人々、企業、国にとって、差を広げる一生に一度の機会だ。もしこれをやらなければ、取り残される」

4. 生産性向上の実感——「何もしないこと」が最も難しい


4-1. 慣性分析(Inertia Analysis)

Tangenは、長期投資における重要な原則として「何もしないこと」を挙げた。

「富は、基本的に、1つか2つの本当に良い資産を所有し、非常に長期間保有することで生まれる。つまり、所有権の変更をできるだけ少なくすることでお金を稼ぐ。しかし、ポートフォリオマネージャーを想像してほしい。月曜に帰宅して夫に『今日何をした?』と聞かれ、『何もしていない』と答える。火曜も水曜も木曜も金曜も同じ。週末に『今週何かした?』『何もしていない』——これは直感的に簡単ではない」

彼は、「慣性分析(Inertia Analysis)」という手法を紹介した。

「1月1日のポートフォリオを取り、一切変更を加えなかった場合の投資結果を見る。そして、実際の年間結果と比較する。多くの場合、自分が行った変更が実際にはパフォーマンスを悪化させている」

4-2. 直感と分析の組み合わせ

Tangenは、欧州のトップ20資産運用者にインタビューした研究を行った。そこで得た知見は以下の通りだ。

「『直感(gut feel)』と呼ぶと誰も信じないが、『パターン認識』と呼ぶと多くの人が信じる。他人の直感は誰も信じないが、自分の直感だけは信じる。若いときは直感を使えない。上司に『Apple株を1億ドル買うべきだ』と言い、『なぜ?』と聞かれて『直感だ』と答えても、誰も聞いてくれない。だからかなりシニアで、理想的にはボスである必要がある。そして直感は時間とともに良くなる」

最も優れた投資家は、直感と分析の両方を状況に応じて使い分けるという。

5. 組織文化の変革——「10年プロジェクト」


5-1. 140人との対話から始める

Tangenは、新しい職に就く際、140人と対話を行った。

「ある人にアドバイスを求めた。彼は『新しい仕事を始める前に多くの対話をしろ。始めた後では時間がない』と言った。人々はあなたを知る必要があり、あなたも彼らを知る必要がある。意思決定のためのデータポイントが必要だ。だから140人と座り、『何を考えているか?』と聞いた。半分終わる頃には、やるべきことの全体像が見えてくる。同じことが何度も出てくるから、強いシグナルだ」

5-2. 文化変革には10年かかる

「文化を変えるには10年かかる。私は5年この仕事をしているが、まだ半分くらいだと思う」

もし早く変えたいなら、どうするか? という質問に対し、彼はこう答えた。

「早くやりたいなら、人を解雇して入れ替える必要がある。一部のビジネスではそれができるが、欧州では難しい。そして我々には素晴らしい人材がいる。ただ、いくつか変えたいことがあるだけだ——フィードバックをもっとシステムに組み込みたい、もう少し速く動きたい、恐怖を少し減らしたい」

おわりに——「人生は人気投票ではない」


Tangenは、大学でのプレゼンテーションでこう問いかけるという。

「他人と違う考え方をする人、変わっていると思う人、誰も理解してくれないと感じる人、手を挙げて」

通常、10%未満しか手を挙げない。

「君たちは素晴らしい。ぜひ雇いたい。残りの90%、手を挙げてくれ。申し訳ないが、君たちは他の皆と同じだ。大金を稼ぐことはないだろう。でも希望はある。変わることはできる」

彼は最後にこう締めくくった。

「人生は人気投票ではない。妻は『友達がいない人だけがそう言う』と言うが、私はそうは思わない。人生は確実に人気投票ではない」

オススメ記事


Next Big Wave(成長株・アイデアの種・トレンド深掘り)



いいなと思ったら応援しよう!