見出し画像

【のらえもん対談】インフルエンサー宅建業におけるポテンシャルと課題を語ろう


インフルエンサーが不動産業界へ進出し、自ら宅建業免許を取得して仲介ビジネスを手がける事例が増えています。

「SNSで集客できるインフルエンサー仲介」の強みとは何なのか。また、弱点があるとすれば、それは何なのか。

業界の表も裏も知る、のらえもんさんにお聞きしました。
聞き手:すんで社 南

目次

  1. インフルエンサーの宅建業参入

  2. 「集客特化」か「実務完結」か──スケール化を阻む構造的課題

  3. 組織化と経営者の資質──「できないこと」を認める強さ

  4. 仲介手数料の定額化・低廉化議論と「完全自由化」のゆくえ

  5. 不動産仲介の「真の存在意義」とソリューションビジネス

  6. おわりに:持続可能な不動産ビジネスを築くために

1. インフルエンサーの宅建業参入

すんで南 ここ数年、SNSで強い影響力を持つインフルエンサーが宅建業者になって、不動産仲介業へ参入する動きが増えています。

弊社代表「すんで埼玉」をはじめ、さまざまな不動産アカウントやSNS発信者が宅建業免許を取得してプレイヤーとしてデビューしています。

アマチュアから宅建業者になっていくこの数年の流れを見ていて、どんな風に捉えていますか?

のらえもん 私自身は宅建業者ではないのですが、その目線から見ると、多様化が進んでいるなと感じますね。

この流れが生まれている最大の理由は、エンドユーザー(家を買う人・売る人)の「とにかく絶対に失敗したくない」、「信頼できる誰かに相談したい」というニーズにあります。

マイホームの購入や売却は、人生でも最大級の買い物です。

だからこそ「詳しい人に直接聞きたい」というモチベーションが働く。

従来は、マスメディアやテレビCM、あるいはSUUMOのような大手ポータルサイトから、物件を探していました。

それが今や、誰もがスマホを持ち、SNS上で日常的に発信者の考え方やキャラクターに触れています。

集客や相談の起点が「広告」から「個人」へとシフトしているわけです。

これは決して一時のブームではなく、時代の趨勢(すうせい)だと思います。

すんで南 なるほど。依頼側の視点に立ってみると、「顔が見える不動産屋さん」は、需要がありますよね。

たとえ大手仲介に頼んだとしても、担当になる営業マンが自分と価値観が合うか、希望をしっかり汲み取った提案をしてくれるかは、ガチャ要素が否めないですからね。

のらえもん そうなんですよ。

「このインフルエンサーさんに、担当してもらいたい」と指名できること自体に、明確なニーズと安心感がある。

従来型の取引を重視する不動産業者からすれば「実務を知らないアマチュアが、業界に入ってくるのは、取引相手として怖い」という拒否反応が出るのも無理はないでしょう。
不動産仲介は様々なフローがあり、どれ一つとしてミスが許されない。
自分も相手もプロだから取引を媒介できるという思いがあるはずです。

ただ、不動産インフルエンサーがエージェント型的に不動産仲介業界に参入してくるのは、時代の流れとしてはごく自然な変化だと捉えています。


2. 「集客特化」か「実務完結」か──スケール化を阻む構造的課題

すんで南 一方で、注意点やハードルはどこにあると思われますか?

のらえもん はい。それは「人を集めたり共感させたりする才能」と「取引を安全にまとめる才能」は別物であるということです。

ビジネスとして参入したインフルエンサーが一番成功しやすい王道のパターンは、「集客に特化すること」なんですよ。

実務まで自分で全部抱え込もうとすると、途端にスケール(規模拡大)が難しくなります。

すんで南 「インフルエンサーが、すべて自力でやろうとしない」ことがキーになるということでしょうか。

のらえもん そうです。

重要事項説明書(重説)を作成したり、契約書を作ったりするのは、資格を取って勉強すれば、できるようにはなります。

ですが、インフルエンサー不動産の本質的な強みは、そこではありません。

不動産仲介ビジネスにおいて最もコストがかかるのは、ポータルサイトへの掲載料や広告費です。

そこにお金を払わずに、自身のインフルエンス力で集客し続けられる状態をどう保つか。

集客に特化して、実務は信頼できる経験豊富なプロフェッショナルや提携会社に任せるモデルのほうが、収益性も高く、安全で、スケールしやすいはずです。

すんで南 実務まで完璧に1人でまとめようとすると、物理的に限界が来ますよね。

実際の仲介業務って、物件を案内して、契約書を交わすだけではありません。

複雑な住宅ローンのアレンジや価格交渉、人間関係の調整や細かな事務処理など、表には出てこない繊細さを求められる業務が、山ほどあります。

のらえもん そうなんです。

そして、その泥臭い実務作業って、実はインフルエンサー本人じゃなくてもできることなんですよね。

むしろ、インフルエンサーがそこにリソースを取られてしまうのは非常にもったいない。

人間の時間は、全員平等に、1日24時間しかありません。

類稀なるインフルエンス力を持っているなら、その時間は、集客や発信に集中させるべきです。

すんで南 私自身の体験でも、創業して2年くらいは「すんで埼玉が集客して、宅建士である私が事務作業を担当する」という分業体制を組んでいました。

ですが、どれだけ頑張っても、1人の人間が1日に丁寧に確認して、書ける重説、読める重説の数には限界があります。

繁忙期にどれだけ相談や依頼が来ても、物理的にキャパオーバーになって断らざるを得なくなってしまう。

自分のクオリティと同等に実務をこなせる人を採用するか、任せられる組織の仕組みを作っていかないと、件数は絶対に増やせないんですよね。拡大期において、そのジレンマは痛切に感じていました。

のらえもん 1人のインフルエンサーの労働力だけに依存していると、年間でこなせる取引数は、数十件が限界でしょう。

ですが、世の中では年間何万件、何十万件という不動産取引が行われています。

年間数千万円〜億単位の売上を上げて自分のビジネスを成長させたいのか、それとも世の中の不動産取引の仕組みそのものを良くしたいのか。

本当に世の中を変えるレベルまで、自らの事業をスケールさせたいのであれば、個人プレーを脱却して、集客・営業・契約実務・ローン処理といった「集団業」としての組織や仕組みを作らなければなりません。

自分が作業に追われて忙殺され続けると、インプットが減って発信の質も落ち、悪循環に陥ってしまいますから。


3. 組織化と経営者の資質──「できないこと」を認める強さ

すんで南 個人プレーから組織へと脱皮していくためには、経営者としての資質やスタンスも大きく影響してきますね。

のらえもん プレイヤーとして優秀で、何でも自分でこなせてしまうマルチな人ほど、実は事業をスケールさせるのが難しい..というジレンマがあります。

自分でできてしまうからこそ、人に任せずに自分でやってしまい、結局24時間の限界にぶつかる。私自身、ジレンマを感じる部分もあります。

世の中で会社を大きく成長させている経営者って、実は「明確な弱点や、できないことがある人」が多いんですよ。

すんで南 自分にできないことが分かっているからこそ、最初から得意な人に任せたり外注したりする判断が素早くできるわけですね。

例えば「すんで埼玉」=岡野および、すんで社の経営戦略でいえば、創業の初期段階から、社長である岡野自身が得意でない分野を、惜しみなく外注したり、プロに頼ったりしている点は、面白いと感じていました。

確定申告や会社の約款作成、実務の穴埋めなど、最初からお金をかけて、専門家や顧問をつけて、手堅く固めていました。普通は、キャッシュアウトが怖いから、なるべく自力でやってしまおうと考えがちですが、彼は違う。

そして何より、「あの人にはここが足りないから、周りが助けてあげなきゃ」と、周囲の優秀な人を惹きつける、愛嬌や巻き込み力を持っています。私自身も不動産や宅建業のプロなので、巻き込まれた側ですが(笑)
すんで埼玉=岡野は、周りを味方にして、巻き込んでいく才能がすごいです。

のらえもん まさに大将の器ですね。彼は育ちが良いんですよ(笑)。

自分自身は完璧な実務家ではないかもしれないけれど、実務の死角(ブラインドサイド)を埋めてくれる、南さんのような経験者を早期に確保し、さらに発信や実務を強化するための人材を次々と採用して連鎖を作っていく。

これができたからこそ、すんで社は組織として拡大してきたわけです。

不動産取引は動く金額が大きい分、調査不足や重大な見落としがあった際のリスクや損害賠償請求のインパクトも非常に大きくなります。

規制に守られている産業であると同時に、常にリスクと隣り合わせの業界です。

だからこそ、インフルエンサーが立ち上げる会社ほど、実務のリスクをしっかり補完・担保できるプロフェッショナルな人材を、組織内に組み込めるかどうかが、規模にもよりますが、ポイントになるのではないでしょうか。



4. 仲介手数料の定額化・低廉化議論と「完全自由化」のゆくえ

すんで南 最近では、従来の「3%+6万円」という法定上限にこだわらず、仲介手数料を「定額制」にしたり、割引を前面に出したりするビジネスモデルも登場しています。

こうした手数料の定額化・低廉化の動きについてはどう見ていますか?

のらえもん 手数料の低廉化(安くなる方向へのシフト)自体は、どのような業界でも見られる消費者の潮流ですので、自然な流れかなとは思います。

ただし、媒介業(仲介業)において手数料を安く設定するのであれば、当然ながら、サポートする範囲や負うべき責任も限定的にせざるを得ません。

不動産仲介という仕事は、書類を作るだけでなく、人間の弱さや迷い、複雑な感情に深く向き合う仕事だからです。

すんで南 条件が完璧に整っていて、迷いなくスムーズに決まるお客様ばかりではありませんもんね。

のらえもん はい。まさにそこがポイントです。

都心の人気タワーマンションを、1回の内見でスパッと決めて購入できるような属性のお客様は、市場全体で見ればほんの数パーセントしかいません。

その数パーセントの方からすれば「ただ案内して書類を作っただけで数百万の手数料を取られるのは高すぎる」と感じる気持ちも分かります。

しかし現実の現場では、幾度となく内見を重ねても決まらない方や、ローン付けや相続関係で、泥臭い調整が必要、いわば高コストな案件がたくさん存在します。

現行の宅建業法は「成約時の成功報酬」しか受け取れないルールになっているため、実質的にスムーズに決まった取引の収益が、手間のかかる取引のコストや人件費を相殺して業界が成り立っているという、構造的な側面があるのです。コストが低いお客様からすれば、コストが高い他人の分まで負担しなきゃいけないの?という不満はあるのでしょうけど。

すんで南 もし「案内1回につき〇〇円」という内見料+成約報酬のような段階制・二段階制が普及すれば分かりやすいですが、法的な絡みもあり、現実的には難しいですよね。

のらえもん  「内見料をいただきます」と言った瞬間に、お客様は別の無料の不動産屋に流れてしまうでしょうし、そもそも内見料は宅建業法違反になっちゃいますね。逆に、内見の回数が少ない人ほど割り引く制度なら、意思決定の後押しになるかもしれない。
ですが、もし国が上限・下限の規制を完全に撤廃して「仲介手数料の完全自由化」に踏み切れば、業界のプレイスタイルは一変するはずです。

「お試し内見プラン」や「完全定額フルサポート」など、多様なサービス形態が生まれておもしろくなると思います。

自由化された世界では、各業者が自分たちの提供するバリュー(価値)に応じた価格設定を行い、エンドユーザーも自分のニーズに合った業者を選択できるようになるのが理想的な姿かもしれません。


5. 不動産仲介の「真の存在意義」とソリューションビジネス

すんで南 仲介手数料が高いか安いかという議論は尽きませんが、売買取引におけるパーセンテージの差について、どう考えますか?

のらえもん 身も蓋もない言い方をすれば、実際の不動産売買において仮に「1%」という金額差は、物件価格の「誤差」の範囲に過ぎないことがほとんどです。

例えば、1億円の物件があったとします。

相場の変動や交渉のタイミングによって、1億円の物件が1億100万円で売れることもあれば、9,900万円に下がることもあります。

もし手数料として、仮に1%(100万円)をしっかり支払ったとしても、優秀で腕のあるプロの仲介が入ることで、戦略的な売り出しや適切な価格交渉を行い、100万円以上高く売却できたり安く購入できたりすれば、お客様にとって実質的な損はありません。

すんで南 まさにそれこそが、プロの仲介が発揮すべきバリューですよね。

単に契約書類を右から左へ流す作業員ではなく、プロとしての知見を活かして価格交渉やリスク回避を行い、お客様に価値を還元する。

のらえもん 流通量が豊富で人気の都心タワーマンションやワンルームマンションなどは、市場が確立しているため、極端な話「自動販売機」のように査定も売却もスムーズに進みます。

ですが、そうした恵まれたエリアや物件は、日本の不動産市場全体から見れば非常に特殊で限られた世界です。それも今年に入って潮目が変わりつつあるので、永続的に自動販売機的な市場が存在するわけではありません。

郊外の戸建てや築年数の古い物件、親から相続した実家など、世の中には売却が難しかったり、手間の割に利益が出にくかったりして困っているお客様が膨大に存在します。

すんで南 個人的には、どんな物件や条件であっても、困っているお客様が存在する限り、プロとして向き合ってソリューション(解決策)を提供したいという想いがあります。

「このエリアは単価が低くて儲からないからやりません」と取捨選択するのではなく、難易度の高い案件や困りごとも含めて、なるべく受注させていただき、成約という形で解決していきたい、と思っています。

6. おわりに:持続可能な不動産ビジネスを築くために

今回の対談を通じて、インフルエンサー宅建業が参入期を超えて持続可能なビジネスとして成長していくためのポイントが整理できました。

  • 集客の強みを最大化する: ポータルサイトに依存せず、自身の発信力で集客できるコストアドバンテージを活かす

  • 実務の補完とリスク管理: 規模にもよるが、調査・重説・ローン付けなどの実務リスクを補完できる経験豊富なプロと組み、安全な取引を担保する

  • 組織化と外注戦略: 経営者が1人で抱え込まず、得意分野に集中して適材適所のチームを作る

  • 価格以上のバリュー提供: 単なる手数料の安さ勝負に陥らず、プロとしての交渉力やソリューション力でお客さまに還元する

不動産業界へ新しい風が吹き込むことは、業界全体の活性化にとっても素晴らしいことです。

しかし、契約が成立した後の「安全性」と「お客様の将来の安心」との両立を図る必要があります。

発信力という「集客のエンジン」と、確かな実務力という「安全のブレーキ」。

この双方を高いレベルで両立させ、持続可能な組織を築いていくことこそが、これからの時代に求められる宅建業のリアルな姿と言えるのではないでしょうか。


この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー