【音楽の可能性の拡張】恐れるものなどなにもない。これが自由だ。自由の形は複数形。ー石田幹雄さん(pf)と吉田野乃子さん(as)の危険でスリリングな接近遭遇@西荻窪アケタの店。2025年4月24日。

いやぁ、まさかこんなとんでもない規格外の音楽に遭遇できるとはおもってもみなかった。いいえ、作曲家=ジャズ・ピアニストの石田幹雄さんの音楽性の幅は、いわゆる現代音楽も色を失なうような、あえていえば(!)スクリャービン、メシアン、クセナキス、セシル・テイラーの系譜と、ビリー・ストレイホーン、セロニアス・モンク、エリック・ドルフィーの遺産を融合させているかに聴こえながらも、しかしけっきょくはそれはまさに石田さんならではのもの。一曲10分ていどの曲から30分に及ぶインプロヴィゼーションまでジャズ色の強いものから現代音楽をも喰ってしまうものまでボーダーレスであり、ひじょうに創造性に富んでいる。だからこそ、ぼくはこの夜もまたいそいそうれしがって西荻窪アケタの店へ駆けつけたのだ。



他方、この夜の共演者、アルト・サキソフォン奏者の吉田野乃子さんのことを迂闊にもぼくはまったく知らなかった。野乃子さんがまたゆで卵みたいなかわいい顔した、前髪の両サイドを頬のラインまで伸ばしたポニー・テイルの女性ながら、しかし野乃子さんの演奏はバリビリブリボリバリバリブリボリと素早い運指でぶっとい音を散乱させつつ音楽を絶叫に導いたかとおもえば、一転して、歌心あふれるエレジーをも高らかに歌いあげるメロディアスな音楽性もまたあって、演奏は堂々たるもの。リズム感がまた抜群だ。(ぼくは後に知ったことながら)野乃子さんはニューヨークのアヴァンギャルド・シーンで音楽に開眼した人で、石田さんとは共有できる部分を持ちながらも、かなりかけ離れた音楽観がある。(くわしくは後述します。)そしてあろうことかこの夜このふたりが危険でスリリングな接近遭遇を果たすのだ。



共演者が誰であろうが、石田幹雄さんが誰かがソロを取るときバックにまわって伴奏に徹するするなんてことは一切ない。石田さんが参加するときは、つねにすべての演奏者が対等に渡り合い、各プレイヤーの演奏が平行して運動を続けてゆく。したがって、石田さんはたとえベースとドラムスとトリオで演奏するときであっても、けっしてリズム隊の上に乗っかるのではなく、むしろ石田さん自身の正確きわまりないリズムで演奏する。したがって、きわめて厳密に言えば、ピアノとドラムスがごくわずかながらポリリズムに聴こえる。これがひじょうにスリリングだ。また石田さんのビート感覚は、たとえ4ビートの曲であろうと、32ビートで曲を認識しているようなシャープで微分的なスリリングさだ。しかも石田さんのアドリブはきわめて知的な変奏曲さながらで、それでいて火花が散るほどのパッション、音色は力強く、その音は氷の塊を鑿で削ったように輝いている。


ましてやこの夜は、石田さんのフリーキーで鍵盤の上を十本の指がこまねずみのように動き回り、時にトーン・クラスターが創造的暴力性を発揮する激しいピアノと、吉田野乃子さんの、もしも音だけ聴いたらそれこそニューヨ-クの男性アヴァンギャルド・サキソフォン・プレイヤーに聴こえる音楽性がぶつかり合いながら、平行してひとつの音楽を生成してゆく。野乃子さんの演奏は鳥の鳴き声のような音から悲鳴や絶叫、はたまた情感たっぷりのエレジーに至るまでひじょうに多彩な表現がある。野乃子さんの演奏はまさか童顔の日本女子によるものとはとうていおもえない。



すなわち、このセッションは石田さんの音楽観と、吉田野乃子さんのそれのふたつの音楽観が火花を散らし、けっしてどちらか一方が覇権を握ることなく、平行してふたつの創造性が炸裂し続けるのだ。それでいて楽譜に基づいたふたりそれぞれのオリジナル曲の場合、たとえばジグザクに入り組んだ複雑なメロディの主題を石田さんと野乃子さんは息を合わせてユニゾンで決めるのだ。このときのかっこよさったらない。


ライヴの後で知ったことには、吉田野乃子さんはニューヨークでかのジョン・ゾーンと出会い音楽に開眼し、なんとネッド・ローゼンバーグに師事し、そのうえ(ミュージシャン業界では絶大に評価の高い)ドラマーの吉田達也さんとツアーをしたことまであるそうな。わ、ぼくの好きなミュージシャンばっかではないか。なお、ジョン・ソーンの85年あたり以降のきわめて多彩にアヴァンギャルドで創造的な音楽活動はとうてい語り切れない。ユダヤ系ニューヨーカーで映画好きのアヴァンギャルド音楽を多彩に追求するサキソフォニスト、ジョン・ソーンは80年代後半高円寺の3畳のボロ・アパートに住んでいたものだ。かれは意表を突くとんでもないアルバムをあちらとおもえばまたこちらという具合に続々とリリースしながら、他方で、ひそかにおにゃん子クラブをはじめとした女性アイドルたちもまた大好きだった。ぼくは邪推する、そんないかにも繊細な才能あふれるユダヤ人作曲家=演奏家、ジョン・ゾーンはさぞやオヤジっぽく目を細めうれしがったろうなぁ、童顔の日本女子で爆裂的表現力を備えた吉田野乃子さんと出会えたことに。






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