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存在の遠心分離機 ― ツァラトゥストラと三匹の獣

見よ、私たちの友人ツァラトゥストラは山へ入り、あの深く暗い洞窟の淵へと、ひとり足を踏み入れた。

彼が求めたのは、世俗の逃避所としての静寂などではない。彼はただ、この回転する世界のを、その中心たる不動の一点を求めたのである。

彼が硬い石の床に膝を屈した刹那、世界はその根源から震え始めた。

否、それは地震などという粗雑な揺れではない。それは万物が回帰へと向かう、壮大なる回転の初動であった。

彼の鼓膜の奥底で、不可視の独楽が唸りを上げ始めたのを彼自身が聞いたのだ。

それは彼の存在の基底、物質を構成する素粒子が持つ量子のスピンの旋律であり、同時に、遥か頭上で展開される銀河の渦が軋む、摩擦の音でもあった。

「ああ、私の肉体は、無数の極微なる回転によって織り上げられている。そしてこの大地もまた、巨大な水車の一歯車に過ぎぬとは!」

私たちの友人ツァラトゥストラがそう呟くや否や、洞窟の壁は薄皮のように透き通り、視界は恐るべき速度で旋回を始めた。

遠心力が彼の内臓を壁際へと押しやる。彼は今や、宇宙という名の巨大な遠心分離機の底に叩きつけられていたのである。

そして、その眩暈めまいの中に、三つの影が現れた。

第一の獣:黄金の牛

最初にその姿を現したのは、巨大にして鈍重なる黄金のであった。

牛はこの猛烈な回転に逆らうことなく、どっしりと寝そべり、ただ重々しく反芻を繰り返している。その咀嚼の音は、あまりに規則正しく、安寧そのものであった。

「なぜ、回るのかと問うてはならぬ」と、牛は地の底から響くような声で言った。

「回るとは、食むことである。友よ、お前の細胞の中で回るF1-ATPase(ATP合成酵素)を見るがよい。あの微細なモーターが回るからこそ、生きていられるのだ。我々は繁栄という名の輪の中にいる。ただ産み、ただ増やせ。この回転が生み出すエネルギーを、疑いという名のプロトン勾配で溶かしてはならぬ」

牛の背後には、無限に広がる牧草地と、そこを埋め尽くす生命のスープが幻のように浮かび上がった。それは圧倒的な「肯定」の光景ではあったが、思考を停止した「重力」による肯定に過ぎなかった。

私たちの友人ツァラトゥストラは、毅然として答えた。

「母なる牛よ、豊穣なる者よ。しかれども、お前の回転は単なる『生存』の回転に過ぎない。私がただ生き永らえるためだけに回る独楽コマであるならば、私は代謝を行うだけの管に等しいではないか!」

第二の獣:白銀の鷲

次に、天井の渦の中から、空間を引き裂くような鋭い鳴き声が響き渡った。

一羽のわしが翼を広げ、回転する気流を捕らえて滑空してきたのである。その目は冷たく、彼方の一点を見据えていた。

「愚かな牛だ。回転の目的は、泥の中に留まることではない」

鷲は高らかに宣言し、その翼で天を指した。

「ツァラトゥストラよ、速度を上げるのだ。お前の脊髄に眠るチャクラという名の滑車を回せ。その回転数が臨界を超えたとき、遠心力はお前をこの泥沼から引き剥がすであろう。アセンション魂の上昇だ!この円環からの直線的な離脱こそが、唯一の救済なのだ!」

鷲の誘惑は、なんと甘美であったことか。この眩暈めまい、この無限の反復からの「解脱」。

しかし、最も鋭敏なる批評家である彼は、鷲の翼が、実のところどこへも行けずに円周の上を滑っているに過ぎないことを見抜いていた。

「高慢な鷲よ。お前は『ここではないどこか』を夢見ている。だが、お前が飛び立とうとするその空もまた、曲がっているのだ。直線的な救済などというものは存在しない。それは円の弧をあまりに拡大して見たがゆえに、直線と見間違えた者の幻覚に過ぎない!」

第三の獣:円環の蛇

最後に現れたのは、音も立てず、友人の足元を這うであった。

蛇は自らの尾を噛んでいたが、その双眸は奇妙に笑っていた。蛇の身体のうねりは、洞窟の回転と完全に同期していたのである。

「シュシュ……。牛は重さを愛し、鷲は軽さを夢見る。だが、お前は既に知っているはずだ」

蛇は鎌首をもたげ、彼の目の前でトグロを巻いた。その形は、無限大(∞)の記号であり、同時にねじれたDNAの二重螺旋の姿でもあった。

「この回転に終わりはない。お前がここで吐き気を催したこの瞬間も、お前が牛を拒絶し、鷲を嘲笑ったこの瞬間も、砂時計がひっくり返るように、また巡ってくるのだ。永遠に。チャクラを回しきった果てにあるのは、解脱ではない。『もう一度!』という叫びだけだ」

私たちの友人ツァラトゥストラは戦慄した。これこそが「最大の重荷」である。

細胞のモーターが焼き切れるまで回り、星が燃え尽きても、また同じ配置でモーターが回りだす。逃げ場はない。上昇もない。ただ、この冷厳なる回転永劫回帰があるだけだ。

舞踏

ツァラトゥストラは、強烈な嘔吐感に膝をついた。

牛の「安楽」も、鷲の「逃走」も、彼を救うことはない。蛇の「回帰」だけが、逃れようのない事実としてそこにあった。

だが、その極限の眩暈めまいの中で、彼はふいに笑い出したのである。

「そうだ、私は回っているのではない。私が回しているのだ!」

彼は立ち上がり、自らの意志で高らかに足を鳴らした。

するとどうだろう、彼の中のATP分子モーターが、天体の運行が、そしてチャクラの回転が、一つの調和した音楽へと変わったではないか。

「牛よ、私はお前の豊穣を食らおう! 鷲よ、私はお前の高さで踊ろう! だが蛇よ、私はお前の円環の上で、何度でもこの生を肯定してみせよう!」

洞窟の回転は止まらなかった。しかし、もはやそれは彼を振り回す遠心力ではなく、彼が踊るための舞台の回転となっていたのである。

ああ、見よ!私たちの友人は、ついに彼にふさわしくない全ての重荷を脱ぎ捨て、一切の偽りを退けた。

かつて重力に苦しんだ彼は、いまや自分自身にとって最良の踊り手となり、恥ずべき重さを微塵も感じさせない子供のような無邪気さで、真昼の光の中へと進み出た。

「すべての直線は嘘をつく」と、彼は歌うように言った。「すべての真理は曲がっている。そして、時間は円環である」

ああ、この愛すべき、羨むべき時代錯誤者よ。永遠なる回帰の踊り手よ!

『永遠に詩的で、永遠に円環的なるもの』私たちの友人ツァラトゥストラよ。

願わくは彼によって、彼を取り巻くすべての魂が、あの高みにある詩の天上にまで引き上げられんことを!

そうして彼は、再び人間たちの住む麓へと、まるで光が差すように軽やかに降りていったのである。

まずはつまみみたいにまわすのは正解か。不正解です。

舌で円を描くを、きちんと根拠をもって次からやれるといいですね。圧と速度についても触れるべきですが、今回は記述を抑えました。

SNSがマナー講師や、バズ狙い嘘ポストする人たちで溢れた結果、人類は人類と繋がるのをやめて、AIに真偽確認するようになることでしょう。ですが、それにはまだ時間かかるので、今回はわたしが一肌脱ぎます。

テーマ『円運動』にしましたが最初は『円環の理』でした。

【呪術廻戦】魔虚羅は竜王と法陣を組み合わせた最強の式神説。

すごいぞガメラ!つよいぞガメラ!

伊藤潤二「うずまき」からスピンさせて書いていったら、どんどん転がってSFチックになってしまいました。これがわたしの周波数です。

ツァラトゥストラの牛、👆の小説でもカギになっていたミトコンドリアの高分子モーターF1-ATPase、これはずっと書きたかったやつです。

F1-ATPase、細胞内の微小な回転がエネルギーを生む、これ精神世界と相性良いかなとよくよく考えたら、精神世界業界の流行り廃りまで思考が飛んだので、美〇明宏さん的な語り部に語ってもらいました。

コーヒーの淹れ方は豆によって変えるべき。なんでも「の」の字に入れればよいというモノではない、についてまとめてみました。

東アジアの通貨単位は皆、「円」で仲良しだね、そんな訳あるか!

アフガニスタンからインド・パンジャブ地方はヘレニズム時代において、アレクサンダー大王遠征の東端であり、すなわち、ギリシャ・エジプト・インドの知性が交差していた、その中からサイン・コサインが生まれました。その前日譚です。

テーマ『音』でやろうと思っていましたが移籍。うーん、山田風太郎で書こうと思ったが石川賢になってしまった。最後は虚無って終了にしても数学的でよかったかもしれませんね。

東洋思想はだいたい西遊記でパロディにできるのではないかと気づきました。気づいてしまいました。

AIに勝てる人間プログラマーとは何か、真面目に書きました。

AIを作れる人間プログラマーとは何か、真面目に書きました。

今回、裏テーマは仏教なのではないかというくらい仏教出てきます。いやー、仏教は円が好きすぎでしょう。月、それから音をテーマに書いたが嵌らなかったものを今回は相当数こちらへ持っていきました。

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