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読後に残ったもの|ビジネス部門特集12:仕事の価値は、どこで決まるのか


給料、技能、広報、業界構造、利益から読む、価値が生まれ、選ばれ、戻ってくるまで。

頑張っているのに、給料が上がらない。

長く身につけてきた技能があるのに、仕事として残せない。

良い商品や技術があるのに、なかなか選ばれない。

会社は成長しているのに、そこで働く人の時間や関係は、むしろ苦しくなっている。

仕事の価値について考えるとき、私たちはつい、その仕事自体の中に答えがあるように思ってしまう。

どれほど難しいか。
どれほど社会に必要か。
どれほど時間をかけてきたか。
どれほど良いものを作ったか。

けれど、今回紹介する五つの作品を読んでいて残ったのは、仕事の価値は、一つの場所だけでは決まらないということだった。

価値は、給料、技能、社会の選択、業界の条件、利益の行き先を通りながら、少しずつ形を変えていく。

今回の特集では、その流れを五つの作品から読んでいきたい。


しんどさではなく、仕事のどこに立っているか

最初に紹介したいのは、Kairos(カイロス)さんの「給料はしんどさの値段ではない —— お金が残る仕事、残らない仕事」。

大変な仕事ほど、高い給料を受け取る。

社会に必要な仕事ほど、正しく評価される。

そうであってほしいと思う一方で、現実の報酬は必ずしもそのようには決まらない。

この作品が見ているのは、仕事のきつさではなく、仕事の流れの中で何を握っているのかという点だ。

顧客に近いのか。
価格を決められるのか。
契約や設備を持っているのか。
判断と責任を引き受けているのか。
他の誰かへ置き換えやすい仕事なのか。

同じように必要な仕事でも、商流のどこにいるかによって、利益が残る位置は変わる。

読んでいて残ったのは、仕事の価値と、その価値から得られる報酬は、同じものではないということだった。

社会に必要であることも、専門性があることも、長い時間をかけて身につけたことも、確かに価値だと思う。

それでも、利益が残る場所から遠ければ、その価値は報酬につながりにくい。

これは、低い給料の仕事には価値がないという話ではない。

むしろ、価値のある仕事ほど、なぜ利益の残る位置から遠ざけられているのかを考えるための作品だと思う。

自分の努力が評価されないと感じている人や、転職やキャリアを考えている人には、職種名ではなく、仕事の流れの中で自分がどこにいるのかを見る入口になる。

本期では、まずこの作品から、価値と値段が分かれる場所を見ておきたい。

紹介した作品はこちら


技能は、守るだけでは経営資産にならない

次に紹介したいのは、まみつかさんの「ラス型枠の職人は、全国に150人しかいない。」。

題名を見ると、まず希少な職人技の話を想像する。

実際、作品の中心にあるラス型枠は、扱える職人が少なく、今後の建設現場で重要になる可能性を持った技術として描かれている。

けれど、この作品で印象に残ったのは、希少性そのものよりも、作者が自分の持っていた技能観を一度手放し、学び直していく過程だった。

長年扱ってきた在来型枠には、自負がある。

重く、難しく、経験が必要だからこそ、それが本物の仕事だという感覚もあった。

一方で、ラス型枠は軽く、施工が早く、少人数でも扱いやすい。

最初は、それを型枠の仕事として素直に受け入れられなかったという。

けれど、高齢化、人手不足、省力化、材料供給の問題を前にして、作者は他社へ学びに行き、技術を引き継いでいく。

ここで大切なのは、一つの工法を新しいものへ置き換えたことではない。

在来型枠とラス型枠には、それぞれ異なる強みと難しさがある。

だからこそ、両方を扱える職人を育て、案件や条件に応じて切り替えられるようにする。

技能の価値を守るとは、過去のやり方をそのまま保存することではないのだと思う。

学び直した技術を別の工法と組み合わせ、次の職人へ渡せる形にする。そこで初めて、個人の経験が会社の力へ変わっていく。

自分の専門性を守るべきか、変えるべきか迷っている人には、技術を捨てずに更新する方法として読める作品だと思う。

第一篇で見た「価値が報酬になる位置」に続き、ここでは、技能が事業として残る条件を考えたい。

紹介した作品はこちら


価値があるだけでは、選択肢には入らない

三つ目に紹介したいのは、旧約ヨブさんの「文脈開発 ── 選ばれる事業をつくる広報の方法論」。

良い商品がある。
優れた技術がある。
社会的な意味もある。

それでも、人がその存在を知らず、自分に関係のある選択肢として理解できなければ、選ばれることはない。

このシリーズは、広報をメディア掲載やSNS運用、完成した商品の宣伝として扱わない。

広報の成果を、どれだけ露出したかではなく、人の認識や選択が変わったかで見る。

読んでいて残ったのは、広報が「何を発信するか」の前に、「社会にどう理解されたい事業なのか」を考える仕事だという点だった。

ただ商品の特徴を並べるのではなく、その事業がどのような問題と結びつき、どんな場面で必要とされるのか。

社会が理解するための枠組みから設計しなければ、価値は存在していても選択肢には入りにくい。

だからといって、商品へ都合のよい物語を後付けすればよいわけでもない。

事業の中にある価値と、社会が今関心を持っていることの接点を探し、理解できる言葉へ変えていく。

AIによって文章や画像を作ることが容易になるほど、何を作るかよりも、何を社会に理解してもらう必要があるのかを判断する役割は重くなる。

良い商品や技術があるのに、なぜ届かないのか悩んでいる人。

広報、営業、マーケティング、事業開発に関わる人には、完成したものを宣伝する前に読む意味のあるシリーズだと思う。

本期ではここで、仕事の内部にある価値から、社会に選ばれる価値へ視点を移したい。

紹介した作品はこちら


正しい経営論も、業界を外せば機能しない

四つ目に紹介したいのは、匿名希望さんの「中小企業診断士のための業界別診断辞典」。

この作品では、農業や製造業をはじめとする複数の業界が、それぞれの構造や利益の出にくさ、外部支援者が注意すべき点とともに整理されている。

読んでいて残ったのは、同じ経営用語でも、業界が変われば意味も代価も変わるということだった。

生産性を上げる。
高付加価値化する。
直接販売する。
規模を拡大する。

言葉だけを見れば、どれも正しい。

しかし、農業で規模を拡大すると言っても、土地や自然条件だけでなく、地域共同体や組合との関係まで動かすことになる。

経営者本人が何を望んでいるかを確かめず、外部から正しい方法を押し込めば、それまでの関係や生活を壊す可能性もある。

製造業でも、同じ技術がサプライチェーンのどこに置かれるかによって、その価値は変わる。

この作品が示しているのは、経営理論が間違っているということではない。

理論を現場へ持ち込むには、その業界の言葉と関係へ翻訳する必要があるということだと思う。

前の作品で、価値が社会から選ばれるためには文脈が必要だと見た。

ここではさらに、その文脈も、業界固有の商流や制度、慣習から切り離しては成立しないことを見る。

異なる業界へ転職した人や、複数業界を横断して支援する人、コンサルティングや事業企画に関わる人には、自分の正論が現場でなぜ動かないのかを考える材料になる作品だと思う。

紹介した作品はこちら


利益になった価値は、誰の時間へ戻るのか

最後に紹介したいのは、ゼンドリ思考さんの「年商80億の会社を経営していた僕が、すべてを降りてたどり着いた『利益』も『幸せ』も同時にとる経営」。

ここまでの四篇では、仕事の価値が、どこで値段になり、どのように事業となり、社会から選ばれ、業界の現実の中で形になるのかを見てきた。

この作品が扱うのは、その先だ。

価値が売上や利益へ変わったあと、その成果はどこへ戻るのか。

作者の会社は成長し、売上も社員数も大きくなっていく。

外から見れば、成功している。

けれど、経営者が事務所へ入ると社員の会話が止まり、本当は称えたい場面でも、口から出るのは改善点や次の要求ばかりになる。

会社を成長させるために身につけた経営者としての振る舞いが、人との距離を広げていく。

この作品で残ったのは、利益と幸福を順番に並べないという考え方だった。

まず利益を出す。
そのあとで社員を幸せにする。
余裕ができたら経営者自身も楽になる。

そうやって幸福を後回しにしているうちに、利益を作る仕組みそのものが、人の時間や関係を削ってしまうことがある。

作者の「ゼンドリ思考」は、利益、経営者の幸福、社員の幸福を、どれか一つ選ぶのではなく、最初から同時に考えようとする。

もちろん、社員が幸せなら必ず業績が上がるとも、この考え方だけで組織の問題が解決するとも言い切れない。

それでも、会社が何のために利益を作るのかを、経営者自身の望む生活や、人との関係から考え直す視点は残る。

仕事の価値は、利益になれば完成するのではない。

その利益によって、経営者や社員の時間、関係、生活がどう変わったのかまで見て、初めて価値の行き先が分かる。

本期の最後には、答えではなく、この問いを置いておきたい。

価値を生み出し、選ばれ、利益へ変えたあと、その成果は誰の時間へ戻っているのか。

紹介した作品はこちら


読後に残ったもの

五つの作品が見せてくれたのは、価値が仕事の中で何度も形を変えるということだった。

努力や技能は、確かに価値だと思う。

けれど、それだけで値段が決まり、選ばれ、利益になり、人の生活を支えるわけではない。

価値が仕事になるまでには、顧客との距離、組織の能力、社会が理解する文脈、業界固有の条件、利益の使い方が関わってくる。

だから、自分の仕事が評価されないと感じたとき、努力が足りないと考える前に、価値がどこで止まっているのかを見てもよいのかもしれない。

価格へ変わる前なのか。
会社の能力へ変わる前なのか。
社会の選択肢へ入る前なのか。
業界の条件と接続できていないのか。
利益にはなっていても、人へ戻っていないのか。

仕事の価値は、誰か一人が決めるものではない。

その仕事が、どこで誰とつながり、どのような形で残るのかによって、何度も決め直されていくものなのだと思う。

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