人は正しい提案ではなく、「物語の続き」に反応する
正しい提案をしているのに、なぜか相手に響かないことがあります。
論理は通っているし、データも出した。
理解してもらえた、と思う。
けど、響いていない。
一方で、すんなり受け入れ、行動してもらえるときもあります。
この違いはなんだろうと考えて、
ひとつ、しっくりきた捉え方があります。
それは「相手の物語に入れているか?」というものです。
そして、その物語には、時間軸が異なる「2つの物語」があることに気づきました。
「その人の物語」を知る
人はそれぞれ、「自分の物語」を生きています。
・これまで何をしてきたか
・何を大事にしているのか
・これから自分はどうなるべきか
そういう「自己像」や「期待」がつながった、いわばひとつの信条です。
その物語とかみ合う提案に対して、人はやる気が出ます。
逆に、どれだけ「正しい」提案でも、その人の物語にかみ合わない場合、人は動きません。
だから、何か提案したいとき、最初にやるべきは、
「正しい提案を考えること」ではなく、
「相手の物語を知ること」だと思っています。
大きな物語
僕の場合、まず知りたいと思うのは、その人の過去です。
すこし遠回りに見えるかもしれないけど、僕はここが一番面白いと思います。
なぜなら、これまでどんな環境で、何を感じて、どんな選択をしてきたのか、その人の過去を聞いていくと、
・何を大事にしているのか
・何に違和感を持つのか
・何に自信があって、何が不安なのか
が、少しずつわかって、
目の前にいる人が、立体的で奥行きのある人物に見えてくるからです。
今に至るまでの痛みや苦悩を知ることで、リスペクトの念も湧いてきます。
そのうえで、なぜ今ここにいて、これからどうなりたいのか、
その人の将来を聞くようにしています。
・いま、仕事にどんな楽しさを感じているか
・これから、どんな仕事を増やしていきたいか
・数年先、目指す姿はどんなものか
など、期待と現実が入り混じった肌感覚です。
これは、うまく言語化されていない方も多いですが、それ自体が、その人の心情を知る手がかりになります。
また、対話を深める中で、むしろ相手が気づきを得ることもあり、そうなると信頼関係がぐっと増します。
小さな物語
ここまでは、その人の人生やキャリアという大きな物語を知るための質問でした。
もうひとつ、いまの会社や部署をめぐる小さな物語もあります。
これは、何か提案するとき、特に重要です。
小さな物語では、
・いま、どんな役割を課されているのか
・その中で、本当は何をしたいと思っているのか
・その人にとって、誰がキーパーソンなのか
ということが重要になります。
人は、他者との関係性の中で生きていて、むしろそちらを強く気にしているもいます。
だから、その人を理解するだけでは、足りないと思っています。
その人が感じている「場の重力」のようなものを、知る必要があります。
失敗から学んだこと
ここまで書いておいてなんですが、
最近、僕自身が「知ったつもり」の罠に嵌っていた瞬間がありました。
そのとき僕は、相手の物語を読めているつもりで、
その物語の中で、「正しい提案」をしていました。
それなのに、会議中に空気が止まるのを感じました。
あとで、その人の言動を振り返ってみると、とんだ勘違いをしていたことに気が付きました。
僕が提案していたのは、
「目指す組織像と現状のギャップを埋める施策」を検討するための手順でした。
ところが、その人の中では
「必要な施策はすでに打ち出した」という完了済みの話だったのです。
つまり、同じ物語の中にいるつもりでも、
現在地の認識がまったく違っていたのです。
こうした失敗も踏まえて、思ったことがあります。
提案とは、
自分の「こうあるべき」という物語をぶつけることではなく、
相手の物語を広げて、前に進めることではないか。
その人の物語に、
自然に溶け込んで、
むしろ話が面白くなって、
いっちょ乗ってみたくなる。
そういう提案が、理想じゃないかと思います。
最後に
結局のところ、人を動かすのは「正しさ」ではなく、
その人にとっての「意味」なのだと思います。
そしてその「意味」は、自分の中だけで生み出せるものではなく、
相手の物語の中に入ったときに、はじめて立ち上がります。
だからこそ、提案とは、「正解を教える」ものではなく、
相手の中にある「物語の続き」を描くもの、なのかもしれません。
