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【あがり症|美大受験6】課題には応えられるのに、好きがみつからない。自分らしさの迷宮で迷子になる|ふるえるままに、すすめ26

あがり症でHSP気質のうにが、美大受験、大学中退、そしてその後も続いていく日々の中で、変わりたくても変われない、どうしようもない自分を抱えたまま世界を泳いでいく『うに』のイラスト付き連載エッセイです。うまくいかない日も多いけど、うにはうにのまま、ふるえるままに進んでいきます。

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うには初めて、美術予備校を休みました。

一回課題を休んだら、描けるはずだった一枚が描けなくなる。
その課題から学べたはずのものを、取りこぼしてしまう。

みんなは進んでいるのに。
ただでさえ、浪人生に追いつけないかもしれないのに。

胸の奥がヒリヒリしました。

それでも、自分が描きたいものがわからない以上、
この課題には手も足も出ません。

うには道具を片付けて予備校を早退し、
駅前ビルの最上階にある市立図書館へ行きました。

向かった先は、やっぱり美術書のコーナーです。

世界の巨匠たちの巨大な画集を、ぺらり、ぺらり。

ピカソの《泣く女》。
ダリの《記憶の固執》。
アンディ・ウォーホルの《キャンベルスープ缶》。

きっと、美術に詳しい人じゃなくても、
教科書で一度くらいは見たことがある絵だと思います。

何がすごいのかは、正直よくわからない。
お世辞にも、好きとは言えない。

でも、一度見たら忘れられない絵。

ピカソが、人の顔をあんなふうに分解して描いても、
「アート表現だよね」と言われるようになった。

モデルさん、たしか当時の恋人は、
「私の顔をあんなふうに描くのはやめて」と言ったらしい。
どこかの本で読んだ記憶がある。

そりゃそーだよ、と思う。

誰のせいで泣いてると思ってんの。
ヒトの泣き顔で勝手にアートしてる男の背中を、
蹴り倒したくもなる。

ダリが、夢をゆがんだ現実のように描いたから、
それ以降、溶けた時計はダリのアイコンになった。

ダリのヒゲも、あの曲線美。
くるうん、とか、くにゃっとしたものが好きなんだろうなあ。
ヘビがするするする〜って動く感じとか、
ダリさん好きそう。

アンディ・ウォーホルが、スープ缶を並べて
アートだと言った。

宗教画や肖像画が厳かに並ぶ美術館に、
キャンベルスープ缶が同じ顔でずらっと並んでいたら、

「え、こんな日常の工業品も、ここに並べていいの?」

って、みんなの脳内が「???」でいっぱいになる感じw

彼らは、
「これがアート」とされていたものを、
新しいアートで塗り替えた人たちなのかもしれない。

ピカソとミロが仲良しで、
ミロがダリを、フランスにいたピカソに紹介したのも、
たぶん単なる偶然じゃないんだろうなあ。

ダリはピカソに、
「ルーブルより先に、あなたのアトリエに来ました」
と挨拶したらしい。

口のうまさは美術史上ピカイチ★ダリさん

どんだけ優秀な営業マンなのw
そんなこと言われたら、巨匠もイチコロだよね。

時代の空気を読む力。
自分の見せ方を設計する力。
先輩アーティストやメディアや批評家たちをたらしこむ力。

そういう社交というか、外交というか。
そこまで含めて、彼らは巨匠だったのかもしれない。

うーん。

うに、そんなこと、全然できる気がしない。

作品を見てください、どころか、
自分の好きなものを見せるだけで消えたくなる。

「これが私の世界です」なんて、どの顔で言えばいいのだ。

しかも、初対面のすごい人に会いに行って、
気の利いたことを言って、自分を覚えてもらう?

無理無理無理無理。

絵が描けるかどうか以前に、
うには、人前に出ることが怖いのに。

はあああああ。

ため息をつきながらページをめくっていると、
ジョアン・ミロの《星座》が目に飛び込んできました。

あ、これは好き。
ミロの絵が、一番好きかもしれない。

絵本の挿絵みたいで、少し不思議。
どこかかわいいけど、どこかちょっと不気味。

星や目や鳥のようなかたちが、細い線でつながっている。
平面に描かれているのに、どこか空中に吊るされているみたい。
広い次元空間を感じるのです。

ミロの《星座》のヒンメリを部屋に飾ったら、きっとめっちゃかわいい。
鏡で作ったら、光を反射して、お部屋がきらきらしそう。
美術館のアートグッズにしたら、すっごく売れそう←w

ね!これは欲しくなる~。うにはどこでしょう?w

やっぱり、絵は好きだな。

いろいろな人が、いろいろなスタイルで
世界を表現しているのが面白い。
絵にまつわるエピソードを読むのも好き。

絵って、言葉みたいにめんどくさくない。

相手の顔色を見て、空気を読んで、忖度して、
いろいろ考えて言わなきゃ、みたいなことがない。

色や線や形が、見る人に勝手に話しかけに来てくれる感じ。
見る人も自由に解釈してくれる感じ。

ピカソの絵は、いつも
「ガギグゲゴゴゴ」
みたいな音で喚いていそうだし、

色々な意味でうるさそうw

ダリの絵は、
「ぬる~ん、する~ん」
って呪文を唱えながら、どこかにするする逃げて行っちゃいそう。

ああ言えばこう言う、って言う感じ。
口のうまさが絵にも表れるよね、見事にw

ミロの絵は特に、目に見えるおしゃべりみたいだなって思う。

あっちこっちで黒い形が、カキン、コキン、って
かわいい金属音をたてながら
楽しそうにしゃべって、ゆっくり回転して。

きっと水琴窟のようなきれいな音

素敵な絵って、
「音」や「声」が聞こえる気がする。

こんなふうに、うにも絵で語りかけていいんだよ、
って言われても手が止まってしまうのは、

もしかしたら、うにには、
絵で何を、どんな声で話したいのかが、
まだ決まっていないのかな。

いや、巨匠と比べるのも、おこがましいんだけど。

うにの描きたい声ってどんな声?

「うにちゃん! クラスTシャツつくりたいんだけど、先生の似顔絵描いて〜。先生への忖度込みで!」

「うにー! 卒業アルバムのデザインお願い〜」

「うに〜〜、やばい、コミケ締め切りが! ベタ塗りと背景ヘルプ〜」

「うにぃ〜、文化祭展示で、各種コガネムシの比較をしたいんだよ。ここにずら〜っと描いて〜」

うにが今まで描いてきた絵。
考えてみたら、どれも友人たちの依頼ものばかりでした。

うには美術部でもなんでもない、ただの帰宅部員でした。
それでも中学から高校にかけて、
いつも誰かに頼まれて絵や文字を描いていた気がします。

依頼には、たいてい
「こんなふうに描いてほしい」という要望があります。
それをくみ取って、形にする。

うに、それが全然嫌いじゃありませんでした。
むしろ、お題があるのは楽しかった。

だけど、自分から「これが描きたい」
って思って描いた絵って、あっただろうか。

……ないかも。

九年間続けた書道ですら、
先生が毎回お手本を書いてくれて、
その通りに書いてきただけでした。
九年間も、です。

一度も先生に、
「今日はこの字が書きたい」
なんて言ったことがありません。

頼まれた絵なら、BLだろうが昆虫だろうが描ける。
「期待に応えること」はできる。
「頼まれたものを形にすること」もできる。
でも、「私はこれが好きです」なんて絵は出せない。

お花とか?
猫とか?

とりあえずアレコレ描いてみても、
それが本当に自分の「好き」なのか、全然確信が持てない。

なんだかどれも
とってつけたようで、嘘くさい。
そーゆーのって、作品に透けて出ちゃう。

コミケでBLを嬉々として売りさばく友人たちの、
本気の豪胆さが、めっちゃ眩しい。

青春とすれ違いのお得パックwww

……やれる?
あれを、うにが……?

……いや。

いやいやいや!

そんなむずがゆくて恥ずいこと、言ってる場合なのか、自分。

石膏もまともに描けないのに?
手も練習しなきゃなのに?
構図も毎回なんか微妙なのに?

自分らしさ以前に、
まず合格ラインに達しないと意味なくない?

「そーだよ、まずは合格だよ。学科やろう」

うには、二十世紀の巨匠たちの画集を、
バタン!
と閉じました。

図書館の閉館時間。

うには、大きな画集を書架に戻し、
駅ビルの最上階にある図書館を出ました。

同じフロアには、スタバと展望スペース。
その反対側には、
歯科やエステサロンやメンタルクリニックが、
白い看板を並べています。

外は、もうすぐ夕立が来そうでした。
雨をやり過ごしてから帰ろう。

うには自販機でアイスティーを買い、
展望スペースの端っこのテーブルで参考書を開きました。

何ページか進めたあと、ふと顔を上げました。

視界の端で、白いドアが開きました。

出てきたのは、ゆきちゃんでした。

うには、思わず息を止めました。

ゆきちゃんは、うににはまったく気づかないまま、
エスカレーターで下の階へ降りていきました。

うには、『虹の森メンタルクリニック』の
白い看板文字を見つめながら、
自分の両手を揉みました。

雨が、展望フロアの大きな窓ガラスに、
ぽつり、ぽつりと当たり始めました。


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※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。

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本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

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