【短編ファンタジー】エレメンタル・ロワイヤル #1
あらすじ
希少金属(レアメタル)の力を宿す特殊兵装を纏う戦士「エレメンタル・ナイト」。
リチウム、コバルト、ネオジム、タングステン…彼らはそれぞれの元素が持つ物理的・化学的特性を能力に変え、所属国家や企業の切り札として存在していた。しかし、突如として謎の隔離アリーナに集められ、最後の一騎になるまで戦う非情な生存競争「エレメンタル・ロワイヤル」への参加を強制される。
なぜ彼らは戦わねばならないのか?
各ナイトの能力バトルを通じて、レアメタルの驚くべき特性、資源を巡る国際的な駆け引きや供給リスク、採掘現場が抱える社会問題といった、我々の現実世界ともリンクする知識が浮かび上がる。元素の力を巡る陰謀が渦巻く中、騎士たちは生き残りを賭けて激突する。これは、科学と地政学が交錯する、新時代のバトルアクション。

プロローグ:招かれざる騎士たち
【日付不明 - 場所不明】
金属の冷たさが、背中を通して意識を覚醒させた。
男――コードネーム「リチウム・ナイト」――は、重い瞼(まぶた)を押し上げ、見慣れぬ薄暗い空間が視界に広がるのを確認した。最後に記憶しているのは、所属組織から命じられた「特殊装備の適合再調整」だったはずだ。だが、そのための施設にしては、ここはあまりにも殺風景で、そして……静かすぎた。
ゆっくりと身を起こす。彼の身体を覆うのは、銀白色に鈍く輝く特殊装甲「Li-フレーム」。その名の通り、金属リチウムの特性――驚異的な軽さと反応性――を最大限に引き出すために設計された、彼の第二の皮膚とも言える装備だ。常人なら装着することすら難しいこのフレームを、彼は己の肉体の一部のように操ることができる。
周囲には、彼と同じように覚醒し始めた者、あるいは既に立ち上がり、鋭い警戒心と共に互いを観察している者たちの姿があった。それぞれが纏う装甲の色や質感は異なり、中には明らかに重装甲と呼ぶべきものや、特殊なデバイスを組み込んだものもある。彼らは皆、リチウム・ナイトと同じく、希少金属(レアメタル)の名を冠し、その元素の力を体現するために調整された者たち――「エレメンタル・ナイト」だった。
(これは、通常の任務ではない…)
リチウム・ナイトは直感的に悟った。この集め方は異常だ。彼の知る限り、異なる組織や国家に所属するエレメンタル・ナイトが一堂に会することなどあり得ない。彼らは国家や巨大企業の最高機密であり、互いに競合し、時には敵対する戦略兵器のはずだ。
「…誰の仕業だ?」
低い、地を這うような声が響いた。声の主は、壁際で腕を組む大柄な男。歴戦の風格を漂わせるその男の装甲は、鈍い青銀色――コバルト・ナイト。磁力を操り、極めて頑強な防御力を誇るとされる騎士だ。
誰も答えない。ただ、互いへの不信と警戒だけが、冷たい空気の中で密度を増していく。その緊張を破ったのは、突如として空間全体に響き渡った、抑揚のない合成音声だった。
「ようこそ、選ばれしエレメンタル・ナイト諸君」
「これより、君たちの存在意義を問う最終選抜を開始する」
「場所は、外部より完全に隔離された旧第3鉱区跡地『アリーナX』」
「ルールはただ一つ。最後の一騎となるまで戦い、己が元素の優位性を証明すること」
「装備の基本機能は回復させた。食料、水、そして戦いに役立つであろういくつかの『資源』は、アリーナ各所に存在する」
「これは、君たちに与えられた唯一の機会だ。最強の騎士として、新たな時代の覇権を握るための…」
その言葉を最後に、音声は途切れた。覇権? 選抜? 甘美な言葉とは裏腹に、その声には温度というものが一切感じられなかった。これは選抜などではない。生存を賭けた潰し合い――バトルロワイヤルだ。
リチウム・ナイトは、Li-フレームの出力を待機モードから戦闘モードへ切り替えた。他のナイトたちも、それぞれの装甲にエネルギーが満ちる気配を放ち始める。武器を持たぬ者もいるが、彼らにとって最大の武器は、その身に宿すレアメタルの力そのものだ。
誰かが動けば、連鎖的に戦闘が始まるだろう。この閉鎖空間で、誰を信じ、誰を敵とするのか。エレメンタル・ナイトたちの、否応なく始まった生存競争。
──その最初の火蓋が、今、切られようとしていた。
