【珈】そういうところある大人たち。春の「にわには」でたくさんの笑顔が咲いたはなし。
「なんのはなしですか」という合言葉から動き出したコラボ珈琲企画は、国分寺の古民家でのコーヒーイベント開催という形にまで発展を遂げた。来場者は60人をゆうに超える大盛況ぶり。
現場に立つのは、店主となるマサル、覚醒を果たす師範、そしてパパとなるコニシ木の子。本編は、どこかそういうところのある男たちが、静かな熱気を帯びた古民家「にわには」で過ごす、長く、特別な一日を描いたドキュメントである。
・すべてはayamoのせいにして
ーー中央道・朝6時の逸脱。
物語は、早朝6時、コニシ木の子とのドライブから始まる。ミニバンに乗車したわたしは、助手席で大山の眺望を楽しんでいた。
国分寺で行われる、珈琲イベント「春のにわにはでコーヒーの花を咲かせよう」に協賛として参加するためである。

隣で彼は、「道」の解説を続けながらこう言った。
「このまま二人で、どこかへ行こうか」
彼は、ハンドルを握らない左手の指先でトントンと顎を叩きながら、視線を遠くへ投げた。
「そうですね。温泉なんて、いかがでしょうか」
「悪くないね」
景色が高尾山を捉えたところで、コラムニストayamoからの通知音。「自宅ウッドデッキで食した鰹節の行方」という投稿だった。逡巡した先で、コニシ木の子は口を開く。
「このまま二人で向かってawamoんちのウッドデッキで珈琲イベントをやればいいんじゃないかな。俺たちは中継で。そしたら行ったことになるし、中央道だし」。目的地とは無関係な誰かを「なんのはなしですか」と息を吐くように巻き込んでいく。この男には、こういうところがあった。
道は果てまで続き、結論はayamoのせいに。果たして我々は国分寺まで辿り着けるのだろうか。
・枝を落とす前に、わたしの理性が落ちる

ようやく到着したイベント会場「にわには」では、店主のマサルさんが、なぜか木に登り、枝を落としていた。地上3メートルからの接客術。思い返せば、この日初めて彼がわたしに投げかけた言葉はこうだった。
ーー「エリさん。髪の毛、色っぽいですね」。ペールピンクに指先を添え、わたしは考えた。いまから一体何が始まるのだろうか。胸の奥で音が鳴る。普段は詩的な空気を纏いながら、ふとした瞬間に女心の核をついてくる。この男にも、そういうところがあった。だが、そこに理屈はいらないのかもしれない。
その後、我々は合流したマイトンJr.とマサルさんのお子様たちとたっぷり一時間半お庭で遊んだ。大縄を跳ばせてくれない攻防戦。準備は1ミリも進まないのは恋心という名の花のせいにしておこうか。

・人をつなぐ、想いという名のブレンド
ーー「にわには」に咲く、時空を超えた返信。
この古民家「にわには」は、太宰治と親交のあった画家・鰭崎潤氏ゆかりの古民家である。趣のある室内と、庭には野草が風に揺れ、貴重な展示品が飾られる現在は地域に開かれた文化的な居場所として活用されている。そこで今回「#なんのはなしですか」は、協賛という形でSHOP展開とワークショップで参加させていただいた。SNSの出会いがこうしてぬくもりのある場で共演。二人がかつてやりとりした文のように今日という日は、「にわには」に咲く、時空を超えた返信なのかもしれない。



・珈琲の香りを辿って
ーー五十一杯目のラブレター。

珈琲の香りが人をつなぐ。店主のマサルさんと、息子さんが淹れる珈琲は、お客さまを笑顔に変えてゆく。中庭で談笑する人、太宰の展示に目を細める人、子供が駆け回る庭に佇む大人の手には、みな珈琲が添えられている。デカフェも用意され、赤ちゃん連れのママにもきっとそれは届けられている。

ひとつひとつの注文に丁寧に耳を傾け、柔らかな笑みを浮かべるマサルさん。その背中をじっと見つめ、父の所作をなぞるように豆を挽く息子の姿。このコラボレーションの原点は、何より人を惹きつける彼の人柄にあった。
完売した50杯の珈琲と、50パックの珈琲バッグ。
マサルさんの頭の中にはきっと、豆の配合以上に、人と人をつなぐための「想い」という名のブレンドが描かれているに違いない。だれかの時間に寄り添う珈琲。それは、マサルさんだから届けられる優しい表現だ。最大の賛辞を、珈琲と共に。

珈琲同士がやや喧嘩しているが許して欲しい。




・第一回「TWE」ティッシュ字検定開幕
ーーティッシュに魂を捧げた男と、腹を抱えて笑うコニシ木の子と助手の記録。
ここからは、よりディープな「なんのはなしですか」の世界を記していこう。路地裏発、くだらない遊びの文化「ティッシュ字検定ワークショップ」。その名もTWEが、この地で初のお披露目を果たした。京大卒の男マイトンが「師範」に成長するまでの軌跡は、動画で確認後進むことを推奨する。

「人、来るのかな」
数日前から案じていたマイトン師範を元気づけようとした矢先、振り返ると彼はしれっと白衣を纏っていた。
「えっ。なんで、もう着てるのよぅ」
「え? ずっと着てますよ。袖が短いかな、いい生地ですね」
知ったこっちゃない。師範へと変貌する「その瞬間」を撮りたかったエセ広報の気概は、彼のしれっとした片側のパンを忘れたサンドイッチ戦法に打ち砕かれた。だが、蓋を開ければワークショップは大盛況。29人も参加してくれたのである。しかも、ほとんどが一般のお客さまだ。次々と師範の目の前で、人々が自由にティッシュを「描いて」いく。師範は言う。
「三級です」
「どこからどう見ても二級でしょう、検定にそう書いてあります」
「描き終えた後の人たちが、いい顔をするんです。ティッシュってこういうことなんですね」
来場者も、師範の白衣については一切触れなかった。不思議と怪しさがない。師範は、当たり前に師範になっていた。それが、彼の持つ柔らかい雰囲気の魅力なのだろう。
傍らで腹を抱えて笑う助手のわたしと木の子を置き去りに、受容を腹に決めた男の「師範」としての成長は圧倒的に早かった。いまや「師範」であることを正当化している。ニヤニヤしている我々だけが傍観者なのだろうか。この男にも、そういうところがある。


谷さん・ぱちこさん・さこうさん・カンナさん。
ほんとうにありがとうございました。
お客さまは次々と現れ、展示される作品の数々に目を奪われている。特に注目を浴びていたのは、カンナさんだ。

「あの、この作品を作った方はどなたでしょうか」
感化された来場者は、庭に咲く花を持ち込んだりと、表現に意欲的だ。そんな中、カンナさんはどこまでも柔らかく会場を散策している。
「カンナさん、探されてますよ」と伝えると、ぽかーんとされている。カンナさんの登場に湧き立つ会場。ティッシュ字検定界のマドンナ爆誕である。風に揺れる、ティッシュ字。それはもう、紛れもないアートだった。
「くだらなくって、意味のないこと」の先には、こんなにも愛おしい風景が待っていた。
その時、わたしはふと、ある人物がいないことに気がつく。「#なんのはなしですか」主宰コニシ木の子がちょいちょい行方不明になるのである。このイベントは、大丈夫なのだろうか。
・J:COMさま、来場。カメラが切り取る「熱」の正体。
午前11時。わたしのスマホが、一際大きな声を上げた。J:COMさんがイベントの取材に駆けつけてくださったのだ。名刺交換を済ませ、概要説明を一通り執り行うと、すぐさま撮影がスタートする。


の概要説明をするコニシ木の子。

放送の尺としては、おそらく30秒から1分。それでも一時間近くをかけ、来場者や主催者の一人ひとりに、驚くほど丁寧なインタビューを重ねていく。その真摯で洗練された物腰に、ふと社会人としての緩さを正されるような気がした。
撮影の合間、ディレクターさんとの電話の内容が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
「――今回のイベントの見どころは?」
その問いに対し、わたしは今日も、一点の曇りもなくはっきりと申し伝えた。
「本日の見どころは、珈琲と、ティッシュです」
プロの機材が、歴史ある古民家で、真剣に「ティッシュ」を追っている。ーーなんのはなしですか。
放送情報
• 放送番組: J:COM「ジモトトピックス」
• 放送期間: 5月9日(土)〜1週間予定
J:COMさま、取材に応じてくださったお客さま。本当にありがとうございました。
・湯気と夜空を繋ぐ、朗読。
ーー読まれるために、生まれた言葉たち
13時、お待ちかねの朗読会が幕を開ける。現役日本語教師であり、劇団「忍」から優谷美和さんの登場だ。
演目は、「なんのはなしです珈・な号」掲載の二作品。藤本柊さん『眠れない夜に香る。』そして、モスキート エリ『一方その頃、世界地図を辿る湯気。』だ。彼女が口を開いた瞬間、圧倒的な音圧と、どこまでも届く透き通った声が会場を支配する。タイトルコールの後に待っていたのは、完全なる別世界だった。

場面描写の切り替えは実に見事で、聴く人は作品の世界に引き込まれるというより、「沈んで」ゆく。この空間を包み込む、驚くほどの静けさはまるで、この作品たちは今日ここで読まれるために生まれてきたのではないかとそう錯覚させるほどの説得力が、そこにはあった。
夜空から世界中へ広がっていくような朗読の響きは、この場所にはあまりにも深く馴染む。「みんな繋がっているのね」「良い朗読だった。それしか言えない」と、涙を流すわたしの傍らで、誰かがそう囁く。その場から一歩も動くことができない。それが、全てだと語るように。
「緊張する……」そう直前まで言っていた美和さん。だが、完璧に朗読を仕上げ、いざとなれば逃げ場のないほどの感動を与えてくる。この女にも、そういうところがある。
感動が拍手で終えようとしたときに、またコニシ木の子は、やる。
「作者のモスキート エリいるんで、一言どうぞ」
わたしの感動の涙を、一気に止めさせる。
どうかしている。
コイツは、本当にそういうところしかない。
・第一、第二、第三のパパ。
ーーそして最後に鳴り響く「ゴーン」。
「なんのはなしですかSHOP」から、時々コニシ木の子はいなくなる。その理由を解いていくと、マイトンJr.の父になっていたようだった。
第一のパパ:マイトン師範
第二の(偽)パパ:コニシ木の子
第三のパパ(偽):山本蛇内
パパは次第に増殖し、割と一日遊んでいたはずのわたしは「エリちゃん」とも「ママ」とも呼ばれることなく、「だれなの‼︎わかんない‼︎」と言われ続ける。「無」が一番悲しい。子供は正直だ。
「パパ蛇内」 ……そう遠くから風に乗ったJr.の声は響いてくる。
不意に大きな音。「ゴーーン」と、水鉄砲を持ったガンマンは頭を窓に打ち付けて泣いていた。頭をぶつけて痛かっただろう。たくさん(偽)のパパに宥められ、Jr.はふと涙を止め、再び夢中になって遊び始める。パパも、珈琲も表現もこうして、循環してゆくのだ。
そして、珈琲イベントを閉じる帰り際にまたひとつの音が「にわには」には、鳴り響いていた。

にわにはのこれだけは気をつけろ
頭を抱えていたのは、Jr.ではなく、彩野リィだった。ただでは帰らない女2025年ベストレビュアー賞受賞者は、いま「ひらがな」にうつつを抜かしている。

パパは交代し、痛みは世代を超えて繰り返され、くだらなく愛おしい空間の中で循環する。古民家の静かな午後は、こうして幕を閉じた。マイトン師範だけを除いて。

最後までやってくれるぜ。
そういうところだぞ
おわりに
来場してくださったみなさま。Xや記事にして盛り上げてくださったみなさま。郵送の協力や準備、メディア関係者さま。この場所で優しい笑顔の花が咲きました。
レースフラワーコーヒー マサルさんはあたたかな居場所を作る活動もされています。コニシ木の子が主宰する「#なんのはなしですか」では、正解のいらない、創作の入口となるべく活動しているコミュニティです。誰かの居場所になるそんな世界を、共に作ることができ嬉しく思います。
そういうところがある人たち、を支えてくださり、ほんとうにありがとうございました☕️
#なんのはなしですか
参考資料
・レースフラワーコーヒーのHPはコチラ。
・ayamoのウッドデッキはコチラ。
https://www.instagram.com/p/DQjUpOrElXzGDi4B6zeuVBYnCcUnKU13SgX_UU0/?igsh=ZTRoYWxjYmpieHlt
・「#なんのはなしですか」が気になった方はコチラ
主催、協賛の人々のおかしな記録
・店主マサルさんの一日
・マイトン師範の一日
・コニシ木の子さんの一日
来場者してくれたみなさまのあったかい記録
・滑り込みセーフな路地裏名物真美さん
・TWE界の巨匠カンナさん
・やわらかな眼差しを届けるすうぷさん
・やってくれるぜ、運営のひと。文フリ出ちゃうアウトローなパパ蛇内さん
・「劇団忍」から、感動の渦を届けた美和さん
・誰よりも楽しそうなレザーの男。蒼さん
・滲む親子共演。素敵な作品を作ってくださった極夜さん
・みんなの笑顔をつくる、職人ひなさん
・最後まで奏でる女、リィ
感謝
ご協力したくださったメディア関係者さま。お客様の中には、ウェブを閲覧してきました、と仰る方もおられました。ありがとうございます。
ぶんじchさま
LIVING多摩さま
・JR東日本のwebサイト「中央線が好きだ。」さま
ご協力いただいた会場の「にわには」のみなさま。責任者さま、調整くださった担当の石橋さまはじめ、あたたかく迎えてくださり、感謝申し上げます。
・路地裏ポスター職人3.7
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あなたにもそっと、届きますように。