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『生殖の海』第四章 「明けぬ夜の闇」

『生殖の海』第四章 「明けぬ夜の闇」

くらきより冥き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山のの月 

雅致むすめ式部


夢よりもはかなき世に又夢を見る忘られぬ夢のあとを追ふため

夢のうちに夢を見る世にあらばあれ又なき夢を見る夢とせむ

橘に匂ひをよそへ恋ひられて憂き世をすこし忘れつゝゆく

つかの間の夢を見むとすくらきより冥きに落つる我がこゝろかな

をりを知るなさけにもろ手取り交はし又なき君と入れる迷ひ路

ひたぶるに君を肌へに刻みつゝもろともに見る夢のはかなさ

とく絶ゆるさだめなればやこゝろから恋のかぎりの恋をしにけむ

ひとたびに哀しと知りし別れさへよすがにあれば恋しとぞ思ふ

ありて別れ君とはあらずなりてとやなべて憂き世の夢とこそいへ

さ緑の風にいだかれ君を知りこはが誰れを待ちに待つ空

橘の降りしむる夜に死出の山を越えよ君は山ほとゝぎす

我れのみやせむと問ひける古言をみづぐきの跡ゝ綴るうつせみ

夢ならで又は見るべき君もがなさらば憂き世に強ひて生かまし

そのことゝ覚ゆるをりもありせばとつらきまで君はあはれなりけり

恨むべき何かはありし恋ひ恋ひて憂き世にいまは消えぬ泡沫うたかた

夢にだに紛れぬ身こそかなしけれうつゝともなく暮るゝ憂き世に

人かはとおどろかれぬるこゝろもて生きて夜を経てまだ夢を見る

つれなさを我れに求むる我れなれや恋のかぎりを知らずがほにて

憂き世とは言ふも憂き身とえも言はじ君が形見と我れを思へば

梅が枝に花かと匂ふ雪積めばをり知りがほにうぐひすぞ鳴く

明けぬ夜の闇より闇に迷ひたり行くあてをなみ又や恋する

はじめより終へを知らぬ夢路なり照らすばかりの月をながめて

生きて見るこの世の夢の果ても知らず西にかたぶく月のさやけさ

夢よりもはかなき世にてその夢に影のうつろふ花は散りけり

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『生殖の海』目次

序章 にほふマルボロ
第一章 のぼるけぶり
第二章 母として行く道
第三章 しづかなる海
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 目を開けて
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 いのちひとつぶん
第八章 水底みなそこの死
第九章 母となること
第十章 我が暴れ川
終章 ひかりを添へて

あとがき


この章の解説記事


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