過去から未来へと紡がれる船の記憶
塩飽諸島の中心となる本島にやってきた
海流の速い備讃瀬戸海峡に位置する塩飽諸島の
人々は古代から操船により生計を立てたという。
やがて島の水夫は、塩飽水軍として名を響かせ
戦国時代から明治にいたる歴史の上に名を残す。

2025年瀬戸内国際芸術祭の秋会期で

塩飽諸島を結ぶ航路の先の本島は

水軍と大工が躍動した場所でもある
春会期には小豆島へ
夏会期には、直島と豊島をめぐり

3度目となるこの旅で、本島が位置する

芸術祭の西に広がるエリアへと足を伸ばした

見え隠れする島々、揺らめく船の風景に
海を旅した記憶を重ね

旅はアートでつながれる

太陽に輝いては、錆びゆく鋼の彫刻に
時を留めていた船の作品に心寄せる

船は帆を上げ、風をとらえ

波をかき分け、今にも動き出すかのようにして

線状の鋼はトラスのように組み合わされ

面が連なり、入り混じり

ずらされては、形は動きを帯びて

増幅するようにして力強い造形となる

動きのある線の集合の上に浮遊する船

船体は流れるような線材で構成され

帆が受ける風にも、形が与えられている

動的で立体的な彫刻は

穏やかな瀬戸内海を背後に

荒波をかき分けて進む船を表すかのようでもある

作品のモチーフとなったのは咸臨丸
かつての佐世保への旅で、その姿と歴史にふれた

咸臨丸は日本船として初めて太平洋を渡った船で

日本における近代化の歴史に名を残す

出航と名付けられたその作品は、過去の記憶を

先に広がる未来へとつないでいく
幕末維新の波を越えた咸臨丸も、静かに時を閉じ
時代は移り、歴史が刻まれる。かつて日本で初めて
太平洋を横断した船に乗った塩飽諸島の水夫達。
瀬戸内海に躍動した塩飽水軍の歴史。培われた
造船や大工の技術。島に流れる記憶を、出航という
名の鋼の彫刻は、風を捉え、波をかき分けるように、
過去をつなぎ、不確かな未来へ向かう道標となる。
