大阪・淀屋橋駅直結の複合施設「淀屋橋ステーションワン」の最上階150mの高さに位置するイノベーティブレストラン「SOA(ソア)」。三つ星レストラン「HAJIME」の元マネージャー薮内健治氏と、ミシュラン掲載店で腕を振るった高田和明氏がタッグを組んだ。大阪の夜景を見下ろす非日常空間と、地球の源である“土”。一見、正反対にある2つの要素を融合させ、食を通じて「生命の循環」という世界観を描き出す。同店のディレクター兼マネージャーを務める薮内氏に「SOA」が目指す”土のガストロノミー”というコンセプトで「食を通じて世界の見え方が変わる体験」について話を聞いた。
都心の天空で、あえて「土」をテーマにする理由
――店名の由来と”土のガストロノミー”というコンセプトについて教えてください。
薮内健治(以下、薮内): 店名「SOA」は、「Soil(土壌)」と「Anima(生命)」の言葉を掛け合わせた造語です。私たちが最も大切にしているのは”土のガストロノミー”という考え方です。すべての命は土から始まり、微生物や菌が土壌を豊かにし、それが植物や動物を育み、巡り巡って海へ、そしてまた土へと還っていく。この壮大な命の循環を一皿一皿に表現しています。大地から離れた地上150mという都市の非日常空間だからこそ、あえて対極にある“土”を再現することで、自然の尊さや根源的な美しさがより鮮烈に際立つと考えています。
――全13品のコース仕立てのそれぞれの料理名もユニークです。前菜の「土」やシグネチャーディッシュの「循環」、「原始のスープ」について教えてください。
薮内 : 前菜の「土」は、土の前駆体は石や岩です。岩石が風化によって細かく砕かれ微生物が枯葉を分解し養分となって豊かな土壌になり、植物が芽吹く。そうした情景を一皿に描いています。上の部分は季節のエディブルフラワーで、下層は炭を混ぜたシュー皮のグジェールで石を表現しています。中には微生物由来のチーズを詰めています。
「原始のスープ」とは、生命誕生前の海をイメージしています。約40億年前の地球の海には、生命の材料となるアミノ酸やRNAなどの有機物が豊富に溶け込でおり、それらが化学変化を起こして生命が生まれたという説があります。「生命の起源である海のバランス」をソースで再構築しました。核酸や多糖類、脂質、アミノ酸などをベストな比率で仕上げているので、魚介との相性は抜群です。
そして当店のシグネチャーディッシュが「循環」です。大自然を前にすると、人間はなんて小さい存在なんだと誰しも感じた体験があると思います。そうした自然への畏怖を追体験していただきたいという思いから生まれました。
山に降った雨が地面に浸み込み、木々を潤し、枯葉などの養分を蓄えながら地下水となって川から海へと流れ込む。そして海水が蒸発して雲になり、再び雨となって大地に降り注ぐ。このダイナミックな自然の循環を、そのまま料理に仕立てました。
五感を研ぎ澄まし、目の前の一皿に没入する空間演出
PROFILE: 薮内健治/SOA ディレクター兼マネージャー

――視覚や聴覚、触覚など五感で料理を味わう空間演出にもこだわれているそうですね。
薮内 : 料理を最大限に堪能していただくため、空間そのものをデザインしています。目の前のひと皿に没入できるよう、店内の照明を落とし。料理だけにスポットライトが当たるように設計しました。
さらに「SOA」の世界観を耳からも感じていただけるよう、サウンドクリエイターとともにオリジナルのBGMを制作しました。
自律神経を整え、癒し効果があるとされるソルフェジオ周波数を取り入れた音響により、聴覚からもディープな世界観に没入していただけます。
――レストランにおけるサステナビリティの取り組みについても聞かせください。
薮内 : 現代の美食の世界において、サステナビリティは避けて通れないテーマです。私たちの店でも、食材ロスは出さないことは当然、これまで価値を見出されず捨てられてきたものに光を当てる工夫をしています。
例えば、漁港で未利用魚として処分されてしまう魚介を仕入れたり、メインディッシュのジビエには和歌山で害獣として駆除された猪肉を使ったりしています。腕利きの精肉士が完璧に血抜き処理しているので、驚くほど臭みがなく上質な肉です。
お客さまに「皿の上の素材がかつては命ある個体だった」ということに思いを馳せていただければうれしいですね。おいしいという感動を出発点に、海洋資源や気候変動といった地球規模の課題を“自分ごと”として捉えるきっかけになればと思っています。「SOA」での体験を通じて、お店を出たときに少しでだけ世界の見え方が変わるような、そんなパラダイムシフトを提供していきたいと思っています。