銀河フェニックス物語<出会い編> 第八話(1) 唇よ、熱く営業トークを語れ
<これまでのお話>
第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話 第七話
はああぁ。
深いため息をつくとティリーは目の前に浮かんでいる三次元映像を指で弾いた。

新型宇宙船『グラード』の宣伝用画像がゆらゆらと乱れた。
同期の女性設計士が初めてメインで造った星系外航行船のグラード。
いい船だと思う。
この船には二カ月で二隻という販売ノルマが課せられていた。
わたしは一隻目を営業部で一番早くに売った。ちょうどわたしの顧客が星系外を飛べる船を探していたのだ。
でも、その後はどんなに売り込みをかけても契約には至れず、ノルマの月末が目前に迫っていた。
明日が最後のチャンスだ。
先方の邸宅があるパル星へ向かう船の中で、わたしは呪文のように宣伝文句を唱えていた。
「居住空間性は抜群な上に、燃費もよく安全性には絶対の自信があります・・・」
はああぁ。また、ため息が出る。
デジタルパンフレットを閉じると、グラードの映像は空間に吸い込まれるように消えた。
「何、しけたため息ついてんだよ。 パル星には明日の昼に、予定通り着くからな」

居間に入ってきたレイターがわたしに声をかけた。
どうしてこんな大事な時によりによって厄病神のフェニックス号で行かなくちゃいけないのだろう。
厄病神の船で行くと契約が成立しない、と言うジンクスが営業部にある。わたしもテロ攻撃にハイジャックとこれまで散々な目に遭ってきた。
「いいわよね。レイターは」
「あん?」
「ノルマも何もなくて」
嫌味の一つも言いたくなる。
「ノルマねえ。ま、しょうがねぇよ。グラードは売りにくい船だ」
グラードの販売は部員のみんなが苦戦していた。だからと言って船のせいにするわけにはいかない。
「レイターに何がわかるのよ。フレッド先輩は早々とノルマを達成してるんだから」
ビジネススーツを隙なく着こなすトップ営業マン。フレッド先輩の姿が頭に浮かんだ。

「あいつはノルマが生きがいだからな」
フレッド先輩を馬鹿にした口調がわたしの癇に触った。
「そんな言い方しないで頂戴!」
「ティリーさん言っとくけど・・・」
レイターの話を聞いている暇は無い。わたしは忙しいのだ。
「わたし考えなきゃいけないことがたくさんあるの。一人にさせてくれる」
「へいへい」
レイターは肩をすくめると居間から出ていった。
*
どうしてわたしが選ばれたんだろう。
明日パル星で会う大物顧客のライネッツ・スチュワート氏は、急成長したベンチャー企業のやり手社長でメディアにもよく取り上げられる有名人。
三十代前半で財界にも発言力を持つという切れ者だ。

レイターが宇宙船レースでいつも応援しているプライベーター「チーム・スチュワート」のオーナーでもある。
これまではフレッド先輩が担当していた。
そんな大物に会いに行ってくれ、と部長から言われたのはニ日前のこと。
ほとんどアポイントがとれないという超多忙なこの社長に会うための時間と場所がすでにセッティングされていた。
スチュワート氏の予定を空けるために部長が持つルートをどれだけ駆使したのだろうか。
部長がわたしの目を見ながら言った。
「とにかくスチュワート氏に顔をつないできてくれ」
「はい。あの、でもどうしてわたしが?」
担当のフレッド先輩の都合がつかないにしても、こうしたVIPにはもっと場数を踏んだ先輩部員があたるはずだ。
「行きたくないのか?」
「いえ、行きます」
もしかしたら一番早くグラードの一隻目を売ったわたしのことが評価されたのかもしれない。
次の部長の言葉が信じられなかった。
「あ、言い忘れたが、船はフェニックス号だ」
「え、ええっ!?」
こんな大事な交渉に部長は一体何を考えているのだろう。 (2)へ続く
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」