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銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(最終回)

銀河フェニックス物語 総目次
裏将軍編のマガジン
・最後の最後は逃げるが勝ち(1)~(10) (11) (12) (13) (14) (15)

「俺は今、マフィア対策課と、操縦免許課と、少年課と、窃盗捜査課からこっぴどくしぼられてるんだぞ」
 クリス警部は指を折りながら怖い顔でにらんだ。
「窃盗捜査課?」
「レイターの野郎。宇宙船を盗んでラダルドの本部から逃げやがったんだ」

 ソファーで寝ていた御台がガバっと起き上がり、大声を出した。
「レイターは、生きているの?」

n301ヘレン横顔@@やや口

「ん? そうか、あんたら知らんのか。大けがして意識は戻っとらんが月の御屋敷に帰ってきたそうだ。まあ、あいつは不死鳥のレイターだからな」
 ガハハハハとクリス警部は大きな口で笑った。

 御台が声をあげて泣いていた。
「よかった・・・。クリスさん、レイターに伝えてください。ありがとうって」
「ああ、わかった。だが、その前にあんたには話を聞かせてもらうよ」
「はい」


 御台は少年課の女性警察官からたっぷりと聴取された。

 罪には問われなかった。
 積荷の中身を知らなかったということと、十七歳という年齢が考慮された。

 そして警察は、ラダルトの本部へ小型機で突っ込んだ人物について、身元は不明で現場で死亡した、と発表した。
 将軍家と警察が手を握ったのだろう。
 ラダルトは銀河中から恨みを買っていたから、情報ネットは犯人捜しで盛り上がっていた。


「アレグロ、いろいろ迷惑かけたわね。あたしは地元へ戻るわ」
 御台が白いワンピースを着ていた。よく似合っている。年相応の少女に見えた。

「いいのか、レイターに会わなくて」

アレグロとワンピヘレン

 レイターはまだ意識が戻っていないらしい。最後の最後、あいつは逃げて帰ってきた。まさに、逃げるが勝ちだ。

「彼には会わせる顔がないわ。あたしは遠くで彼の幸せを祈ってる」
「純愛の愛だな」
何それ、いいかもね。純愛の愛
 御台が久しぶりに笑った。


 ギャラクシー・フェニックスはギャラクシー連合会へと移行し、引退した裏将軍は伝説になった。

 俺、アレグロ・ハサムは裏将軍の元側近という肩書きでギャラクシー連合会の総長になった。

 飛ばし屋チームの独立を認め、旗が必要なチームには返還した。
 西の老舗ウエスタンクロスは大将のノーザンダが旗を受け取りにきた。
 ノーザンダはあの東西統一バトルの後、プロ入りが正式に決まったと聞いた。

 西の大将は実直そうな男だった。
「プロ入りおめでとう」
 旗を渡すと、ノーザンダは静かに頭を下げた。
「ありがとう。これが飛ばし屋として最後の仕事だ。裏将軍とのバトルの動画が決め手となってオファーが来た。裏将軍はどうしている? プロのレーサーにはならないのか?」

ノーザンダ前目逆

「さあ。あいつは、銀河一の操縦士になりたいそうだ」

「自分は最後に裏将軍と戦えて幸せだった。才能の前に努力が打ち破られたのはきつい経験だったが、プロでの糧にしたいと思っている」

 レイターには確かに才能がある。だが、ノーザンダの発言に俺は違和感を抱いた。

「裏将軍と君は、どちらが努力していたと思う?」
「自分は、あのウエスタンベルトで『愚直』と呼ばれながら、日々飛ばしを積み重ねてきた。その量は裏将軍に負けない自信がある」
 揺るぎのない瞳で俺を見つめる。

「裏将軍は、君と対戦するために命を削っていた」
「命を削る?」
「食事も睡眠も切り詰めてすべてを船に捧げるんだ。修行僧みたいだったよ。操縦で新たな境地にたどり着けるなら、死んでもいいと」

 ノーザンダに伝わるだろうか。生命維持をおろそかにするほどの執念。

「君との大将戦の後、あいつは突風教習船の中で倒れて死んだように眠っていた。精も根も尽き果てていた。それでもたどりつけなかったらしい。裏将軍が追い求める感覚には」

n24レイター横顔@寝る

「それは一体、どんな感覚なんだ?」
「あいつは『あの感覚』と呼んでいるが、本人も言葉では説明できない。五段階のレベル六だそうだ。時間が止まるらしい」
「時間が止まる・・・」

「裏将軍はそれを得ようと命を懸けて努力している。才能が努力を上回ったという簡単な図式じゃない」

 ノーザンダが唇を噛んだ。
「まだ、自分は足りてないのかも知れない。その神の高みに触れてみたいものだ」
「いつか見られるかもしれないさ。あいつは、君とのバトルのおかげで、『あの感覚』のかなり近くまでいけたそうだ。一人ではたどり着けない領域なんだろう。裏将軍は言っていたよ。西の大将は『無敗の貴公子』より速いって」
 ノーザンダの目が見開かれ、歓喜の色に染まった。裏将軍の言葉は愚直な彼の未来を支えていくことだろう。


 西の大将を見送って、俺はギャラクシー・フェニックスの日々に思いを馳せた。
 レイターとヘレンのおかげで、一人ではたどり着けない場所へと連れて行ってもらった。

裏将軍と御台の笑顔

 濃密で充実した時間だったのに、儚い。
 夢を見ていたようだ。
 予想外に早く、その時間は閉じてしまった。
 裏将軍ロスだな。

 さて、これから、どうするか。
 興奮でもたらされた熱が、まだ自分の中に残っている。
 とりあえずはギャラクシー連合会で新たな夢を追うとするか。

 大兄者は怒っているが、大学に提出するリポートの期限はとうの昔に切れてしまったからな。      (おしまい) <裏将軍編>「風の香り」へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
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48ノ月(ヨハノツキ) ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」