あなたは優しく嘘をつく|第5話|「僕が1番だって言いなよ」王子様型危険生物に捕らわれて
私はダメ男をリピートした。
しかも今度は真逆だった。
前回はヒモ。今回は王子様。
どっちが危険だったかって?
圧倒的に後者。
だってね、ヒモはまだわかりやすいんだよ。お金を出さないし、働かないし、頼ってくる。だから周りも「あいつはやめとけ」って止めてくれる。
でも王子様型は違う。
むしろ周りからは「いい人じゃん」って言われる。
私もそう思ってた。
その男は中途入社でやってきた。私は教育係だった。以前会社説明会で私がセミナーをしていたのを見て、それで入社を決めたらしい。
「アマノさんがいたから入社決めました」
そんなこと言われたら悪い気はしない。
私は主任だったんだけど、
「主任になるにはどうしたらなれますか?」
って聞いてくる。
向上心もある。真面目そう。見た目はうさぎみたいな草食系。
当時の私は知らなかった。
うさぎは草しか食べないけど、人間のうさぎは他人の承認欲求を食べる。
入社してしばらくした頃、営業チームで飲み会があった。
会計の時、私は一番上の立場だったから払おうとしたんだけど、彼が先に財布を出した。
しかも全員分。
「私が払うから」
と言ったのに、
「アマノさんがいる時は、僕が払うって決めてるんで」
そう言ってお金を受け取らなかった。
こういうの、女は弱い。
いや、私が弱かった。
そこからちょくちょく食事に誘われるようになった。
毎日LINEが来る。
営業成績の報告。
「僕すごいですか?」
って。
だから褒める。
すると喜ぶ。
たまに電話も来る。
気づけば夜中まで話している。
毎日。
毎週。
毎月。
ある日、実家に帰省したからと言って、職場にお菓子のお土産を持ってきた。
あまりにも美味しくて、私、絶賛したんだ。
そしたらさ、その1週間後。
箱で持ってきて、
「実家から送らせました。アマノさん、きにいってくれてたんで」
だとよ。
もうこれ、フラグで良いよね。
そうなるとさ。
思うじゃない。
この人、私のこと好きなんじゃないかなって。
私も気になる存在になっていた。
毎晩のLINEで
「聞いてください。今日は〇件契約になって〇円の売り上げだしました。僕すごいですか」
って送られてきていたのが、
最初はアピールすご…って、
ドン引きだったんだけど、
いつの間にかさ、それも尊く思えてくるわけ。
「すごいです!!こんなに早く結果を出されるなんて」
って、必要以上に持ち上げたよ私。
「アマノさん、もっと褒めてください」
「あなたの実績は主任クラスです!」
「アマノさん、僕はもうすぐ主任になりますよ」
「そうなってください!応援してます♡」
…あぁ。
♡、ついに使っちまった。
こんなやり取りが毎日。
電話でも。
「アマノさん、僕は今日、取引先でこんな嫌味言われましたけど、怒りませんでしたよ。偉いですか」
「偉いです♡ちゃんと大人の対応ができたんですね。その取引先は心の中でぶっ飛ばしておきましょう」
「ぶっ飛ばすどころじゃありません。タックルしたあと百裂キックです」
「キャハハ!」
こんなバカップルトークを夜中の2時まで続けてた。
私たち、いつ距離が変わるの?
そう思ったから。
告白した。
振られた。
彼女を作る気はないんだって。
結婚願望もない。
一人が気楽。
誰とも付き合うつもりはない。
なるほど。
じゃあ私の勘違いだったんだな。
そう思った。
でも終わらない。
毎日LINEは来る。
電話も来る。
食事にも誘われる。
社外研修に私が行くと聞けば、自分も立候補してついてくる。
距離感だけは恋人。
責任だけは他人。
これが王子様型危険生物。
好意は与える。
でも責任は取らない。
そして私は、この生き物の本当の恐ろしさを、まだ知らなかった。
その話はまた今度。
