あなたは優しく噓をつく|第7話|「あなただけですよ」が別の意味だった|似非王子に気づくまで。
人間ジャングルは奥が深い。
私は彼が作ったこのジャングルから果たして脱出できる?
それとも奥深く迷い込む?
そんなことを考えながら迎えたバレンタイン。
私は手作りチョコを渡した。
最後の悪あがきだった。
去年は高級チョコだった。
有名ブランドのやつ。
一箱数千円。
馬鹿だよね。
チョコの値段で、
好意の大きさを測ろうとしてたんだから。
でも今年は違った。
もう疲れていた。
期待したくなかった。
だから手作り。
お金もかかんないし、
気持ちがこもった感じがするでしょ。
どんな結果が出ても痛手はない。
手作りで落とせるかもしれないし(笑)
落とせなくても安上がり(笑)
私の彼に対する気持ちは
もう”そんなもん”だった。
高級チョコを買った時のような
”どうにかして手に入れたい人”
ではなく、
安上がりで省エネで
”手軽に手に入ればいい”
手に入らなければ
”それでいい”
そんな中途半端な相手になっていた。
彼にチョコを渡したら、
いつも通りの淡々とした態度で
優しく穏やかに喜んだ。
LINEでお礼をもらった。
「手作りが身に沁みます」
前に手作りクッキーあげた時も
同じこと言っていたな。
本心だか建前だか
知らんけど。
クッキーあげた時の気持ちと
今の気持ちはもう違う。
だって、
「身に沁みます」は
「好きです」にならなかったから。
だから、今回も同じ。
「好き」
にはならないね。
また。
そしてホワイトデー。
食事に誘われた。
でも期待はしなかった。
彼の気持ちに変化がないことを
バレンタインの返事でわかっていたから。
その日もきっと、
ただの飲み会で終わる。
二人で入店して席に着いた。
彼が紙袋を出してきた。
あれ?
どうしたの??
それがホワイトデーの贈り物だと知って、
私は。
どうしちゃったんだろう…
嬉しくない。
ときめかない。
何も感じない。
お土産をもらった時と同じ。
態度で頑張った。
「ありがとうございます(´;ω;`)ウッ…」
「うれしいです♡」
もらったお菓子をまじまじと見た。
可愛いラッピングで
オシャレで上品なクッキー。
彼は照れながら
「2時間行列に並びました」
ええーーーーー?!
驚いた。
でも同時に。
「そんなことしなくていいのに」
って思っちゃたんだよね。
彼はつづけた。
「アマノさんの分だけですよ」
「こんなに並んでまで買ったのは」
私、嬉しい態度がんばって出してみた。
どうしたの、私。
今、恋が実ろうとしてるんじゃないの?
どうして心が躍らないの?
もう好きじゃない?
違う。
今まで期待を裏切られすぎて、
もう手放しに彼を信用できないんだ。
それでも私、待ってしまった。
次の言葉を。
たった一言でいい。
好き。
会いたかった。
特別です。
何でもよかった。
2年間待った答えを。
「去年お返ししていなかったんで」
彼が言った。
ああ、よかった。
期待しなくてよかった。
胸が躍らなくてよかった。
待ってたよ。
その言葉をずっと。
私が欲しかったのは
彼の「好き」じゃなかった。
”終わり”
の言葉。
私の2年間の恋は
2年分の「お返し」によって
清算されたんだね。
「ありがとうございます」
それ以上、チョコやクッキーの話はなかった。
彼が付け加えて
想いを語るようなことも。
終電がなくなっても
部屋に呼ばれることも。
タクシーで帰路についた。
「さよなら、似非王子」
この人、
私を好きじゃなかった。
でも、
失いたくもないんだ。
それだけなんだ。
好かれている状態は気持ちいい。
頼られる状態も気持ちいい。
褒めてもらえる状態も気持ちいい。
だから手放さない。
でも付き合わない。
責任は取らない。
王子様型危険生物の完成形だった。
彼を手放して、
私には新しい出会いがめぐってきた。
彼は相変わらず
毎晩LINEをしてくるので、
返信の熱をうんと下げて
察してもらうようにした。
でも、けじめはつけなきゃと、
私に新しい出会いがあったことを
彼に告げることにした。
彼と食事をする約束を取った。
これが、二人きりでいく
最後の食事。
そこで彼は、
とんでもないことを言い出した。
人間ジャングルは本当に奥が深い。
王子様は最後まで王子様だった。
その話はまた今度。
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