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バルコの航海日誌 プロローグ◆ルダドの波

あらすじ
少年船乗りのバルコは仲間たちと青い海を駆け巡る。
旅先での不思議な出会いは、バルコの胸を大きく揺さぶって——
ワクワク、ドキドキ、時に切なさと懐かしさ。
そんな日々を綴ったバルコの航海日誌。

プロローグ◆ルダドの波

――潮の匂いが一段と濃くなった。
濃紺の海面には銀色のさざ波が騒ぎ始めている。数日続いた凪のあと、海峡には風が吹き始めていた。
船乗りのひとりが手をかざして沖を見つめると、興奮を抑えきれずに叫んだ。

「ルダドの波が来るよう」

その声に、甲板の男たちは一斉に色めき立った。雄たけびを上げる者までいる。長い凪には飽き飽きしていた。腕が鳴る。船いちばんの大男のダッカは手のうちでこね回していたカードの束を空き樽の中に打っちゃっると、ズボンの埃を払って勢いよく立ち上がった。
「腕前が錆びついちまう前でよかったよ。いくらこの俺様でも、こう長く暇が続いちゃな」
「だといいな。首尾よくいったら、まずはカードの貸しを返してもらおうか。たんまり溜まっているからな。頼んだぜ」
周りの男が混ぜっ返す。どっと笑い声が起こった。

「ルダドの波が来るよう」
樽の間のすき間に寝転がり、夜番明けの仮眠を取っていたバルコも、その声に跳ね起きた。バルコは十五歳になったばかり。バルコの父は、その図抜けた船の扱いと勇敢さとで仲間内に知られていたが、溺れかけた仲間を助け、数年前に天に召された。成長したバルコはその父の跡を継いだのだ。

船乗り一家で育ったバルコは、幼い時から船を遊び場にし、船乗りたちから海に関する様々な噂を聞いて育った。その中でも「ルダドの波」は特別な響きを持って語られる言葉だった。ルダドの波について語る時、船乗りたちの血はたぎった。幼いバルコにもその興奮はひしひしと伝わって来た。
そのルダドの波が来る。ついに自分の目で見ることができる。 

ルダドの波。それは何年かに一度、幸運な船だけに訪れる歓喜の波。この海峡の付近には海底火山があり、暖められた海水が定期的に海底からせり上がってくる。その暖流と、気まぐれに流れを変えることから幻潮と呼ばれるこの地域独特の寒流が偶然合流すると、巨大な波が生まれる。ルダドと呼ばれるその波が起こると、海面がうねるような動きを見せ、おびただしい魚群を引き寄せてくる。見渡す限りの海が魚の背で銀色が染まってしまうほどの大漁になるのだ。

波の直前には、船に居る者の気力を腐らせていくような凪と曇天が続くと伝えられている。ここ数日間の曇天に、もしや、と期待する気持ちはあったが、本当に出会えるとは。
男たちは上機嫌だ。
「こないだの漁じゃ俺の圧勝だったからな。俺の網には魚が先を争って飛び込んで来た。それがルダドの波と来たもんだ、血が沸くね。だがお前にゃ百年早いから、海に落っこちないよう、マストにでも縛りつけてもらっておけよ」
「お前が獲るのは雑魚ばかりだろう。俺は人魚を絡めとってやる。高く売れるぞ」

バルコも活気づく甲板の一員となっていた。やっぱり波はいい。時には激しく荒れ狂い、人々の生命をも奪う相手だけど、それでも波が無ければ船乗りは生きていくことができない。子どもの頃から船の上で育ったバルコにとって、甲板を叩く波の音はもうひとつの鼓動のようなものだった。

雲が割れた。雲の裂け目の青空から、海上にまっすぐの光の柱が突き立つ。鉛の板のように凪いでいた海面が沖で突然盛り上がり、白い飛沫を噴き上げた。
「来るぞお」
それまで軽口を叩いていた男たちの目の色が変わった。

こうして、十五歳になったバルコの船旅は幸先よく始まった。



【バルコの航海日誌】

■プロローグ:ルダドの波
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■真珠の島
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【2】銀沙の薔薇 https://note.com/asa0001/n/n6a319a6567ea 
【3】オアシス https://note.com/asa0001/n/n3b222977da7a 
【4】異族 https://note.com/asa0001/n/n224a90ae0c28 
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【6】海へ https://note.com/asa0001/n/n1a026f8d4987 
【7】眠り https://note.com/asa0001/n/ne00f09acf1b7 
【8】目覚め https://note.com/asa0001/n/ncbb835a8bc34 
【9】海の時間 https://note.com/asa0001/n/nb186a196ed9d
【10】歌声 https://note.com/asa0001/n/ne9670d64e0fb 
【11】覚醒/感応 https://note.com/asa0001/n/n983c9b7293f2 
【12】帰還 https://note.com/asa0001/n/n53923c721e56 

■香料図書館
【1】図書館のある街 https://note.com/asa0001/n/na39ca72fe3ad
【2】第一の壜 https://note.com/asa0001/n/n146c5d37bc00
【3】第二、第三の壜 https://note.com/asa0001/n/na587d850c894
【4】第四の壜 https://note.com/asa0001/n/n0875c02285a6
【5】最後の壜 https://note.com/asa0001/n/n98c007303bdd
【6】翌日の図書館 https://note.com/asa0001/n/na6bef05c6392
【7】銀の匙 https://note.com/asa0001/n/n90272e9da841

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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