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【小説】ここに、おったけん――猫は何も言わんけど、佐世保は知っとるまち景色(第49話「言葉にできんもん」/「言いたること、言わんまま」/「じっと、おったけん」)


ここに、おったけん――猫は何も言わんけど、佐世保は知っとるまち景色



サイドB:「言葉にできんもん」
——メグルの視点より


 駅前のバス停。
 どんより曇った空。冷たか風が、頬ば撫でていく。

 俺はスマホばじーっと見とる。
 指ば動かしよるばってん、なんも見とらんごた。

 隣にはアキトモ。
 あいつもスマホば見つめとる。

 1限と4限、講義の空き時間。
 ちょっと、佐世保駅まで来てみた。
 二人でここに座っとるばってん、なんも話さん。

 ——なんしよるんやろうか、俺たち。

 心ん中でそうつぶやく。
 ばってん、それば声に出す勇気はなか。

 「…あ、この動画見た?」

 アキトモがぽつんと話しかけてきた。

 「…うん、見たことある」

 それだけ。

 また画面ばスワイプ。
 流れる顔、踊る人、笑う声。

 ——おもしろい? いや、なんもおもしろくなか。

 アキトモとは大学のサークルで知り合った。
 最初は気が合うと感じた。

 ばってん、こうして二人でおると、なんか会話が続かん。

 ——あいつ、なんか遠慮しとるんかな。

 沖縄から来たっちゅう話はしっとる。
 最初ん頃は「なんくるないさー」なんて笑いよったけん、
 明るか奴やなと思うた。

 ばってん、最近はそんな感じがなか。
 どこか控え目で、言葉ば選んどるごたる。

 ——俺も…なんか、うまく話せん。

 「…次の講義、取る意味あるんかな」

 アキトモがぼそっと言うた。

 「…うん、まあ…」

 自分でも薄っぺらか返事やと思う。

 ——ほんとは、もっと話したか。

 「さっきの店、どうやった?」

 「…ああ、うん…普通やった」

 それだけ。

 ——なんや、この空気。

 沖縄の明るか雰囲気に憧れるところもあった。
 なんも考えんで、すぐに友達んなれる。

 ばってん、俺はどうしても遠慮してしまう。
 「これ言うたらどう思われるやろう」
 「なんか変に思われんやろうか」

 そんくらいのことが、いつも頭ん中にある。

 ふと、足元に動くもんが見えた。

 「…ん?」

 白と茶のぶち模様の猫。

 アキトモの足元に座り、じっと見上げとる。

 「…猫?」

 思わず声が出た。
 ばってん、またスマホに視線ば戻した。

 ——いや、別に…

 でも、その視線が気になる。

 ちらりと横見ると、アキトモも猫ばじっと見とる。

 ——なんか…あいつも、少しほっとしとる?

 猫はただ、そこにおる。
 なんも言わんばってん、じっと見とるだけ。

 アキトモがスマホばしまった。

 ——あ…

 俺も、なんとなくスマホばしまった。

 「…暇やね」

 なんでか、素直にそう言えた。

 「うん…暇やさー」

 アキトモもぽつりと答えた。

 猫はしっぽばふわりと揺らし、じっと俺たちば見とる。

 「…なんか、だらだらしとるばい」

 「うん…なんしよるんやろ、俺たち」

 「…わからん」

 曇り空。冷たか風。
 ばってん、なんか少しだけ空気が軽うなった気がした。

 猫はゆっくり立ち上がり、しっぽばふわりと揺らしながら歩き出す。

 その背中ば見送りながら、ふと思いついた。

 「…今度、飯でも行く?」

 「…ああ、行こう」

 アキトモは少しだけ笑うた。

 ——これでよか。

 うまく話さんでも、ただ一緒におるだけで。

【了】



サイドB':「言いたること、言わんまま」
——アキトモの視点より


 駅前のバス停。
 どんより曇った空。ひやみかちな風。

 わんはスマホん画面をじらーっと見ちょる。
 指さ、ただ動かしよるけど、なんも見えん。

 隣んメグルも、同じくスマホ見ちょる。
 二人、横に並んじゅーし、言葉もなーん出らん。

 ——なんしよーねー、わんたー。

 心ん中でそう思うたしが、声にはならん。

 「…あ、この動画見た?」

 なんくるなく話しかけた。
 けど、なんかぎこちなさ。

 「…うん、見たことある」

 それだけ。

 わんはまた画面ばスワイプしよーる。
 流れていく顔、踊る人、笑う声。

 ——おもしろーんか? いや、なんもおもしろくねー。

 メグルとは大学のサークルで知り合った。
 最初は気が合うかなと思たさ。

 でも、こうして一緒におると、なんか会話が続かん。

 ——やっぱ、わんはウチナーのノリが合っちょーんどー。

 あっちではもっと自然やた。
 「なんくるないさー」って笑いながら、すぐに打ち解ける。
 ふざけても、突っ込んでも、誰も気にせんかった。

 ここ、佐世保では違う。
 言葉ん選んで話す。
 空気ん読みすぎて、なんか壁がある感じ。

 わんもその空気ば読んでばっかり。
 気ぃば使いすぎて、なんか疲れるさ。

 「…次の講義、取る意味あるんかな」

 無意識ん漏れた言葉。

 「…うん、まあ…」

 メグルの声もどっか浮いちょーる。

 ——もっと、ふざけて笑えたらよかったのに。

 「さっきの店、どうやった?」

 「…ああ、うん…普通やった」

 それだけ。

 ——ほんと、わんたーなんしよーねー。

 ウチナーやたら、
 「おい、行こうぜ!」「お前、面白いやつだな!」
 すぐに声かけて、笑っちょった。

 ここじゃ、「ちゃんとせんと」って思ってしまう。

 ——わん、なんしにここ来たんかねー。

 ふと、足元に何か動くもんが目に入った。

 「…ん?」

 白と茶んぶち模様んまやー(猫)。

 メグルん足元に座い、じっと見上げちょる。

 「…猫?」

 思わず声が出たしが、またスマホに視線ん戻した。

 ——いや、わんは別に…

 なんかその視線が気になる。

 ちらりと横見ると、メグルは猫んじっと見ちょる。

 ——なんか…うらやましいさ。

 まやーや、ただそこにおる。
 なんも言わんし、なんも気にせん。

 わんは、なんとなくスマホをしまった。

 メグルもスマホをしまう。

 「…暇やね」

 メグルがぽつりと言うた。

 「うん…暇やさー」

 無意識ん同じ言葉が出た。

 まやーや、しっぽをふわりと揺らし、
 じっとわんたー見つめよーる。

 「…なんか、だらだらしとるばい」

 「うん…なんしよるんやろ、俺たち」

 「…わからん」

 曇たる空。ひやみかちな風。
 でも、なんか少しだけ空気ん軽うなった気がした。

 まやーや、ゆっくり立ち上がり、
 しっぽばふわりと揺らしながら歩き出す。

 その背中ん見送りながら、メグルがぽつんと。

 「…今度、飯でも行く?」

 「…ああ、行こう」

 わんは少しだけ笑うた。

 ——これでいいさ。

 ウチナーみたいに騒がんでも、
 ただ、こんな感じでいちょーさ、よかかもしれん。


【了】


サイドA:「じっと、おったけん」
——ぶんちゃんの視点より


 駅前のバス停。
 空はどんより曇っとって、冷たか風が吹いとった。

 おれは駅前のベンチから、じーっと人の流れば見とった。
 急ぎ足で行き交う人。スマホば見ながら歩く人。
 なんかみんな、どこかしら忙しそうや。

 ふと、目に留まったんは、二人の若いもん。
 並んで座っとるばってん、どっちもスマホば見つめとる。
 片方は黒髪で、なんか静かに笑うたごたる顔。
 もう片方はちょっと肌の色が濃うて、短か髪。

 ばってん、二人とも顔はなんか暗か。

 おれはベンチの足元に近づいて、そっと座り込んだ。

 「…あ、この動画見た?」

 黒髪ん方がぽつんと話しかけた。
 ばってん、なんか声が浮いとる。

 「…うん、見たことある」

 それで会話は終わり。
 また、二人はスマホばじーっと見よる。

 ——なんしよるんかね。

 おれは少し頭ばかしげた。

 目ん前に人がいるのに、なんも言わん。
 画面ん向こうば見よるばっかり。

 おれはふわりとしっぽば揺らしながら、もう少し近づいた。

 「…次の講義、取る意味あるんかな」

 短髪ん方がぽつんと言うた。

 「…うん、まあ…」

 黒髪の声は、どこか寂しか。

 おれはしっぽばピタリと止めて、じっと二人ば見つめた。

 ばってん、二人はおれに気づかん。
 スマホん画面ばずっと見つめとる。

 ——これじゃ、なんも伝わらんばい。

 おれはそっと、短髪ん方の足元に座り込んだ。

 「…ん?」

 ようやく気づいた。

 「…猫?」

 短髪ん方が目ば合わせた。
 黒髪も顔ば上げ、二人しておれば見とる。

 おれは何も言わん。
 ただ、じっと二人ば見つめた。

 「…暇やね」

 黒髪ん方がぽつりと言うた。

 「うん…暇やさー」

 短髪がゆっくり答えた。

 ——やっと、少し声が出たね。

 おれはしっぽばふわりと揺らし、ゆっくり瞬きした。

 「…なんか、だらだらしとるばい」

 「うん…なんしよるんやろ、俺たち」

 「…わからん」

 二人は笑うた。
 その笑い声は、さっきより少しだけ軽うなっとった。

 おれはそっと立ち上がり、しっぽば揺らしながら歩き出す。

 後ろで二人の声がまた聞こえる。

 「…今度、飯でも行く?」

 「…ああ、行こう」

 その言葉ば聞きながら、おれはゆっくり歩き続けた。

 ——そっと、おったけん。


【了】



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シリーズタイトル一覧:(順次、掲載予定です)


あとがき

この本を手に取ってくださり、ありがとうございます。
そして、ぶんちゃんと佐世保の町を、ここまで一緒に歩いてくださったことに、心からの感謝を申し上げます。

私は佐世保で生まれ育ちました。
けれど、大学進学で町を離れ、そのまま県外で就職しました。
けれど人生の節目がいくつか重なり、今はまた、この町に暮らしています。
この短編集は、そんな「ふたたびこの町で暮らす」ようになった私の目に映る、どこか懐かしく、でも確かに変わってきた佐世保の風景と、そこに生きる人たちの姿を、“猫の目線”という静かなレンズを通して描いてみたいと思ったことから始まりました。
 主人公のぶんちゃんは、白と茶のぶち模様の猫。
人の言葉は話しませんが、ただそばにいることで、人の心の奥にある小さな揺らぎや、誰にも見せていない表情を、そっと受け止めてくれます。
 町の片隅にいる猫。
それだけでありながら、たしかに「ここに、おった」と記憶される存在。
この短編集のタイトルは、そんなぶんちゃんの在り方、そして、この町で過ごしてきた人々の“想いが残る場所”としての佐世保を象徴する言葉として名づけました。
なお、本書の創作には、OpenAIのChatGPTを創作パートナーとして活用しています。
最初は「猫と町を舞台に、どんな物語が生まれるだろう」と軽い気持ちでプロットを相談しはじめましたが、気がつけば、物語の呼吸や言葉の余韻を、AIとの対話によって丁寧に探りあてていく日々になっていました。
「語らない猫」「語りたがらない人」「語られずに消えていく町の記憶」——
そんなテーマを、ChatGPTとの共同作業で、時に詩のように、時に物語として形にしていけたことは、まさにこの作品にとって欠かせないプロセスだったと感じています。
佐世保は、坂と港の町です。
変わってしまった景色も、変わらずそこにある空気も、すべてが人と町の記憶を育て続けています。
ぶんちゃんの物語が、そんな記憶のひとつとして、あなたの心に、そっと寄り添えたなら嬉しく思います。
2025年 春
佐世保の町より
筆者


プロフィール|Kazuomi Matsunaga

🧭思考の案内人|Thinking Navigator


略歴:九州大学工学部卒業(材料工学)⇒中京地区の金属素材メーカーエンジニア(生産技術)⇒地元長崎県のフリーペーパー広告営業⇒学校法人職員(←いま、ココ)。長崎県在住の50代。こどもは二人とも大学生となって巣立ち、妻と二人暮らし中。
“問い”と“好奇心”の交差点で、日々思考を遊ばせている書き手です。最近は、連載コラム「思好の科楽(しこうのかがく)」シリーズを中心に、教育・物語・心理・AI・デザインなどをテーマとした独自視点の思索を綴っています。既存の枠を超えた“自由な知のデザイン”を模索中。モットーは「想像力が世界をひらく」。
本業では大学・教育関連の仕事に携わりつつ、「人が何かを“好き”になる瞬間」や「問いが芽吹く場面」を丁寧に見つめることを大切にしています。
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Kazuomi Matsunaga🍀 「クリエイティブの世界へようこそ!」 創造・表現することが好きで、日々新しいものを生み出しています。応援が次の創作の力になります!