私と同世代の巨匠、河森正治さんの軌跡
拝読させていただき、たいへん共感いたしました。
これは初代マクロスのTVシリーズ(私、すでに大学卒業してました・・・)から言われていたことですが、初代ガンダム(私、大学生・・・)からのガンダムファンとっては、マクロスって、リン・ミンメイの露骨な松田聖子的ぶりっこぶりにはじまり、何か軽くてちゃらちゃらしていた作品にみられていたかと思います。
しかし、河森さん、平野さん、庵野さん、板野さんといった「新人類」といわれた若いスタッフたち(私とほぼ同い歳)が、戦中派の冨野さんたちに対してつきつけた、才気煥発としたクリエイティヴな挑戦だったと思います。
戦後消費文化を肯定し、アイドル文化を肯定した上で、テレビの向こうにしか戦争という現実を知らず、バーチャルリアイティにのみ込まれかかりつつも、どうすれば自分たちなりの「知に足をつけた」新しい倫理観を確立できるか?
そのためのあまりにも独創的なギミックが、超巨大戦艦の中に街が広がり、見かけ上の平和と繁栄を維持している、しかしその外は真空の宇宙で、敵と戦う「現実」が歴然と存在するという基本構造でした。
これはまさに現代先進国社会の構造の見事なメタファーでした。
ガンダムにおけるスペースコロニーに原型はありますが、そこを完全に突き抜けた「開き直り」の空間でした。
そして、人類のアイドルの歌が、敵(しかも実は先文明の遺産として兵士として特化された種族)の脳をかく乱するという、いわゆる「デカルチャー」設定。
これは、サラリーマンとしての社会の「兵士」としての在り方しか知らない「親世代」(しかも両親の断絶は決定的で(笑)、別種族になってお互い戦っている!)に対する、アイドル世代のパワーの大逆襲であり、壮大な親子喧嘩ストーリーである、というのが私の基本解釈です。
河森さんは、劇場版「愛・おぼえていますか」の監督を任された時点では、若手アニメークリエイターたちのとりあえずのまとめ役として選ばれただけだったかと思いますが、まだ大阪芸大在学中、留年を重ねて製作したわけです。
👆今となっては非常に貴重な、リン・ミンメイ(飯島真里)、早瀬美沙(土井美加)、一条輝(長谷有洋)揃い踏み映像。
河森さんは、「マクロス・プラス」制作直前に、ハリウッドの制作現場を視察、感銘を受け、自分はこれからこういうふうな作品を作りたいと明言しましたが、これは日本アニメ固有の歴史の深みの否定ではないかとかなり批判されました。
しかしその後の河森氏のフィルモグラフィは素晴らしい展開をしました。
少女漫画ふうロボットアニメという全く新しい世界を切り開いた「天空のエスカフローネ」、「あなたと合体したい!」と、アニメファン以外にも大ヒットしたアキノの主題歌で著名な「創聖のアクエリオン」、いずれも菅野よう子さんの素晴らしい音楽との見事なコンビネーション。
いずれも流麗で洗練され切った作品世界とストーリーと音楽。 いい意味で「おたく臭く」なくて、もっと幅広い視聴者層を引きつける。
そこに登場したのが「マクロスフロンティア」でした。 アスカという女形歌舞伎役者には、軍人の親への反発からくる戦争嫌いがあり、兵士として戦う気がない。あくまでも純粋に空を飛びたいだけ。
ところかそこに、プロ意識のかたまりの、すでに功あり名を遂げていた、歌姫シェリルとの出会い。しかし彼女は深刻なトラウマを成育歴にかかえ、病魔にも侵されている。
更に異星生まれで純粋無垢だが、これまた深刻なトラウマをかかえたランカのアイドル成長ストーリーを絡ませるという三角関係構造を配置した時、物凄い「化学反応」が起こりました。
三角関係を止揚した、3人のエロスのハーモニーが一致した共同作業としてのクライマックス。それを象徴するアニソン永遠の名作、「ライオン」(この曲、シェリルとランカのデュエットにみせかけて、実はシェリルとアスカの愛の営み、あるいは3人の3P(!)の実況中継という含意がある、物凄い歌詞ですが)。
河森さんと菅野さんが、アニソンの枠を超えた世界に通じるポップスター、May’nさんを発掘したことも凄いことですが(ライブ行きてエ!次のシーズンのツアーは大阪で参戦します!)。
河森さんはこの後一気に路線転換、「マクロスデルタ」では菅野さんとのタッグを敢えて捨て、オーディションした声優さんたち5人を徹底的に本格的アイドルユニット「ワルキューレ」として鍛え上げるという、思い切った戦略に出ました。
これも大成功。ワルキューレは、アニソンという枠を外しても十分に通用する、日本最高のアイドルグループとして人気を集めます。
河森さんは、ここで更に、「マクロス」シリーズの新作を作りさえすれば当然ヒットするという、安全策自体をかなぐり捨てます。
「迷宮のしおり」というチャレンジ。
これはキャラデザが必ずしも男性アニメおたくのトレンドの方向性ではなく、主人公しおりと同世代の女性客層をターゲットとしたとしか思えない開き煽り。
しかも内容が、メタファーを駆使した象徴的演出の塊であり、その意味を「わかりやすく絵解き」しないまま物語は進みます。
実は主役級4名、しおり、しおりの二重人格的分身であるSHIORI@Revolution、プロデューサー加神、アイコン小森の4名はきれいな四角形構造なんですよ。
主人公しおりの(ユング心理学でいう)「影」がSHIORI@Revolution、プロデューサー加神の「影」がアイコン小森(この2人、実は「同一人物」!)という男女四角関係を、河森さんは意識的に構造化した(これで4人はユングの言う「曼荼羅」の形になる)という仮説を、私は初回観た時点であっさりたてました。

横軸 双方の「影」(同性)
大阪でのティーチ・インで直接質問すると、
「あ!ユングの専門家の人にはわかっちゃうかあ!
私、3回観てなんとなく伝わればいいかと思ってた」
とケロっと言われました。
そして、チベットでのネイティブ住民との共同生活での体験に基づく、文化人類学的な現代文明批判という、とんでもねえ次元のお話になり、いくら大阪芸大出身とは言え、河森さんのインテリジェンスには私は仰天しました。

何と2時間近くサインに応じ続けました。

「マクロス」シリーズの新作もきっと作られるかと思いますが、傑作「果てしなきスカーレット」を生んだ細田守氏、あるいは新海誠氏より上の世代の、私と同世代の日本のアニメ界最大の大家のひとりとしての、河森さんの今後の活躍を期待しています。
私の少し上の世代の押井さんの「ボトムス」新作も楽しみですし、「灼熱のハサウェイ キルケーの魔女」という画期的なクオリティのガンダム新作を生み出した「富野じいさん」もお見事!ですけどね!!

