【連載小説】save the gene | 第38話 助けられた応援者達
―――特殊回です。今まで天馬が助けてきたクライアントが動画で応援してくれる回です。今回からエンディングまでBGMを貼りつけます。再生しながら読んでください―――
天馬とジーンは、巨大なダンジョンを延々と歩き続けた。メビウス・コアへと続く道は、奥へ進むほどに細くなり、まるで迷路のようだった。少し遠くには、厳重そうな扉が見えている。
「おそらくあの扉を開けば、麒麟さんがいるよ。急ごう!」
ジーンがそう言うが、天馬はもう一歩も動けなかった。これまでの激戦と、終わりが見えない旅路に、心も体も疲弊しきっていた。
「ジーンがいれば心強いかもしれないけど、やっぱ挫けそうだ……。もっと俺のこと見てくれる人がいればな……」
天馬が力なく呟くと、ジーンはニヤリと笑った。
「僕とだけでこんな地下深くの薄暗いダンジョンを闊歩し続けるのは心細いでしょ?だから天馬に応援メッセージを送ろうと思ったんだ。スマコンで会議ツールBOOMを開いてごらん?」
天馬は疲労困憊で、ジーンの言葉に耳を傾ける余裕すらなかった。体も酷使していたので、とにかく休息したいというのが最優先だった。天馬はジーンの言うことを聞こうとせず、その場にへたり込んだ。
だが、そんな天馬の意思とは関係なく、スマコン越しに動画が流れ始めた。
疲れ切って意識が朦朧とする天馬に、スマコンから懐かしい声が響いた。
「やあ、一戸君だっけ?俺のこと覚えてる?」
天馬は声の主を思い出せず、疲れた様子でかろうじて答えた。
「あなたは……?」
動画に映っていたのは、以前、肉まんにクレームをつけていた、あの初老の男だった。
「ほら?以前、肉まんにクレーム入れてたおじさんだよ!君の初仕事だったらしいね?」
男の言葉で、天馬の脳裏にコンビニでのバイトの記憶が蘇る。
「ああ……コンビニの……僕の初バイト……」
おじさんは優しい笑顔で語りかけた。
「あれから、流石に明らかにミスしたら怒るけど、多少のことは容認することにしてたよ。時代が時代だからね……外国人もいっぱい働いてるし……余計なトラブルは避けられるようになったよ?一戸君、ありがとう!」
そう言い、おじさんは画面越しに手を振った。
そのメッセージは、天馬の心に温かい光を灯した
「佐々木さん……お久しぶりです」
画面に映し出された次の人物に、天馬は少しだけ記憶を蘇らせた。一時期、競馬に熱中していたという佐々木だ。
「いやあ、復職して積立投資をしながら地道に働いているよ!少なくとも自己破産のリスクは回避できたよ!天馬君のおかげだよ!」
佐々木はそう言って、画面越しにピースサインを送った。彼の言葉は、天馬が過去に背中を押した人々の存在を思い出させてくれた。
次に映し出されたのは、あの頃と変わらない三人の少年だった。
「一戸先輩?アースです!他にムーンとビーナスもいます。お久しぶりです!」
天馬は彼らをはっきりと覚えていた。あの頃の苦悩が嘘のように、三人の顔には希望が満ち溢れていた。
「今何やってるの?」
天馬の問いに、ムーンが先に答える。
「施設ではお世話になってます!随分あの頃から立ち直りました!」
ビーナスもそれに続く。
「僕たち、高校生くらいの年になったら働こうかと思います!」
そして、アースが代表して、はっきりとした声で語りかけた。
「生活保護でもいいですけど、やっぱりちゃんと働いて立派になりたいんです。ここまで決心をつくことができたのは、先輩のおかげです!」
三人の少年は、屈託のない笑顔を見せていた。その姿は、天馬が過去に蒔いた小さな種が、未来で花を咲かせることを予感させていた。
次に映し出されたのは、千原小の教師、船木だった。
「船木です。以前はうちの児童がお世話になりました」
久喜と同じ学校に勤める、あの頃の天馬を知る人物だ。船木は、真剣な表情で語り始めた。
「久喜先生は変わったところもありますけど、ものすごく頭もよく、千原小にとって欠かせない存在なんです。ほら、一戸君を騙したこと、謝りなさい!」
その言葉に促され、以前千原小でお世話になった鹿島君、御手洗君、森君、そして五十嵐君の四人が動画に現れた。彼らは一斉に天馬に頭を下げた。
「僕たち、久喜先生と実は仲が良かったんです!ごめんなさい!」
少年たちの素直な謝罪に、天馬は優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫……だよ……」
船木は最後に、天馬の心に響く言葉を贈った。
「子供たちの成長を、見届けてあげてください……」
かつての児童たちの、未来へ向かう姿。それは天馬の心に、新たな力が湧き上がるのを感じさせた。
次に画面に映し出されたのは、原口と名乗る男性と、深谷と名乗る女性だった。
「はじめましてかな?原口です!」
「深谷です。以前は覚えていますか?」
二人の顔を見て、天馬は言葉を詰まらせた。
「ああ、あの……」
原口が優しい声で語りかける。
「私、元々風邪を引きやすくて、たくさんの風邪薬を常備していたの」
深谷は、少し恥ずかしそうに続けた。
「私、魔が差して風邪薬のOD(オーバードーズ)に手を出してしまって……。でも、今は断酒もして健康診断も悪くないわ……。あなたのおかげよ」
二人の言葉は、天馬が過去の出来事を乗り越えるために戦った記憶を蘇らせた。天馬は心からの感謝を込めて、静かに答えた。
「こちらこそ……ありがとう!」
彼らの温かい言葉は、疲労困憊だった天馬の心に、再び力が湧き上がるのを感じさせた。
第9話 未成年売春
次に画面に映し出されたのは、かつてパパ活で金を稼いでいた柊夢子だった。彼女は天馬に手を振り、明るい声で話しかける。
「柊よ!あの時はお世話になったわね!」
彼女の言葉に、天馬の心に温かい感情が湧き上がった。柊は天馬の状況を察したかのように、優しい眼差しで語りかける。
「あなた、何か世界を救うつもりみたいじゃない?かっこいいわね!」
そして、天馬の心を縛り付けていた鎖を解くかのように、柊は明るく付け加えた。
「まだ未成年なのに、あまり固いこと言わないの!」
彼女の言葉は、天馬が背負っていた重荷を少しだけ軽くしてくれた。
次に画面に映し出されたのは、かつてトー横でボランティア団体を率いていたゾフィだった。
「天馬君!鎬を削って頑張っていますね…AIによる弱者救済…期待しています」
ゾフィの言葉は、天馬の心にこれまで救ってきた人々の顔を鮮明に蘇らせた。天馬はへたり込んでいた体を震わせ、ゆっくりと立ち上がる。
「そうだ!俺は、今までたくさんの人々を救ってきたんだ!」
その声には、疲労困憊だった天馬からは想像もできないほどの力がこもっていた。
次に画面に映し出されたのは、かつてのブラック企業の社長と、従業員の飯島だった。
「よう……」
代表して飯島が語りかける。
「今拘置所だけど……刑期は予想より軽くなりそうだ……」
そう言った途端、ジーンは飯島たちの接続を切った。天馬は何も言えずにいたが、ジーンは静かに言葉を続けた。
「救われたとは言い難い人たちもいる。だけど、別にできるだけ擁護するから……」
天馬は過去を振り返り、複雑な表情で呟いた。
「ディザスターからは問題が複雑で、正直思い出したくないところもあるかもしれない」
ジーンは天馬の言葉を否定するように、優しく言った。
「一概にそうじゃない……。救われた人もいる……。思い出してごらん?」
その言葉は、天馬が歩んできた道が、決して無駄ではなかったことを示していた。
ジーンの言葉に、天馬はミッドナイトミュージアムの出来事を思い出した。彼らが覚醒剤に手を出していたこと。そして、その件をジーンが見過ごしたこと。
天馬は複雑な表情で言った。
「彼らの応援メッセージがあるのなら、聞きたくないな……」
ジーンは天馬の気持ちを察し、静かに語りかける。
「Rioが代表してメッセージがあるって。動画じゃないよ。悪人の言葉だけど、『僕たちのチョコのこと見過ごしてくれてありがとう』だって」
その言葉に、天馬は驚きを隠せなかった。
「これも、人助けだったのか?」
「下手にスキャンダルを起こすより、深く関わらないでよかったんだ」
天馬は静かに頷いた。ジーンの言葉は、完璧な正義だけが人助けではないことを天馬に教えてくれた。
刹那教の司祭からも、ジーンは伝言を受け取っていた。
「金儲けより人助けということを、一戸君は教えてくれた。感謝します」
その言葉は、天馬が意図せずとも、多くの人々に影響を与えてきたことを示していた。しかし、天馬はどこか気乗りしない様子で、小さく呟いた。
「どっちでもいいけど……」
天馬は、まだ自分の行動がもたらした影響の大きさを、完全には理解できていないようだった。
そして、ジーンが口を開いた。
「応援メッセージもこれが最後だ……。ほら、藤間乱丸だよ!」
天馬は驚いて叫んだ。
「藤間!?」

画面に映し出されたのは、車椅子に座り、明後日の方向を向いている藤間乱丸だった。彼は弱々しい声で語りかける。
「天馬……君か……?」
天馬は激高し、藤間に向かって怒鳴った。
「まだ生きていたのか!?永遠と苦しめ、このクズ!」
藤間は天馬の言葉を静かに受け止めた。
「桜木さんに……よろしくいってくれるか……。私は死んでも……償いきれないほどの罪を犯してきた……」
「当然だろ?お前なんか地獄に落ちても許さない!」
「地獄に……一度堕ちたら……二度と動物に生まれてこなくなる……らしいんだ……。獄卒になり……永遠に地獄を彷徨う……」
「何が言いたい!?」
藤間は、精一杯の言葉で謝罪を伝えた。
「宇宙の終わりまで……苦しむ……。だからそれで、納得してくれ……」
そう言い終えると、藤間の接続は切れた。
天馬は静かに呟いた。
「……あいつも……たまたま極悪人に……生まれてきただけなのかもな……」
ジーンは天馬に問いかける。
「これで応援メッセージは終わりだよ……。一応、藤間は反省はしてるみたい……。一生許さない?それとも忘れることができる?」
天馬は迷うことなく答えた。
「葉子次第だ」
画面に映し出されたのは、山崎國男と甘利康之、そして甘利結城の三人だった。
國男がいつもの調子で明るく言った。「よ!伝説の勇者!頑張れ!」
康之は静かに頷き、「応援してる」と続けた。
結城は優しい眼差しで、「頑張れ!若造!」と天馬を励ました。
彼らの接続が切れると、最後に葉子が画面に現れた。その表情は、いつになく真剣だった。
「藤間とコンタクトを取ったそうね?」
「宇宙の終わりまで地獄で苦しむから許してほしいとさ」と、天馬は藤間の言葉をそのまま伝えた。
すると、葉子は重く、悲しげな声で言った。「藤間がどんな下層の地獄に落ちようが、あいつがどんなに苦しみぬこうが……私は実の両親の顔を覚えてないの……」
天馬は言葉を失い、ただ葉子の言葉に耳を傾けるしかなかった。
しかし、葉子は突然、優しい笑顔を浮かべて語り始めた。
「もう私の家族は、香澄お母さん……麒麟お父さん……そして、将来結婚して幸せな家庭を築くかもしれない、いいなづけの天馬しかいないの」
天馬はその発言にものすごく驚き、思わず叫んだ。「へ!?今葉子なんて!?」
葉子は天馬の言葉を無視し、にっこり笑ってメッセージを送った。
「無事にお父さんを取り戻してね!天馬!」
そして、葉子の接続も切れた。
天馬は顔を赤らめながらも、決意を固めた。
「さあ、ジーン、あの扉の向こうに行こう!父さんはなぜメビウス・コアのメンテをしているのか?そしてメビウス・コアとは何なのか!?全ての謎を解きに行こう!」
ジーンは天馬の決意に満ちた瞳を見て、静かに答えた。「合点承知」
二人は最後の扉に手をかけ、その扉を開いた。
To be continued in the final episode…
