エルダーの庭 ~ローズマリー一家~ § プロローグ
<あらすじ>
杏樹は東京から引っ越してきた長野で、新たに高校生活をスタートさせていた。
順風満帆に見えた高校生活。
だがある日、同級生の一人によって衝撃の事実が明かされる。
あまりのショックに学校から逃げ出した杏樹は、偶然に人里離れた場所にあるハーブカフェ・エルダーの庭にたどり着く。
自分は誰にも必要とされない存在なのか?
傷つき、自分の価値を見失いかけた杏樹に、カフェの店主結と、ハーブガーデンのガーデナー拓人、そしてハーブたちが寄り添い、癒やしていく。
杏樹が導き出す答えとは。
§ プロローグ
「あんたなんて、誰にも必要とされなかった子なのよ」
思い出したくもない言葉が、頭の中をぐるぐると回っていた。
実際に目の前の景色もグラグラと揺れていた。
わたし…どうしてこんなところを歩いているんだろう…
杏樹は額に浮かぶ汗を手で拭いながら、辺りを見渡した。
急な坂道の先には、鬱蒼としげる木々に覆われた山がせまっていた。
道の両脇も、大自然の力に人間が負けたように、雑草やツタで覆われた緑の荒れ地が広がっている。
確かに朝は、いつもと変わらずに学校へ行く用意をして家を出たのだ。
笑顔でお弁当を手渡してくれる母に、「いってきます」とやはり笑顔を返した。
でも、心の中にあったのは、溢れそうになる思いだった。
必死にふたをして、苦しくない振りをする。
「あんたは、いらない子ってこと」
再びわき上がってくる心に突き刺さった言葉に、息すら苦しくなる。
立ち止まって大きく息をついた。
その瞬間、ぐらりと地面が揺れるような感覚に、思わず頭を手で覆った。
どうしよう…こんなところで。
学校に行かずに、逃げ出したわたしがいけないんだ。
暴走する思考は、杏樹を暗い闇へと引きずり込む。
わたしの選択はいつも間違っている。
きっと生まれてきたことすら…
不意に足から力が抜け、見ていた景色が反転した。
その杏樹の耳に、誰かの声が聞こえた気がした。
