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#501[短編]琥珀色の間[9]──手の中で跳ねる鼓動・III

アロマオイルをまとわせる音──手の中でゆっくりと温められたオイルの跳ねる音が、鼓動を緩やかに大きくしていくのを感じていた──。第10回。


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※ 連載ですが、どのお話からも読めます。


前回── 爽子はミシマの施術を受けながら、大翔の “空気を読む癖” に気づき始める。澪の店の空間が彼の優しさの形だと知る。ミシマは帰れなかった理由に静かに触れていく──。

梯子の近くにあるスイッチで、ミシマは天井扇シーリングファンをつけた。
天井の黒い羽根が、音を立てずにゆっくりと回転し始める。

「ふぅっ……」

ロフトに上がったミシマは、長く、細い深呼吸をした。静まり返った場所に、自分の心音だけが妙に大きく響いている。

手慣れたはずの準備なのに、てのひらの汗が気になって、何度もズボンの脇で手を拭った。

広げた指先を見つめると、施術者セラピストとしての冷静さと、後輩を相手にする気恥ずかしさがぶつかり、わずかに指が震える。

本業が忙しく、出張で施術をすることも少なかった最近は、技術が身につかないことに、多少の焦りを感じていた。

独身で単身、そもそも男の自分に、背中を貸す女性などいるはずもない──そんな現実を急に塗り替えた。

テレビをつけると、夕方のニュースが終わる頃だった。

彼女も、これなら音を気にしなくて済むだろう──。

階下にいる彼女への配慮というよりは、自分を包む沈黙を、何かの音で塗りつぶしたかった。

ミシマは書棚のアロマランプとライターを、小さなローテーブルに置いた。金色の冠のような蓋と、消炎用キャップを外すと、乾いた金属音が響いた。

ストーンにライターで火を灯す──。

一瞬、背の高い炎が一気に立ち上り、ゆらゆらと大きく揺れた。炎はじっくりとストーンを温めていく。

──そのまま眺めながら、昔の自分を思い返していた。爽子の話は、昔の自分の痛点を突くようで、まだ柔らかい痛みが走るか、大丈夫そうだと、心で拳をにぎった──。

ミシマが勢いよく、ストーンから立ち上る炎を吹き消すと、細く白い煙がゆっくりと上っていく。

アロマランプをローテーブルに残し、テレビを消した。

ミシマは、着ていた長袖のカットソーを、半袖のTシャツに着替え、細く息を吐き出した。

鏡があるつもりで、意味もなく両手でガッツポーズを作って気合を入れる。無意識にそうしていたことを、自分でも気づいていなかった。

暖房の温度を、少しだけ上げた。

頭上から、カチッという小さなスイッチの音がして、天井からほんのりと温かい空気が漂い、微かな風の音が聞こえはじめた。

爽子が横を向くと、窓辺の観葉植物が目に入った。ビニールをかけた姿が、守るべきものの象徴に見えた。窓との境のつい立ては、光を通しても冷気は遮る心遣いのようだった。

この部屋には飾りも演出も無いけれど、
安心して横になれる理由が、いくつも散りばめられていた。

天井からふわりと温かい風が降りてくる。
同時に、深い神秘的な香りと、ふしぎな音楽が響き始めた──。

シンプルな電子楽器の、深い和音が広がるアンビエントな音色ねいろに、心が鎮まるのを感じて、涙腺が緩みそうになっていた。

地の底に響く2音と、複雑でゆらぎのある中音が重なる曲。

低い和音に心が動いた瞬間、
ふと、大翔の影が遠くで重なった気がした。

心のつながりや、愛しいものを待ちわびるような「ため息」が連続するような旋律。

揺らぎ続ける和音が身体の奥の渇きや、誰にも言えない本音をそっとなぞる。ため息の連続のようなこの曲を、身体全体で聴いていた。

姿は見えなくても、先輩が自分のために、この空間を琥珀色の優しさで満たそうとしていると思うと、自分の鼓動が、部屋に流れる低い和音に重なっていくのを感じて、深い安堵に包まれていった──。


「爽子ちゃん、降りるよ」
天井から遠慮がちな声が落ちてきた。

遠く、高いところから降ってきたその声に、爽子は小さく背筋を伸ばして応える。

「はーい」
うつ伏せのまま顎を少し上にあげて、爽子が応えた。

梯子を降りてくるミシマの足音とともに、ほのかに甘い香りがふわりと降りてきた。

──ここから、本音と指先が混じり合う時間が始まる。


<了, 約 1,700 字>


次のお話しは準備OKです✨
明日この続きを出すかどうか。
ちょっぴり迷っています😶💦

TVドラマのキャスティングを考えて遊んでいました☺️

もう少し小説っぽい表現を入れたい気持ちと、
書き終えたい葛藤と🛋️

今夜のエピソードはここまでです🍀
お読みいただいてありがとうございます🥲

▶︎おまけ 今週のコングラ記事はこちらです。

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久藤 あかり | はじめまして! スキ、コメントが1番うれしいです。私の記事を元にあなたの記事を書いてもらうのも大歓迎!心が動く言葉はありましたか?ご感想お待ちしています😊