12.予想論 AIが進歩することで、プレイヤーによって全く違う音楽が作られるようになる、という神話
この記事は「インタラクティブミュージックについての12の神話」連載の、12個目になります。単体でも問題なく読めます。インタラクティブミュージックを略して「IM」とすることがあります。
いよいよ最後の神話に来ましたが、自分でこのテーマ設定しておきながら、気が重い……でも書かなきゃいけない……と悩みながら書いていたら1ヶ月近くかかってしまいました。お待たせしました。
なぜ書かなければならないのか
神話連載のコンセプトそのものに立ち返って説明すると、やはり「神話的な期待を寄せられている」から、「そんなものは現実ではない」と否定しておきたいんですね。それを12回通してやってきた。
ただ、これまでの神話がほとんど「皆、インタラクティブミュージックってものに期待しすぎだよ」という神話の否定、だったのが、今回ばかりは、IMっていうより「AIっていうものに期待しすぎ」という、自分の専門外のところが主要因なので書きづらさはあります。私はAIも作曲も専門ではないので、浅はかな推論を並べ立てる可能性がある。
そんな専門外の私でも、ゲーム音楽の未来について語ると、この手の話題から逃れられるわけもなく、「どうなると思いますか?」と聞かれたり、または、私の話を聞いた誰かが以下のような雑多な感想を述べたりする。
「ゲームってこんなに音楽が変化してたんですね!今はAIもあるんで、その場でAIがどんどん新しい曲を作って、もっとすごい事になりそうですね!」「そうですね~ワクワクします~」
あーーーーー……………………
この雑語りを、生まれる前に消し去りてぇーーーーーー………………
(と思っても、そういう人はわざわざこんな記事を読みに来ないので関係ないんだけど、でも何かあった時に「自分の考えはここにあります」とパッと出せるもの、として書いておきたい)
まず倫理と技術の仮定
生成AIの話をするにあたって、現状はまだ多くの仮定を置いておく必要があります。以降の文書もすべてその「仮定としてこの条件が成り立ったら」という話でしかなく、これは、私がこの仮定が成り立つことを望んでいるかどうかとは関係なく、本当にあくまで「仮定」の話です。仮定的な議論ができない方はその点が理解しにくいかもしれませんが、ご了承ください。
まず倫理面において。以降の議論においては、生成AIの倫理的な課題が「仮に解決されたとしたら」という仮定を置きます。
現状認識としては、私はこの倫理課題が解消されていないと考えています。ただ、その件(倫理課題)に関して書き始めた所、話が長くなりすぎて完全な蛇足になったので、別記事にしました。最初にかなりデカい魔除けを置いてますが、私の考えに興味があるという奇特な方は、あとで読んでみると良いかもしれません。
本記事を読み進めるのに↑を読む必要は、とくにありません。
倫理とは法律に先立つものであって、まだ法的な結論が存在しないことをもって許容されたと考えることにはリスクがある、と思います。一方で、リスクあることをしているからといって、その人を罰したりするいかなる理由もまだ存在していない、というのも同時に言えるでしょう。
もう一つの仮定として、技術面において。楽曲生成のAIは、本当に使い物になるでしょうか?ちょうど最近、Sunoなどの有名な楽曲生成AIがアップデートされ、これを機に少しだけ試してみました(私が試したものはどこにもアップしてません)。
Tuneeに「誰もが涙する、切なくなるようなラブソングを女性ボーカルで書いて」でできた曲 pic.twitter.com/xDv9DbN1L7
— Koya Matsuo (@mazzo) September 25, 2025
こちらも現状認識としては、「素人が聞くと別にこれでいいじゃんと思えるくらいのクオリティは出ている」「プロが聴くと、細かい違和感が無限に出てくる」といった代物で、商用で役に立つクオリティになるのはもう少し先という印象を受けました。
ひとまず論を進めるため、生成AIによる楽曲生成が「仮にプロが商用で使っても遜色ないほどのクオリティと自由度を持つようになったら」という仮定を置きます。
繰り返しますが、これはあくまで仮定で、それが現実になるかどうかとは無関係です。仮定の話とは言いながら自分のスタンスも多少示しました。1,倫理面で課題が解決されていない。2,技術面でも課題が多い。
AI自体は本当に歴史を変える革命的な技術、破壊的なイノベーションだと思っています。困っている人がAIがあって助かった、という事例は今後いくらでも増えていくでしょう。だからこそ、倫理面の課題が放置され続けるのは良くないし、それを全て感情論だとか既存の法律だけで対処可能と思い込むのも良くないだろうと考えています。
2種類の用途を想定する
AIの活用というのは、方向性として2種類あると思っています。
1,大量に作る
プロが作ったとしても莫大な時間とコストがかかる事を、高速な演算によって実現する場合。
2,肩代わりをする
音楽を作れないアマチュアの人が自作品に専用の音楽を生成するとか、あるいは、商用であっても自分で生成のイテレーションを回したいとか、作曲の仕事を効率化したい、という場合。
1,大量に作る用途を考える
音楽においては、絵と少し事情が異なってくるように思われます。それは、そもそも「機械でしか作れないほどの大量の音楽」が求められる状況はそう多くない、という事です。
絵はアニメーションという技術が非常にコストが高く、技術が進化しているとはいえ、人間が短期間に描ける枚数やクオリティにはどう考えても機械に太刀打ちできない限界のラインがあります。
(念を押しますが、だから倫理的に正当化できるという意味ではありません。少なくとも「AIを使わないと事実上不可能な表現への需要は存在しうる」という事です)
一方で、音楽は元から時間芸術です。3分のアニメーションを作るのに1人のアニメーターだと何ヶ月かかるのか私には想像がつきませんが……3分の曲を作るのは、1人の作曲家で十分です(レコーディングとか色んな事情を脇において)。
そうすると、音楽を今までになく大量に生み出したい、という需要がそもそもどこに存在するのか?という話になります。この用途で最もキャッチーなのが「パーソナライズ」です。100万人にそれぞれ違った「その人だけの音楽」を人力で作ることはできないから、機械にやらせよう。
誰が為のパーソナライズ
「自分だけの◯◯」というと聞こえは良いです。私自身、「パズルゲームを遊ぶだけで、オリジナルの音楽が生成される!」みたいなゲームを作ってますしね。
【新作公開】「Same Game, Different Music」を公開しました。「さめがめ」という古典的なパズルゲームの音楽的再解釈を行ったもので、ブロックを消す順番とスコアに応じて毎回違った音楽が生成・展開されていきます。https://t.co/Kj1nzlhcGq pic.twitter.com/s1NtA79Z6V
— じーくどらむす/岩本翔 (@geekdrums) December 11, 2022
ただし、もし仮に↑のゲームが「AIによってあなただけの音楽が生成されます!」という建付けだったら、全く面白みの無いものになるだろう、と私は断言できます。なぜか?そこには「意味」がないからです。
意味、とは何でしょうか。
これは私なりの言い換えですが、意味とは「情報の繋がり」の事です。
「あなたの消したブロックによって」→「ブロックの位置や個数が音程やリズムに変換され」→「音楽を構成していく」
「あなたが高得点を得たから」→「その緊張と解放を表すようにコード進行が変化し」→「音楽の全体的な緩急を生み出す」
これがこの作品「Same Game, Different Music」の意味です。
この「音楽の意味」を伝えようと数々の工夫をしているものの、それが必ずしも全てのプレイヤーに、特に初見の状態で伝わるとは限らないため、私も完全に実現できているわけではありません。より詳しい仕組みは以下で解説しています。
ゲームプレイを音楽として再解釈する|じーくどらむす
もしこのアルゴリズム部分が「AI」だった場合を考えると、この「情報の繋がり」が消える、あるいは、少なくともブラックボックス化することによって非常に薄くなってしまいます。
そのAIは、あなたの何の行動・情報・特徴を入力として、音楽を出力しているのか?わからないままに新しい音楽が生み出されているが、これは一体、何を表しているのか?
そういったものが抜け落ちると、9.演出論の神話で解説したような音楽の「身体化」が阻害され、自分とは直接関係のない音、になってしまいます。
そうした「意味のないパーソナライズの罠」に陥ってしまい、売り文句だけ凄そうなのに微妙な体験になったタイトルをいくつか知っています(ここで挙げませんが)。なので、売り文句に惑わされずに、その技術で、音楽で何を表そうとしているのか?という本質を見失わないようにしたいです。
意味を感じさせないためのバリエーション
そもそも「意味を感じさせないようにする」つまり「音楽に気づかれないようにする」が目的なら、間違ってないと思います。8.影響論:インタラクティブミュージックは印象に残らない、という神話で解説したような、「繰り返しは悪」「楽曲を覚えられると飽きる」という価値観もあるわけです。
例えば、街のラジオから流れてくる音楽など、その場所を通り過ぎる瞬間しか聞かれない、けど毎回同じだと違和感がある、というものは、毎回色んなものを生成してもらえると、「その世界には色んな音楽がある」という表現に一役買うかもしれません。
無限のコンテンツを提供する
物語や世界そのものをプロシージャルに生成し、音楽以外も含めて無数のコンテンツを生み出すことが目的であれば、それに対応した音楽を無限に生み出すことにもまた意味が生まれます。
具体的に言うとNo Man's Skyみたいなゲーム、ということになりますが。
この作品は↑の動画で解説されている通り、65 days of staticという実験的ポストロック・バンドが作成した大量の(2500以上)楽曲パーツからプロシージャルにその場その時だけのサウンドトラックを生成する、ということが行われています。
これも既にAIを使わずルールベースの生成でなんとかなっているんですが、それでも1つのバンドが作った素材に縛られているというのも確かです。例えば、ここで用意した2500のパーツをAIによって様々な音楽スタイルに変換することで、さまざまなバンドやオーケストラが同じプロシージャル生成ロジックにしたがってその異星文明特有のサウンドトラックを生成し続ける、といったチャレンジは面白そうです。
共有体験の欠如
無数の音楽を生成することは人間にはできないことなので、楽しみな面もあります。しかし、それがコンテンツとして世界を席巻するだろうか、というとまだ疑問が残ります。
おそらく誰もが考えるように、体験を個別化していった先には、それを他の誰かと共有できないというジレンマが待っています。あそこの音楽が素晴らしかった、という人が何百万人もいればその作品のオーケストラコンサートも大盛況になるわけですが、そうした体験を共有する機会が失われてしまい、結果的にコンテンツが盛り上がらない、という懸念があります。
今年のモントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン2025 12.7(日)では、なんとペルソナ5 スペシャル・ビッグバンドとHerbie HancockとNate Smithが同時に見れるぞ!私はもうチケット取れたので興味ある人は是非。

私見ですが、音楽には体験を共有するという役割が強く求められていると思います。それは、10.音楽論で語ったような空気を支配する性質などと無関係ではないでしょう。既存のゲームでも、物語やキャラクターは選択できて人それぞれの体験が楽しめるうえで、音楽は一つのものであるからこそ皆で盛り上がれる、という事は往々にしてあると思います。
以上の理由から、音楽を大量に作る方向性でのAI活用は、無きにしもあらずだが、それが支配的になるとは思えない、というのが私の所感です。
ここまでは、「どうせ人間にはできないこと」の領域でしたが、次は「人間にできていた事をAIが代替する」という話に移ります。
2,肩代わりする用途を考える
念の為、ここでは倫理的な課題が「仮に解決されたとしたら」という仮定を置いているので、そこが気になる方は冒頭でリンクした別記事を読んでもらうとして、話を進めます。
フリーBGMの代わりになる
まずは、音楽に予算をかける事ができなかった分野での活用が予想されます。フリーのBGMサイトから素材を見繕っていたフリーゲームなどは、AIを活用することでより作者の理想に近い音源を生成したり、あるいは既存のフリーBGMから改変して利用したり、といった事が可能になるでしょう。
インタラクティブミュージックの分野では、フリーのBGMはそもそもそうした素材の分割に対応していない事がほとんどなので、IM用の素材サイトが出来るよりはもう、AIによって「この音楽のアレンジを作って」とか「この音楽の盛り上がった部分とアウトロを作って」とお願いすることで、IM用の部品を追加生成して用いるという事が考えられます。
もちろん、そうした場合にもリファレンスとした音源のクレジットをちゃんと入れるとか、そうした改変を許すかどうかのライセンスを整備する、という事も必要になります。
さて、ここはまだ商業以前の話ですが、次に考えるのは
プロの作るBGMの代わりになる?
かどうか、です。
まずは、
プロトタイプの作成、ラフの作成
という段階での活用が考えられます。今まではディレクターが既存曲からイメージに近いものを探したりしていましたが、自分でプロンプトを弄ってより近いものを高速に探索する、といった感じです。
一見してコスト削減に役立ちそうですが、作曲者がそれをどう思うかも考慮しなければ逆に信頼関係の溝を生むかもしれません(音で直接指示されるよりは、言葉などから想像を膨らませる方が作曲家の自由度は高まります)。お互いの信頼関係のもとで使えると良いですね。
次に私が期待しているのは、
トランジションの作成
です。トランジションというのは、曲のAセクションからBセクションに遷移する際に、そのままだと上手く繋がらない場合に用意する専用の波形を言います(ブリッジと呼んでも良い)。
横の遷移において反応性を優先すると音楽性が犠牲になる問題が出てくるのはそもそも、重い音楽を動かそうとするとトランジションが大量に必要になるから、軽い音楽にして簡単に遷移できるようにしよう、というジレンマが根源にあります。であれば、人間が全部(例えば100小節あれば全ての小節から全てのセクションに移動できるような[100x遷移先ごと]のパターン)を作るのは無理でも、そこをAIに作らせよう、という考えです。
以下の例はもちろん人力ですが、今のところこうした事例は非常にコストがかかるので、クリエイターがプライドをかけて努力している感じです。
HPの3分の1を削ると間奏曲へ移行していき、半分を切ると異空間の展開とともに曲も後半に切り替わっていく仕組みである。
ちなみにこの間奏曲、なんとどのタイミングでHP条件を満たしたかによって移行時の繋ぎのパターンが違う。
ここのAI活用には期待するとともに、そこまでトランジションにこだわりたい作曲家が、果たしてAI生成のトランジションに満足するのだろうか?(結局自分で全部手直ししたいと思うか、あるいは、多少の音楽的な不整合は気にしないとするか、どちらかじゃないのか?)という疑念は残ります。
最後に考えるのが、
予算を削減するためにAI生成楽曲を利用する
という場合です。全てを作曲家に依頼するとコストが高いと考えてディレクターが勝手にやる事もあるかもしれません。作曲家自身が量産を効率化するために自ら活用する事も考えられます。AI出力の1曲そのまま、という事はなくても、パーツとして使う方法は既に実験している方もいますし、意外にも早く現実化するかもしれません。
ただ、「AIを使えば1曲なんて一瞬で出来ます」などと圧力に使われたり、提出した曲をもとにAIで残りを勝手に作られてしまったり、望んでいない活用をされるとトラブルが起こることもありそうです。これを「その程度のものは淘汰されるのが道理」と考える人と、「それによって粗雑な音楽が量産され、新たな音楽を生み出す活力が失われる」と考える人の間には、マリアナ海溝より深い溝が横たわっています。
以上が、生成AIによる作曲の応用先として私が予想する未来でした。
現実はこれを軽々と超えるかもしれません。突然どこかの大作がメインテーマから全部AI生成です、とか言って炎上するとか、あるいは作曲家が今後すべてのレコーディングは人間ではなくAIにやらせる、と言って炎上するとか、まぁ考えたところで仕方ないですが、極端な意見は置いておくとしても、技術とアートのちょうど間にいる(技術で音楽を繋ぐ役割を担ってきた)私のような人間からすると、その溝はできるだけ深まらないで欲しい、と願っています。
これが最後、かと思いきや、13番目の神話へ
前の神話へ
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