“Hello”から始まった恋—スポーツクラブで出会った彼が、止まっていた時間を動かした—第7章
※この物語はフィクションです。
登場人物・団体等は実在のものとは関係ありません。
あらすじ
夫と別居中の40歳の香織は、スポーツクラブで働きながら毎日を淡々と過ごしていた。そんなある日、カナダ人のジョンと出会う。彼の明るい笑顔に惹かれ、そして香織は英語を学び始める。
言葉や文化の違いに戸惑いながらも、少しずつ距離を縮めていく二人。ジョンのまっすぐな優しさは、自信を失っていた香織の心を少しずつ癒やし、止まっていた時間を動かしていく。
しかし、大人だからこその現実や、それぞれが抱える事情は、二人の恋を思いがけない方向へ導いていく――。
恋を通して「自分らしく生きること」の意味を見つけていく、一人の女性の再生を描いた、大人の恋愛小説。
第7章 知らなかった真実
あの日、ジョンは女としての喜びを思い出させてくれた。
自分でも泣いてしまうとは思わなかった。
妊娠線はずっとコンプレックスだった。
でも子どもを産んだことの証でもあるから、誇りでもある。
――でも、
自分の体を見た時に、それがなければもっと自分に自信が持てる気がしていた。
ジョンはそんな私の気にしているところを見ても、美しいと言ってくれた。
―うそだとしてもうれしかった。
そして、宝物に触れるように大事にしてくれた。
あんな風に触れられると、自分は大切にされてもいい存在なんだと思えた。
やるべきことをただこなしているだけの空虚な日々に、
柔らかな春風がふわりと舞い込んだようだった。
ジョン、ありがとう。
たとえ未来がない二人だとしても、ジョンがくれた優しさを私はずっと忘れない。
このままこんな穏やかな関係が続くと思っていた。
――それは突然の連絡だった。
スマホに見知らぬ番号から電話が来た。
「もしもし・・・」
「こちらは町田警察署です。」
え?警察?
何か私、やったっけ?
「あの・・・どのようなご用件でしょうか?」
「ジョン・アンダーソンさんという方をご存じですか?当署に収容されておりまして・・・」
「え、収容されているんですか?」
「はい。」
「ジョン・アンダーソンさんがあなたに連絡してくださいとのことでした。」
「私に?」
「はい。」
なぜ私に?他に誰もいなかったんだろうか・・・
レオは?
日本人でないといけなかったのかな?
会社にも頼めないだろうし・・・
とりあえず、急いで警察に向かった。
面会の場所に行くと、何かの用紙に名前などを書いて、拇印まで押した。
透明なアクリル板ごしにジョンがいた。
しょんぼりしたジョンに向かって思わず言った。
「What happened?」
「Sorry・・・」
ジョンの話によると、泥酔した状態でタクシーに乗り、料金を払ったはずなのに足りないと言われたらしい。そのまま立ち去ろうとして警察沙汰になったとのことだった。
うそでしょ?
この状況をまだ信じられずにうろたえていると、ジョンが紙をアクリル板にペタッとつけた。
その紙には留置場で必要な物リストが書かれていて、それを持ってきてほしいと頼まれた。
その後すぐに近くのコンビニで急いで買って届けた。
動揺が隠し切れなかったが、私にできることはしてあげたかった。
ジョンはお酒を飲みすぎるところがある。
飲み会も多いし、ふらふらになるまで飲んでしまうらしい。
ジョンのことが心配でレオに連絡を取った。
レオは私のことを心配し、ジョンが結構遊んでいると忠告してくれた。
遊んでいるってどういう意味?
警察に捕まった夜も同僚の女性と飲み歩いていたし、他にも会っている日本人女性もいるらしい。
僕が言ったことは内緒だよと念を押された。
レオは私のためを思って言ってくれたと思う。
別の女性と会っているって、どういうことだろう。
私のように深い付き合いなのだろうか・・・
ジョンは私との関係もそんなに深く思っていないのかも・・・
一人であれこれ考えを巡らせ、これからどうしたらいいか分からなかった。
留置場にいるジョンが心配なはずなのに、頭から離れないのは別の女性のことだった。
――数日後、ジョンは不起訴処分となり釈放された。
とりあえず会うことになり、カフェで待ち合わせをした。
憔悴しきったジョンがかわいそうで、何から話していいか分からなかった。
「Are you alright?」
「I’m alright. Thanks for the other day.」
「No problem.」
ジョンの口癖を使っても笑顔はなかった。
ジョンに事情を聞くと、タクシー運転手とは和解が成立し、被害届も取り下げられたらしい。本人も深く反省していたことから、検察は不起訴処分を決定したという。
不起訴になってよかったけど、仕事は大丈夫かな・・・・
ジョンはとても反省していたが、英会話教室の講師として続けられるか会社の判断を待っている状態らしい。
あんなに頑張っていたのに・・・。
目の前のジョンはこれ以上肩を落とせないほどがっくりしていた。
でもまだ確かめたいことはあった。
他の日本人女性と会っているとレオから聞いた件だ。
こんな時に問い詰めたくなかった。
――でも、
確認だけはしておかないと、ここ数日のモヤモヤが晴れない。
私はジョンにとってどんな存在なのだろう・・・
数ある女友達の一人なのか・・・
――やっぱり確かめよう。
「Can I just ask one thing?」
「Sure.」
勇気をだして聞いてみた。
「Do you have a girlfriend?」
「・・・」
ジョンは黙ってうつむいた。
なんでうつむくの?
やっぱりレオの言う通り、他の女性がいるの?
「You are very special to me.」
やっと絞り出した答えのようだった。
でも質問の答えにはなっていない。
だからもう一度聞いてみた。ちゃんと目を見て。
「Do you have a girlfriend?」
ジョンは逃れられない空気を悟ったように仕方なく答えた。
「I slept with her.」
―その言葉を聞いて周囲の声も物音も、すべて遠くへ消えていった。
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第8章へ続く。
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