【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#12】
リンの住む世界
【あらすじ】
かつて、魔王ザナグルを打倒した魔族の剣士レオルは、人間の少女ミレニムが率いるパーティーに加わり、
陽気な格闘家ジュラ、冷静な獣人斥候ハクロ、健気な元エルフ族の少女エルフィと共に、
"冒険者"として穏やかな日々を送っていた。
だが世界は静かに蠢き始めていた――
ソール森林王国では滅びた魔導文明の残響が目覚め、
氷の魔獣たちが押し寄せ、使命に縛られたホムンクルスの少女グレイシャと出会う。
命を賭して彼女を救ったレオルたちは、グレイシャを家族として迎え入れる。
しかし、平穏は束の間だった。
倉庫街に現れた海魔「深淵の姫」シンエン。
暗殺者カリナとノワールによる襲撃。
そして、神造兵器――天使人形ルミエルの介入。
レオルは「誰も見捨てない」という信念のもと、
敵すらも救おうとし、半魔族エレクチュアの心をも救い、ルミエルにも手を差し伸べる。
だがその優しさは、新たな異変の呼び水となった。
異界から来た魔族ザイン。
圧倒的な力でエレクチュアを従え、世界を侵食しようと目論む彼に、
レオルたちは否応なく巻き込まれてゆく。
さらに国からの追われる立場となったレオルたちは、
仲間と信頼を胸に、逃亡と潜伏を開始する――
すべては、仲間と守るべき未来のために。
【登場人物紹介】
【ミレニムのパーティーメンバー】
レオル(Leol)
魔族の剣士。冷静かつ仲間思い。魔剣・スキル奪取の能力を操る。誰も見捨てない強さと優しさを持つ。ミレニム(Millenim)
人間の魔女。真面目なリーダー。レオルに恋心を抱き、支え続けている。ジュラ(Jura)
陽気な格闘家の少女。明るく豪快だが、誰よりも仲間思い。ハクロ(Hakuro)
獣人の斥候。冷静沈着、警戒と支援の要。料理やサポートにも長ける。エルフィ(Elfi)
元エルフ族の少女。魔力は失ったが、誰よりも純粋な心で支える。レオルに淡い想いを寄せる。グレイシャ(Gresia)
ホムンクルスだった少女。使命から解放され、レオルを「パパ」と慕う養子となった。
【協力者・関係者】
カリウス(Carius)
「赤き砂」リーダー。知将。誠実な人格でレオル達と協力関係に。ミィナ(Miina)
「赤き砂」の情報通。ミレニムの旧友。エイラン(Eiran)
「赤き砂」の武闘派。最初は警戒するが、後にレオルを信頼する。カレン(Karen)
ギルド事務員。レオルたちの支援者。リゼル(Lizel)
謎めいた少女。高い直感と秘められた実力を持つ。リン(Lin)
レオルにかつて助けられた少女。今回、密かに手助けに現れる。
【敵・対立勢力】
カリナ(Karina)
電撃魔法を使う暗殺者。レオルに敗れる。ノワール(Noir)
高度な暗殺技能を持つ少女。ジュラと因縁を持つ。オルト商会
裏で魔族や妖魔の売買を行う組織。ヴァルトラム伯爵
貴族。今回、裏でレオル達を陥れようと動く。
【異種族・その他】
シンエン(Shinen)
海魔「深淵の姫」。家族を守るため、人間に立ち向かった。シロガネ(Shirogane)
シンエンの妹。優しく純粋な海竜族の少女。エレクチュア(Erekutua)
半魔族の少女。ザインに仕える身だったが、レオルへの想いから裏切る。ルミエル(Lumiel)
天使人形。使命に縛られながらも、レオル達に情を見せ始める。ザイン(Zain)
異界から来た魔族。圧倒的な力と異常性を持つ。世界への侵略を目論む。ゾラ(Zora)
レオルの影に潜む魔族。彼に忠誠を誓う「影の守護者」。?(懐中時計の少女)
レオルを時を止めて救った存在。正体は不明だが、レオルを「応援している」と告げる。
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リンの住む世界
「レオル、遅かったね……そっちが、パーティーのお仲間さん?」
薄い赤色の髪の少女が、レオルに話しかける。
ミレニム達は、知らない少女がレオルと親しげなことに少しだけ驚いている。
「リン、何日か世話になる……こっちから、ミレニム、エルフィ、ハクロ、グレイシャに、ジュラだ……みんな、こっちはリンだ。隠れ家を世話してくれる」
「……よ、よろしく、リンさん?パーティーリーダーのミレニムです……」
「レオル、どこでこんな子と知り合ったの?」
ミレニムがリンに対して、頭を下げた後、レオルの元に滑るように近づいて軽く睨む。
レオルが、知らない処でいろいろ準備していたことを、こうも連続で見せられては、驚くしかないというものだ。
「依頼で、まあ、いろいろと縁ができてな……万が一の時の保険だよ」
「……保険て、また……そんなカッコつけて……私と会うの楽しみにしてたくせに」
「……この服、君がくれたペンダントに合うでしょ?今日は、君の仲間が来るって聞いてたから、初めて袖を通したんだよ?……似合うかな?」

そう言って、くるりと回る。
「ああ、似合う、似合う……俺がやった服、ようやく着たんだな……」
レオルが、少し見てから、やや投げ遣り気味に褒める。
「……うわ、すごい適当……ホント女心がわかんないヤツ……まあ、レオルだしね」
「とりあえず、こっちに来て……例のヤツやるから」
リンが扉もない廃屋に、手招きして入っていく。
「ジュ、ジュラさん……レオルさん、もうヨソに女の人つくってますよ……」

「……私、もう用済みなんですか?遊ばれる前から、ポイなんですか?泥棒猫さんですか?」
エルフィが、少し涙目でジュラに捕まってくる。
「エルフィ、痛いって……レオルの、いつものお節介が出ただけじゃない?」
ジュラが、エルフィの手を上から軽く叩く。彼女なりの慰めだろう。
「エルフィの姐さん、お嬢が不安がるので、あんまり怖い事言わんでください」
「パパ……浮気?グレイシャも、ポイされる?」

グレイシャが潤んだ目でハクロを見遣る。
「違いますって……そんな顔、勘弁してくださいよ……」
「はいはい、あとで、みんなでレオルを問い詰めるとして、早く行きましょう」
ミレニムがぱんと手を打ち合わせて、先を促した。
「ここで、開くよ」
リンが少しだけ入った暗がりで、左手を宙にかざす。
何もない空間が歪み、渦を巻いて幕が引かれるように奥の空間を露わにしていく。
その中には、村らしきものが見える。

「……これ、異界?……え、リンさん、術師なんですか?」
ミレニムの頭に、いつぞやの異界湿原が頭をよぎる。
「リンでいいよ、ミレニムさん……これは、次元収納だよ」
リンが、嬉しそうに話す。
「それに、私は人間……術師でもないし……ただの孤児だよ」
ありえない……
ミレ二ムの知る次元収納スキルは、こうではない。
彼女の知る最大量は、大きな露店の品物が全部入るかどうかだ。
建物が幾つも入るレベルは、聞いたことがない。まして、道や林を含んだ村まるごと入るレベルは……
それは、宮廷魔導士ですら行使できる範疇ではない。維持するだけで、魔力が尽きてしまう。
天賦の才能……そうとしか言いようがない。
「さあ、どうぞ私たちの村へ……」

「リンは盗賊に、この能力を悪用されていた。それを助けて欲しいと依頼を受けたんだ……」
レオル達は村の中を歩く。村の中に今のところ、人影は無い。
「……え、そんな依頼あったかい?……いつも、一緒に依頼みてたよね」
ジュラが、リンをこの村に入ってからずっと見ている。
何か気になることがあるのか、彼女の中を見通そうと目を細めている。
「護衛依頼の帰りに、さっきのダスクに個人的に頼まれたからな……ギルド外の依頼だ」
「そこで、リンや弟達を助けてくれと。リンは弟達を人質に脅されていたんだ」
リンが嬉しそうに、くるっと回る。
「そこを、レオルが助けてくれた……すごかった。壁越しに相手を不思議な剣術で、まとめてなぎ倒してさ……弟を人質にした奴を、目にも止まらない動きでアッというまに……カッコよかったぁ」
「……そのあと、私達に食べものや薬を持ってきて助けてくれた……感謝しかないよ。いつかレオルに恩を返すって、決めてたんだよね」
レオルを除く全員の視線が、それぞれの強さで彼の背中に突き刺さる。
勝手にヒトを助けすぎではないか、と。
後のことも考えて、行動をしてくれないか、と
魔族とバラせないのに、一体どれだけ関係者を作る気だと。
しかも、彼が魔族だと知ってる知らないで、身内の心配事の量に違いが出るのだから、そこのところは考えてもらいたい、という共通の思いがあった。
十分ほど歩いたあたりで、リンが2階建ての建物を指さす。
「あの家、空いてるから使って!掃除はみんなでしといたから、すぐに使えるよ」
「ありがとう、リン……そこまでやってくれたのか」「……ホロ達にも後で礼を言っておくよ」
リンの頭を少しだけクシャとする。
「今日は、それやらないでよ……せっかく整えたんだからー」
ててっと、後ろに逃げて舌を出す。
しかし、何処か嬉しそうにしている。
先ほど言っていた恩を返せる機会が来たことで、テンションが上がっているようだ。
それを横目に見ながら、ハクロがミレニムの横にそれとなく並ぶ。
「姐さん、このスキルレベルは異常です……国が知ったら、ほおって置かない、置けないでしょう……」
「……次元収納で、地平があるのは人の領域を飛び出していますよ」
ハクロが、二人にしか聞こえない声でミレニムに囁く。
「ハクロ、気付いてる?……空に、雲があって流れている……循環がある……」
「……これを自然に制御してるとしたら、ルミエルとかのレベルに、匹敵する……正直、お世話になる子に対して気が引けるけど、あとで『見て』おくから……」
ミレニムが、困った顔をしながらもリンの背中に視線を遣る。
無邪気にレオルに笑いかける彼女は、本当に何処にでもいそうな少女に見えた。
……胸に、チクリとした痛みを覚えた。

「レオルさん、お久しぶりです」
「……この間の薬、ありがとうございます……あれから、大分楽になりました」
レオル達が家の中で、荷解きをしていると色白の華奢な印象の少年がお茶を持って現れた。
レオルが駆け寄って、お盆を受け取る。
「ホロ、こんなことまでしなくていい」
「……まだ、本調子じゃないだろ……俺達は客じゃない、寝ていろ」
レオルは、後ろに寄ってきたエルフィにお盆を渡すと、ホロの前で膝をつく。
「動いてたほうが、調子がいいんだって……!」
そう言って、少年が少しだけ咳き込む。
レオルがそっと背中をさする。
「レオル、前に調合頼まれた薬って、その子のこと?」
「今、余りがあるけど、どうする?」
「頼む……ミレニム」
「ホロ、このお姉さんが、前に話していたミレニムだ。せっかくだから、少し診てもらってくれ」
ホロが、ミレニムの傍にゆっくり近づいてくる。
それが、人見知りか、病状なのか、まだミレニムには判断がつきかねた。
「ミレニム、お姉さん?……」
下から純真な瞳が見上げてくる。
「はう?」
ミレニムが、変な声を出して、胸を押さえる。
「ミレニム?どうした?」
ジュラが、ミレニムの顔を覗くと、心なしか赤い。
「い、いや……なんか、なんかね?ずきっ、ときたというか、なんだろね?」
「ホロくん、ちょっとみせてね……」
ミレニムは、五分ほど口の中を見たり、術で診察してしばし考え込む。
「ありがとう、あとでリンさんに伝えておくわ」
ホロに笑顔を見せたあと、近くの椅子に座って彼の運んできたお茶を手に取る。
……これは、私の薬だけではちょっとね……
ミレニムは軽く溜め息をついて、レオルと話し込んでいるリンを見遣る。
「……レオル、なんか良い匂いするよ……昼にいいもの食べたの?」
リンがいつの間にか、レオルの背後に近づいて髪のあたりで、まるで犬のように鼻をクンクンしている。
何か甘い匂いでもするのか、嬉しそうにしていた。
「なんか美味しいそうな匂いがするんだけど?」
「いや、あわてて出てきたから、特には……そんな匂いするのか?」
自分の袖に鼻を近づけて、レオルが変な顔をする。
「うん、する……時々、するよ」
「……なんか、レオルを無性に齧りたくなるような?……変だよね?」
「それは、流石におかしいよ」
ジュラも、レオルの傍で匂いを嗅ぐが、よくわからないという顔をする。
……ああ、今かな……
リンが、レオルやジュラと話して、こっちに注意が向いていない。
ミレニムが鑑定のスキルを立ち上げる。

種族 人間……
……次元収納 レベル?……読めない、無自覚なスキル隠蔽?
……大気操作 レベル4……そこそこ高い
……天候操作に外界リンク レベル2……高いのかどうか、分からない、と
……あれ、黒いスキル……賦活化していない
……剛腕に、神速!?
……それに、魔導王、剣王スキルが、そのスキルが活性化していないから、連結して黒くなってる……
……あと……
……見たことのない、スキル……ゆ……う……し、ゃ……
「……?」

その時のミレニムは、見たものが理解出来なくて、ぽかんとした表情をしていた。
ぼぉーとしたまま、お茶のコップを口に運ぶ。
……ゆ、う、しゃ……ゆ、うしゃ……ゆうしゃ
……勇者……!
「……!」
お茶を吹き出しそうになり、慌てて口を押さえる、ミレニム。
……ゆうしゃ、勇者!えっ、何その、物語にしか出てこなさそうなの……初めて見た!
そもそも、スキルなの?職業じゃなくて?!
……魔族の天敵、ルミエルと同じくストラス・システムを操る存在……!
「……なに、やっとんじゃ、貴様は?」

足元から影が立ち上り、少女の形をとる。
「……ゾラさん?無事だったの?」
こうやって面と向き合い、喋るのは初めてということになる。
かつては、世界樹をめぐって戦った敵ではあったが、レオルから事情を聞いて、ほんの少しその境遇に同情はしていた。
「……あんな人間ども、相手になる訳なかろう」
「……もう10人ほど来たが、同じように転がしてやったわ」
心なしか、得意げだ。
「……なんて、ご近所迷惑な……そういえば、はじめまして、ゾラさん。知ってるかもしれないけど、ミレニムです……協力感謝します」
「……やめい、あの家を借りているのは貴様であろうが。こっちは勝手に居候していた身」
「少しだけ、それを返しただけだ……で、なにをそんなに驚いておった?」
迷ったのも束の間、小声で見たもののことをゾラに説明する。
この古い魔族なら、少しはこういったことも知っているかもしれない。
「……そのスキルなら、見たことはある。かつて吾を捕らえた奴も、それを持っておったぞ」
「勇者……あれは、人間というより、強力な兵器じゃ……しかし、スキルが活性化しておらぬ、というのは……考えられる原因は、拒んでいるのだろうな、無意識に……」
ゾラが、おとがいに手をやりつつ、リンの方を見遣る。
「スキルを拒否?……この次元収納は、使いこなしているのに?」
「これも、勇者のスキルの一つ……なにか、理由があるの?」
ミレニムがゾラの方を見ると、目の赤光が一瞬だけ強まり、消えた。
何かをリンの中を探ったらしい。
「……あやつ、明るく振る舞っておるが、中身は相当に蝕まれておるわ……負の感情の色が、魂にこびりついておる」
「これまでの人生で碌な目にあっておらぬ証拠だ……おそらく、それが黒いスキルと関連しておるのだろうよ」
「負の感情?」
ゾラが、嫌なものを見るように顔をしかめている。
「……自分の周りの世界に対する強い憎悪、諦念、失望、悲哀……そういった類よ」
「あまり、見ていて気持ちがいいものではないが……まあ、吾やレオルにしてみれば、幸いなことよな」
「……何せ、勇者など何十年に一人、世界に出てくるかどうか、それがこのまま埋もれてくれれば、吾も枕を高く眠れるというものよ」
口の端を上げて、ミレニムの方に視線を寄越すが、ミレニムは笑えなかった。
あんな明るく笑うコが、そんな感情を抱えたままこの先も生きていく……それは……
何というべきか……
こんなことを、前は考えもしなかった……
……レオルの何かが、移ったのかな?……
少しだけそれを嬉しく思う自分がいた。
「あれ?そのヒト、さっきいなかったよね?」
リンが、ゾラに気付いてこちらに来る。
「ああ……こちら、ゾラさん、影に隠れる術が使えるの」
「さっきまで休んでいて、挨拶出来なくてごめんなさい」
ミレニムが、悪いとは思いつつも咄嗟にごまかす。
「そっか、私リン、よろしくゾラさん……あれ、ゾラさんからも、良い匂いするよ?」
リンが一度だけ、鼻をスン、とする。
「……気のせいじゃろ……」
『……ミレニム、こやつ、多分、魔族を嗅ぎ分けるぞ』
『まだ無意識だろうがな。だから、レオルに惹かれたかもしれん……自分の討つ相手を自動的に、探しているのだ』
ゾラの声なき声が、ミレニムに届く。
「……リンさん、ちょっといいかな?」
ミレニムが、リンを部屋の隅に誘う。
「なに、ミレニムさん?」
リンが、きょとんと顔を傾ける。
「ミレニムでいいよ……ホロくんのことだけど、魔素とか薬品の飛沫が飛びそうなところに、長くいたことあるかな?」
リンの表情が少しだけ曇る
「……ある、けど……王国の魔術研究所のゴミ捨て場で、そのお金になりそうなもの、みんなで探してた時期があったよ」
「……なら、それかも。私は専門じゃないから、確たる事は言えないけど、肺や喉に魔素の付いた埃や薬品の粉塵が入って、毒素が溜まっているかも」
「医者に診てもらって、治療してもらったほうがいいよ」
しばらく間が空く。
「分かった……ありがと、ミレニム」
にっこりして背を向ける、リン。
「今度、診てもらうから、さ」
声の中に、虚ろな響きがある。
孤児が診てもらう医者もお金があるはずもないことに、今更ながらに気づく。
……きっと、馬鹿なことをしてるのかも、でも……
「リン……話はもう一つあるの」
「あなた、自分のスキルが一つ活性化されていないのを知って……ったぁー!」
ミレニムの頭上に、ゾラがお盆を縦に叩きつける。
「何、バラしとんじゃ!寝た子を起こすなと言うたであろう!」

「吾程度は、本気で勇者にぶん殴られた日には、一発消滅よ!」
ゾラの本気の叫びで、この場の全員の注目が集まる。
「勇者、リンが?」
レオルが、リンの顔を見る。
リンの目が見開かれる。
「え、私が、勇者?……何、何のこと?」
ゾラが、しまったとばかりに背を向けて、宙をみる。
「リン、貴方のスキル、悪いと思ったけど見せてもらったの」
「勇者のスキルが、活性化していないけど、貴方の中に確かに存在してる……それを、王国に報告すれば、正式に雇用されて……」
「……そんなの、いらない」

「え、でも……」
リンの瞳が赤く燃える色に……染まってゆく。
「……いらないよ、ミレニム……今まで何もしてくなかった王国、物乞いやゴミ拾いをしてどんなに惨めになっても、少しも助けるどころか、汚水やゴミをぶっかける連中のいるこの国……が嫌い……」
リンの握りしめた拳が、テーブルに押し当てられ、ギシギシ音が響く。
「……何よりも、仲間が飢えて死んだとき、ホッとした」
「これで食べ物を探す手間が減ったって、少しでも喜んだ自分が、一番嫌い……大嫌い!」
テーブルが遂に、悲鳴のような音を立てて二つに割れて砕ける。
「……だから、勇者になんてならない!なってやらない!」
「……二度と、そんな話しないで!」
